( 梅酒のうまさを知ったこの頃 )



「赤城さん、今日はなにしてんすか」
「みてわかんねぇ?」
「わかんないすね」
「梅酒をつくっている」
「楽しいすか」
「楽しそうにみえるか」
「ええ、一ノ瀬さんは」
「そうだろうな」

今日は雨。屋上の下にある空き教室に全員集合。その場所は零原信者が掃除しているので常にきれいというありがたい設定。そこでおっきい口の瓶を膝に抱えた一ノ瀬と、その瓶にへたをとった梅をひたすら入れ続ける赤城。その横で零原は一ノ瀬にもたれかかりゲームをしていた。

「れーちゃん!おいしいのつくるね!」
「あーそー」
「……………」
「赤城さん、器用すね」

一ノ瀬はキョロキョロしながら部屋を見回す。意味はない。赤城はもくもくと手を動かす。意味はない。青柳はなんでこんなことになってるんだろうと疑問に思った。

「一ノ瀬さんは零原さんのためにつくってんすか」
「さあ」
「雨だねー。れーちゃん相合い傘しよーね」
「くっそ、死ね!」
「えっ」
「死んだの俺か!くっそ!」
「すげー。一ノ瀬さんがそんな顔すんの初めてみた」
「俺はなんでこんなことしてんだろ」
「拒否ればいーじゃないすか」
「こいつにナイフ持ちながら言われたら断れねーよ。抉られそう」
「……ああ、はい」
「れーちゃん、あと少しだよ」
「梅酒は放置しねーとできねーよ」
「ですね」
「俺が梅酒でれーちゃんが傘ね」
「きけよ」
「零原さんが梅酒すきなんすか」
「いや、別に」
「こいつ酒飲まねーよ」
「え!じゃあこれ誰飲むんすか!」
「さあ」
「さあって」
「また死んだ!なんでだ!」
「童話みたく梅落として歩こうかなぁ」
「つーか漬ける酒ねーし」
「…………」
「よっしゃざまあくたばっちま、ああああ、卑怯!卑怯すぎる!」
「わ、れーちゃん!」

零原が一ノ瀬にのしかかり、瓶から梅がごろごろと転がり、床に広がる。

「ほんと、なんでこんなことしてんだろ」

赤城のため息と零原の絶叫と一ノ瀬の奇声と青柳の無言の空間。



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