( それが始まり )



「なんでこんなことになったんだろ」

一ノ瀬祐樹は呟いた。屋上のフェンスにもたれながら今にも雨が降り出しそうな曇り空に向かって。一ノ瀬祐樹はばかだ。テストができないバカであり、日常生活にも支障がでるレベルでのバカだ。今日もなにを血迷ったか不良のたまり場だと言われる屋上に思いつきで出向き見事にフェンスに繋がれ殴る蹴るの暴行を受けてからの放置プレーである。一ノ瀬祐樹はバカなのでケガをしても気付かない。命に関わるレベルで。

「あれ、君ひとり?」
「雨をまってます」
「ん?」
「母ちゃんに怒られる」

話しかけてもこの調子なので一ノ瀬祐樹はひとりなのである。本人は気にしていない。

「お母さん?」
「いや、父ちゃん」
「んん?」

一ノ瀬祐樹はそこで初めて目の前に男が立っていることに気がついた。

「イケメン」
「俺のこと?」
「その髪いいなー」
「染めたげよっか?」
「雨ふるまえにお願いします」
「じゃあおいで」

男は一ノ瀬祐樹をフェンスから引き剥がしその手をひく。一ノ瀬祐樹の手は男がむりやり引き剥がしたせいで血まみれだ。

「俺、零原桐斗。忘れたらぶっ殺す」
「れーちゃんね、りょーかい」

それは一ノ瀬祐樹がはじめて高校で覚える名前となった。



「れーちゃん、なんかちがくね?」
「一緒一緒。色が違うだけで一緒」
「おかしくね?なんでれーちゃんみたいなきんいろじゃなくでどぶみたいな緑色になってんの」
「だいじょーぶ。そのうちきんいろになるから」
「まあこれはこれでかっけーかなあ」

場所は移動し零原桐斗宅。そのまま自宅へ連行し髪を染めてあげたのだ。思い立ったら即行動。零原桐斗のモットーである。もちろん最初から同じ色にするつもりなんてなく、面白そうだから緑色にしたのだが思いのほか似合ってしまっている。よくみると整った顔立ちをしているではないか。さっきは殴られた直後だったのと血でよくわかんなかったが。

「れーちゃん、アロハだねぇ」
「そうだね」

ふたりは天井をみてぼうっとしている。会話のようで会話じゃない。お互い宙に言葉を吐き出しているだけなのだ。

「かき氷かなぁ」
「あいつぶっ殺そう」

ふたりはこの日から連むようになった。



すすむ #

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