瓶の中身は



「…ここは、部屋?」

目を開けると見慣れた天井が見えた

私は確か…


「っ!」

慌ててベッドサイドに手をのばす

「早くしなきゃ…」

「お目覚めですか?」

「誰!?」


ポケットの中のナイフを構え振り返る


「学校で倒れていましたので失礼ながらお部屋まで運ばせていただきました。」

「双熾…」


倒れる時に見えた青緑と金色はやはり双熾だったのか

「お薬をお飲みになるのですか?ではお水をお持ちいたします。」


御狐神の視線が手の中の瓶に移る


「あっ…そうね、お願い」



名前はラベルを隠すように持ち直した


「お待たせいたしました。」

「ありがとう、もう大丈夫だから凜々蝶の所に戻っていいわよ。」

御狐神に背を向けて薬を飲む


「いえ、お休みになるまでお側にいます。」


時計を見ると午前3時、ずっと眠っていたようだ

「本当に大丈夫だから、双熾はもう寝てちょうだい。」



御狐神はしばらく黙っていたが





「…ではご用の際はいつでもご連絡をください。」

そう言ってベッドサイドにメモを置いて出ていった


メモには彼の携帯電話

「…なんで、」


崩れ落ちた名前の手から大量の錠剤がこぼれ落ちた










「迎えにきたよー♪」




残夏が部屋を開けると規則正しい寝息が聞こえてきた


「あれー?まだ寝てるの?起きてよー♪」

ベッドを揺するが起きそうにない

「起きないならチューしちゃうよー?」


笑みを浮かべながら顔を近づける


すると、

「…なにこれ。」

残夏はベッドサイドに置かれた瓶を手に取った


「んっ、あれ…残夏?」

「あ、起きたー?おはよー♪」


残夏は瓶を戻すと言った

「そーたんが呼んでたよー、車で待ってるってー!」


残夏はそれだけ言うと部屋を出た







「…あの瓶。気になるなー。」

うっすらと目を開けると呟くように言った

「…まっ、いっか♪」









「おはようございます、起こしてしまい申し訳ありませんが少し手伝っていただきたい事がありまして…」

玄関を出ると御狐神が待っていた

ラウンジには誰もいなかったから凜々蝶達は学校に行ったのだろう


「いいよ、昨日はお世話になったし。」

御狐神が車の後部座席のドアを開けてくれ、そこに乗り込む

残夏は助手席に御狐神は運転席に座った


「残夏は運転しないんだ?」

前もそうだったけど、と言いそうになったが双熾がいたため言葉を飲み込んだ


「ホラ、ボク片目しか見えないし?渡狸は勝手に学校行ってくれるから車運転できなくても平気なんだー♪」

「…学校。」


残夏がまずいっといった顔をした

「着きました。」

御狐神が言う

着いた場所は学校だった


「昨日の事が見られてたら大変だからね♪あだ名たんにも視てもらおうと思って♪」


残夏は右目の包帯をとった

名前も左目に手をかざした

「さて、視えるかな…?」

「視えなかったら残夏の存在価値はどうなるの?」


「ひどい…」


そんな2人を黙って見守る御狐神


「…大丈夫、誰も写メなんかは撮ってないみたい。」

しばらくすると残夏が言った


「こっちも平気だよ。」


名前も言う


「良かった、握り潰さなければいけないところでしたね。」

「いやん怖ーい♪」

「双熾が言うと本気に聞こえる。」

「若者達の青春に幸あれってね♪」




車がゆっくりと走り出す






「…私も、学校行こうかな…」


ぽつりと呟いた一言が2人に聞こえる事はなかった。






「本当はね心配だったんだよ、そーたん。」

勝手に部屋に上がり込んできてくだらない事ばかり話していた残夏だったが急に真面目な顔をして言った

「どういうこと?」

「昨日倒れたばっかりでしょ?今日は野ばらちゃんもいないし、妖館にいて何かあったら困るから自分の目の届く所にいてほしかったんだって。」

「なにその過保護。」

呆れる名前に残夏は続ける




「それだけ君が心配だったんだよ。ま、そーたんは意外と照れ屋だから自分では言わないけど♪」




双熾が私を心配して…?

「そ、そんな事言われても別にうれしくなんかないんだからね!」


名前はペットボトルを開け中の水を飲んだ


「もーツンデレなんだからー♪」


残夏が茶化すように言った

「からかわないでよ!」

名前はベッドサイドの瓶に手を伸ばした




「ソレ、」

残夏が目を開いて言う

「中身、何?」







「え…水だけど…」




名前は最もらしく言うが目が泳いでいる


「わざといってるの?瓶の中身だよ。」

「それは…」

「言えないようなものなの?」


残夏は瓶に手を伸ばす

「ダメッ!」

名前は瓶を抱えると部屋の隅に逃げた

「…コレもそうかな?」

床に転がっている瓶を拾うと残夏は言った



「…法律をギリギリすり抜ける劇薬。なんでこんなものを飲んでるの?」

残夏の目に見透かされ名前は唇を噛んだ


「ボクの目で視る事は簡単だけど君の口から聞かせてよ。」


名前はゆっくりと口を開いた



「残夏の、言う通りだよ。」

残夏は眉間に皺を寄せた

「それは裏ルートで買い付けた劇薬、飲むと身体が軽くなるの。スピードもパワーも上がる。」

「…つまりドーピングだね?」

「ドーピングなんかと一緒にしないで、その薬は身体能力だけじゃない…痛覚を麻痺させ五感を鋭くする。」

名前の手は震えていた


「…代償は?」

「命、かな。本来あるはずの疲れや痛みを先送りにしているだけだからね。」

観念したのかベッドサイドに瓶を戻した

「わかってるならなんでこんな事するの?」

「私には時間がないの…すこしでも生きるためには飲むしかないのよ。残夏にはわからないだろうけど私は私なりに苦しんでるの…!」

吐き捨てるように言うと残夏は名前の肩を掴んだ

「わかんないよ。だから教えてよ…そんな事やめて自分の為に生きなよ。」

「…残夏、」

「もうずっと昔の話でしょ?もう解放されてもいいんじゃない?」





「…るさい、」

「え?」


ドンッ


名前は残夏を突き飛ばした

よろける残夏


「何も知らないくせに!私の事なんだから残夏には関係ないでしょ!口出ししないでよ、アンタとは他人なんだから!」


「…他人、か。そうだよね。」

残夏は寂しそうに笑うと部屋を出ていった




「わかんないよ…」

どうすればいいの?

残夏に酷い事を言ったのは事実


でも、




「薬を止めたら…」

私の身体は死んでしまう

一度闇に染まってしまえばもう白には戻れない




「まだ、終われない…」



名前は毒々しい色のカプセルを口に押し込んだ

prev next

[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -