( ほっといてください、後輩です )



俺のことは認識しなくて結構です。


前から零原さんのせい……おかげでフリーダムだった屋上がさらにフリーダムになったのは一ノ瀬というやつが出入りするようになってから。

「あー誰か鳥になんねーかなあ」
「赤城あたりなんだろ」
「なんねーよばっかじゃねえの!」

なんて言いながらあぐらをかいて相変わらずゲームをやってる零原さんの周りをぐるぐると側転しているのが一ノ瀬である。前転と後転はコンクリートの上では痛かったらしい。

一ノ瀬は一年の間でも有名だ。会話のできない男。痛みを感じない男。だから前転と後転で痛がってるときは夢かと思った。そんでイケメン。一ノ瀬をみてるとどうやって今まで生きてきたんだろうと思う。で、実は一ノ瀬が屋上にやってきたときに俺もいた。一部始終をみていた。摩訶不思議だった。

一ノ瀬は屋上に入って来たかと思うと一番入口近くにいた奴をぶん殴った。どちらかというと華奢な方のはずなのにそれでも殴った相手をかなりぶっ飛ばした。

一ノ瀬はぶっ飛ばしたくせにすげー悲しそうな顔をした。俺はみた。一ノ瀬の口が「虫以下だ」と動くのを。動いただけなのでなんとなくの判断だ。決して俺が殴られた奴をそう思ってるわけではない。決してだ。一ノ瀬はそれからふらふらと歩き回る。もともと意味不明な奴の奇行に俺たちは呆けてしまった。しかし我に返ったひとりが一ノ瀬を捕獲しフェンスにつなぐ。一ノ瀬はそれを抵抗するでもなく受け入れた。つながれた一ノ瀬の目は俺らを透かして全く違うものを見ているようだった。

無機質だ。

多分誰もが思って誰もが恐れた。だから俺も言わなかった。一ノ瀬が殴られたり蹴られたりすんのをみていた。一ノ瀬はずっと殴るやつをみていた。全然効かないんだけど、と目で訴えていた。どんなに血を流そうとそれは変わらなかった。

そんな一ノ瀬をつないだまま屋上を離れたことをこんなに後悔するとは思わなかった。まさか零原さんが一ノ瀬をペットにするなんて思わなかった。

「れーちゃん、鳥になんない」
「なるわけねーだろ」
「うそつき」
「おまえらばっかじゃねえの!もうやだ!」

赤城さんも律儀に相手してる。一ノ瀬だけじゃなく零原さんも赤城さんをシカトしてんのに。ほっとけばいいのに。この屋上には一ノ瀬を殴ったやつもいる。なのに怯えてんのはむしろ殴ったやつらだ。零原さんに怯えてんじゃない。一ノ瀬に怯えてる。得体の知れないもんが怖いからな。でも一ノ瀬はもう忘れてると思う。興味ないもんはすぐにぽいだ。

赤城さんの服を剥ぎ、背中に鳥の羽をくっつける一ノ瀬はまじ不気味。それをスルーする零原さんも不気味。だがまともなはずの赤城さんがへたれて見えるのはなぜだろう。

そして一番哀れなのは羽をはがれた鳥だと思う。

俺のことはすぐに忘れてくれ。巻き込まれたくない。



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