おわりの日、はじまりの日


楽しかったクリスマスも終わり時は12月31日

大掃除も終わりみんな実家へと帰省している

妖館に残ったのはボクと渡狸、カルタたん

そして名前。

本当はボクも帰省する予定だったけど名前の事が気がかりで残った


野ばらちゃん達と帰ってきたあの日から名前は毎日夜の街へと出掛けて行った。

そーたん達と出会う少し前のような冷たい目をして出ていき

ちよたん達の想いが通じた日のように悲しい目をして帰ってくる


何をしているの?

なんで話してくれないの?

聞きたいことは山ほどあるけどそれは君の望む言葉じゃないと思うからボクはなにも言わないで知らないフリをする

「あだ名たーん!今日は大晦日だし年越しそば食べよーよ♪」

ラウンジで何か作業をする名前に後ろから声をかける

「…なに?」

振り向いた名前の手にはたった今研がれたばかりの刀

「刀とか物騒なものラウンジで研がないでよー!」

「あぁ、ごめん。」

名前はそう言うと刀をしまった


「………」

「………」


暫しの沈黙の後、

「お蕎麦…食べよっか。」

名前は不自然なくらい明るく笑って言った






「…年越しソバを食べるのも最後なんだ。」

名前が唐突に言う

「正確にはハロウィーンもクリスマスも最後だったかな。」

ボクは何も言わない

「みんなで行った海にはもう行けない、楽しかった文化祭もあれが最後、でも今年で卒業だからどうせ最後か…」

名前は瞳にうっすらと涙を浮かべていた

「…何が、言いたいの?」

わかっていながら聞くボクはずるい

信じたくなくて

君の口から否定の言葉を聞きたくて


「私、もうすぐ死んじゃうの。」

あぁ、やっぱりな

「正直年明けまで生きていられる保証はなかったし、いつまで生きられるかも私自身よくわかってない。」

大丈夫、ボクがいる

名前が死ぬ前にボクが絶対助けてみせる

「いつから私は弱くなったんだろうね…」

「…名前はいつだって強がっていたよ。妖館でそーたんに会った時も、ちよたんに対しても…」

「………。」

「それだけじゃない、レンレンや野ばらちゃん、カルタたんや渡狸、蜻たん…ボクの前でだって…」

名前の涙は止まる事を知らないみたいに溢れている



「…もっと、みんな…と…」

突然目を見開いたかと思えば身体を震わせ倒れこむ名前


「名前…名前!!」


ボクの声に気づきやってきたカルタたんに手伝ってもらって部屋へと運んだ。





「名前…早く起きてよ、死んじゃダメだよ…」

規則的な寝息が聞こえるうちはまだ大丈夫

「…大丈夫、あだ名ちゃんは死なない。だって夏目が傍にいるから。」

カルタたんを見れば特に心配をした様子もなく微笑んでいた

「あだ名ちゃんはすごく優しい子…大好きな人をおいて、さよならも言わずに死んじゃったりしない。」

カルタたんってこんなにまともな事をいうんだ、なんて場違いな事を思ってしまうぐらい彼女の言っている事は正しくて名前が倒れる事なんて頻繁ではないけれど何度かあったしその度に目を覚ました。


今回もきっとそうだ。

「…そうだよね。カルタたん、ありがと」

「うん、でも明日になっても起きなかったらおせち料理食べれないね…」

自分の事のように残念がるカルタたんに思わず顔が綻ぶ

「あ、あだ名ちゃんにお見舞い買ってくる…ついでに渡狸と一緒に食べるお蕎麦の準備も…」

「カルタたん、気持ちはうれしいけどもう危ない時間だから…」

「…肉まん、食べたい…」

ぐきゅるーっとお腹を鳴らすカルタたん

「…大丈夫、私強いから。」

爛々と輝いた目を見たらきっと誰も彼女を止められないだろう

「…はぁ、仕方ないなー」

スキップで出ていくカルタたんを横目に名前に言う


「…君は一人じゃないよ。」

早く起きて?

そしてあの言葉の先を聞かせて?

君の口から


『みんなと生きたい』

早く聞かせてよ、名前






それから10分ほどして

「カルタは?カルタはどこ!?」

やっと目を覚ましたと思ったらすごい剣幕で捲し立てる名前


「カルタなら買い物に行ったけどどうかしたのか?」

慌てて言う渡狸

「カルタ!」

おぼつかない足取りで玄関に向かう名前を残夏が止めた

「そんな身体でどこへ行くつもり?」

「カルタが…カルタが危ない!行かなきゃ、助けなきゃ!」

「それどういう事だよ?」

『危ない』と聞いた途端渡狸が反応する

「カルタが妖怪に襲われる!公園で!渡狸、行って!!」

「わかった!!」

渡狸が走って出ていった後

「カルタの姿を私に視せてよ…」

左目に手を翳し何度も呟く名前

「名前、病み上がりなんだしそのへんにしとかないと…」

「…大丈夫、もう止めるよ。それより残夏は渡狸のところに行って。SSでしょ?」

「…わかった。」

名前をおいていくなんてしたくないけど妖館にいれば安全だし、まずは渡狸を探さなきゃね


「残夏!」

玄関に向かおうとすると後ろから声がかかる


「…………気をつけてね。」

その目は今まで見たことがないほど真剣だった。


「わかってるって♪」

だからこそボクはおどけてみせるよ

君の心が少しでも和らぐように…





「視せて…視せてよ、なんで視えないのよ!」

ラウンジに響く声

私ってこんな声だったんだって思うぐらい私の心は身体から今にでも離れてしまいそう

「カルタを助けなきゃいけないのに!なにが天狐よ、なんの役にも立たないじゃない!」

誰に向けたわけでもない言葉

「視せて…視せてよ!」

ぬるっとした感覚が頬を伝う


「一応まだ視れるみたいね。」

ドクン、ドクンと波打つ左目に再度手を翳す



これが最後かもしれない。

「もう一生視えなくてもいい…ここで死んでもいいから…視せてちょうだい!」

増える出血

真っ赤な視界の中で声がする

「…まだその時じゃない、少し休め。」


まだ、まだなのよ

少し、すこしだけだから。

懐かしい声を最後に私は目を閉じた



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