隠し事


「ねぇ、」

朝早く、っといっても8時過ぎだが名前は珍しくラウンジにいた

「僕は今忙しい…って名前!?」

「忙しいならいいや。」

「いやっ、大丈夫だ。それより何か用か?」

何やら怯えている凜々蝶

「これ、今日お昼にカルタにあげて。」


名前が差し出したのはパンが入った袋


「それだけだから、じゃあ。」

「ちょっ、待て。」

「何?」

「君は学校には行かないのか?僕と同じぐらいに見えるが…」



ラウンジの空気が凍る

「ちよたーん、時間は大丈夫なのー?」

言葉に詰まった名前に残夏が助け舟を出す

「はっ、もうこんな時間!御狐神くん行くぞ!」

「はい、凜々蝶さま。」

バタバタと出ていく2人


「ありがとう、残夏。」

「気にしなくていいよー、」

残夏は名前の耳元で言った



「学校に行かないほうがうれしいよ、名前と一緒にいられるからね。」

「っ、馬鹿!」


名前は頬を染めて野ばら達に駆け寄った

「最近馬鹿って言われてばっかり、ウサギさん悲しい…」


泣き真似する残夏を名前は睨み付けた

「そうだ名前ちゃん、今日病院でしょ?ついていくわよ。」

「ありがとう、でも1人で…」

「1人で大丈夫、なんて言わないでね。私の事すこしは頼ってよ。」

「ボクも頼ってー」

「…ありがとう、野ばら。」

「あれ、ボクは?」


可哀想だけど少し満足そうなウサギさんでした。











「やはり、義足にしたほうが…」

医師の言葉に首を横に降る名前

「必要ありません、化かすのは得意ですから。」

「しかし、自分を騙しても後でツケが回ってきますよ。」

「私には時間がないんです。他は問題ないんですよね?」

「あぁ、右目も骨折も完治しています。」

「ではもう平気ですので、お世話になりました。」








「どうだった?」

帰りのタクシーに乗ると野ばらが聞いた

「足は治らないって、これからも幻術でなんとかするよ。」

「いくら幻術が上手くても身体に負担がかかるわ、SSを雇わないにしてもみんなに話しましょう?」


赤信号でタクシーが止まった


「ダメ、双熾と凜々蝶には話さない。」

「どうして?御狐神は昔名前ちゃんのSSだったんでしょう?」


少し間があいて名前は言った



「双熾は記憶がないし、今の主人は凜々蝶。私とはなんの関係もないもの。それに…」

「それに?」

「私のせいで双熾が死んだなんて絶対に言えない!」


信号が青に変わった



「名前ちゃん…」


名前は下唇を噛んでいた、涙を堪えるように。









「おかえりー♪」

ラウンジで残夏が出迎えてくれたが名前は素通りしエレベーターに乗り込んだ


「ごめんなさい、私が傷つけちゃったわ。」

「苗字さまはどうされたのですか?」


御狐神が近寄ってくる

「そーたん、彼女にちゃんと言ってあげなよ。”覚えてる“って。」


残夏が声を低くして言う

「なんの事でしょう?」

しかし御狐神はいつもと変わらない笑みを浮かべている


「…なーんだ、本当に覚えてないんだ。ゴメンネそーたん、今の忘れてー♪」

残夏はスキップしてエレベーターに向かう

それを御狐神が止めた


「覚えていない、と言ったら嘘になりますが知らない方がいいこともあります。”名前さま“には言わないでいただけませんか?」

相変わらずの笑みに残夏は戸惑う


「そーたんが言うならいいけどー名前の事傷つけるようならボク…怒っちゃうかもよ?」

「はい。」






ピリリリリリ

「はーい♪え、渡狸が?今から行きまーす♪」

まったくラスカルったら世話がやけるな

名前は…大丈夫かな。


部屋の前まで来ていたものの、残夏は引き返すのだった









わかってる

わかってるんだよ。

何のために双熾を探していたか

それは単純に双熾に謝りたいから

命をかけて守ってくれた双熾にお礼が言いたいから

でも、今まで転生した時代に双熾と会わなかった時

悲しかったけど安堵してる自分もいたんだ。


いつかは話さなければいけない

その”いつか“が近い内に来るのも事実で、


「…雲行きが怪しい。」

今日こそアイツに会えるかもしれない



「この間の借りは、返さなきゃね。」


名前は左目に手を翳した








左目を通して見た妖怪は誰かと戦っていた


「凜々蝶、卍里!」

階段をかけあがり廊下に出ると窓に叩きつけられた凜々蝶と卍里、
それに…


「カルタ!2人はまかせた!」


こくりっ


カルタが頷いたのを確認すると濡れ女に斬りかかった

「アイツじゃない、またハズレか…」

凜々蝶との戦闘で傷を負っていたらしくすぐに倒れる濡れ女


「ハァ、…悪いけど私は容赦なんてしないから。死んで。」

濡れ女の心臓めがけて刀を降り下ろす



あたりが真っ赤に染まった

濡れ女から刀を抜くと窓の外を覗く

3人共無事なようだ



「帰ろう…っぁ!」

視界が霞む

今日は薬を飲むのを忘れていた

幻術に、身体がもたない…

膝から落ちる私の肩を抱いたのは




「そう…し…?」



寂しそうに微笑むオッドアイだった。

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