私はサファリゾーンへでも来てしまったのだろうか。目の前に広がっているのはカオス状態である。


せんぞうを毛づくろいしてくれる立花さん。

もんじろうと力比べをしている潮江さん。

中在家さんの縄を素早くかわす練習をしてるやたらすばしっこいちょうじ。

こへいたの首から滑り台のように何度も滑り降りる七松さん。

いつも通り穴に落ちていさくに救出される善法寺さん。


そして縁側で大の字になって昼寝しているとめと食満さん。


なんというか、カオスである。



「お茶が入りましたよー」

「…翔子……もそ………」
「いえいえ、中在家さんもちょうじと遊んでくださってありがとうございます。」


今日は珍しくみんながみんな六年生の皆様と遊びたいと言っていたのだ。いや、そこまで心を開いてくれたのは嬉しいんだけど、あの人たち今授業中だから邪魔しちゃダメ。と言えば放課後まで大人しく待つ!と急におとなしくなった。クソっ、皆素直で良い子になりやがって…!


こへいたと七松さんの一件があってから、みんな完全にこの忍術学園の人たちに心を許したようだ。ちょっと前の学校がお休みの日なんか、全校生徒に集合してもらって、私の仲間たちと遊ぶ企画を私が開催した。丁度六年生のみなさんはお出かけ?忍務?に行っていて遊び相手がおらず、みんな退屈をしていたので丁度良かった。


最初は「暴れないだろうか」とか「怪我をさせないだろうか」とか考えてたけど、とめさんは真っ先に富松くんへ飛びき、富松くんと一緒に他の生徒の子と一緒に遊んでいた。綺麗な毛の色をしているしとめさんは猫という生き物にそっくりだ。一番見慣れている形だからか、富松くんの肩の上で撫でられまくっていた。

せんぞうは美しい羽に全員が魅了されたが、背中に乗りたいと申し出る子はいなかった。言えば乗せてくれるよ?と言っても、恐れ多いの一言でやめていた。そうか、鳳凰という生き物がいてそっくりなんだもんね。乗るわけにはいかないか。せんぞうは乗せる気満々だったのに。せんぞうに一番興味をもっていたのは一年い組のみんなだったかな。

そしていさくだが、一年ろ組のみんなと木の陰でまったりしていた。ろ組の皆は、その、失礼な言い方かもしれないけど、影が暗い。なんというか、ゴーストタイプだ。いさくはみんなと一緒にいるのが心地よいのか、あまり日の下には来なかった。だけどろ組のみんなの髪の毛をいじって楽しそうだったし、そっちに遊びに行った子も何人かいたし、まぁ、よしとしよう。

一方こへいたは大人気だった。真っ赤な龍が口から水を吐きまわりにいた子たちをビショビショにしていたのだ。こらー!と叱りそうにはなったが、その日はかなり気温が高く暑かったので周りに居た子は大喜びだった。一番テンション上がってたのは一年は組のみんなだったな。よく怖がらずにこへいたに抱きつけるもんだ。耐えられなくなったは組のみんなはこへいたを水練池へと誘導し一緒に泳いでいた。今度ここから一番近い海があるみたいだから連れて行ってあげよう。

それから、もんじろうは比較的上級生の人に人気があった。上級生のみんなは乗馬の心得があるらしく、もんじろうの背に乗りたがり順番待ちをしているような状態だった。が、全員もんじろうのスピードについていくことは出来ず、途中で落下する子がほとんどだった。最終的に誰がもんじろうにしがみついて200mトラック一周を耐えられるかという勝負をしていたのだが、唯一最後まで振り落とされなかったのは五年い組の尾浜勘右衛門さんだけだった。まさか両手を離して戻ってくるとは…!(だがブーイングの嵐だった)

あ、ちょうじはずっと私の側を離れませんでした。遊んでくれる人はいたけど、やっぱりちょっと恥ずかしいみたい。私が抱っこして、みんなそれを撫で撫でしにきてくれた。事務の小松田さんにうっかり放電しかけたときはちょっと危なかった。「この人がいつも翔子に迷惑かけてる人?」って……そんなこと覚えんでよろしい!!!


結局その日は六年生のみなさんは夜遅くに帰還し、この日の出来事はまだ興奮冷めやらぬ後輩のみんなにその事を知らされたのだ。私たちも彼等と親睦をもっと深めたい。そう先日の夜言われ、次の日の休みの日は一日一緒にいてくださいと頼んだのだ。


そして、冒頭に戻る。

今はお昼過ぎ。お昼ごはんを食べ終えサンサンと太陽が照る下で親睦を深めていた。バッグからポロックを出しみんなにもおやつを与える。


「それはなんだ?」
「これがみんなのおやつです!ポロックといいまして」
「…饅頭以外も食うのか」
「そりゃそうですよ。潮江さんの手からあげてあげてください」
「お、おう」

もんじろうはからいポロックが大好きだ。でも食べ過ぎないように3つだけ渡した。

「いやー、それにしてもここまで仲良くなっていただけるだなんて」
「良かったではないか。下級生とも仲良くなったんだろう?」
「えぇ、せんぞうは凄い崇められてましたけど」
「…そのことなんだがな、その」
「どうしました?」

せんぞうにしぶいポロックを手渡しで食べさせる立花さんの口がごもる。

あ、もしかして

「せんぞうの背中に乗りたいんですか?」

「な、私は!」
「大丈夫ですよ、せんぞうならもう立花さんに心開いてますし」

ねー?と首をかしげると「当たり前だ」と言い私たちに背中を向けた。立花さんの手を引き羽の付け根に足をかけるよう指示し、しっかり付け根を握らせた。

「お、おい翔子」
「いいかいせんぞう、立花さんを落っことしちゃダメだからね!」
「!」
「それから、雲の下は飛んじゃダメ。どこかであんたを見てる人がいるかもしれないから、一気に雲の上まで行ってそこで遊びな?」
「!!」

「じゃ、立花さん、お気をつけて!」
「おい!待て!」
「大丈夫です!せんぞうの飛行は超気持ちいいですから!」

そういうやいなやふわりと地から離れ、凄いスピードで空へと飛んだ。それと同時に聞こえなくなる立花さんの声に私は笑みをこぼした。

「すごいな!せんがいれば移動なんて楽ちんだな!」
「もちろんこへいたも海を何処までも泳いでくれますから、凄くいい子ですよ」
「そうか!よーし!水練池へ行こう!また私と競争だ!」
「!」
「今度は負けないぞ!イケイケどんどーん!!」

ジュンサーさんのバイクぐらいのスピードで消え去る七松さん。あの人は本当に人間なのだろうか。モンスターボールに入れておいたほうがいいのではないだろうか。

そんな七松さんを見送る私を「なぁなぁ」と背中からぐいぐい押すのはもんじろうだった。よしよしわかったわかった。


「潮江さん、もんじろうが潮江さんを乗っけて走りたいと言ってますが」
「は!?」
「おぉ、いいじゃねぇか。文次郎はそこそこ乗馬が上手かっただろう」
「と、留三郎テメェ!」
「ちなみに、もんじろうの背に乗ってグラウンドの200mトラックを落ちずに耐えられたのは、五年生の尾浜勘右衛門さんだけです」
「……ようし!受けてたとうじゃねぇか!翔子!これ預かってろ!こい!じろう!」

潮江さんのもんじろうの呼び方の面白さと言ったら。

さっきまでもんじろうと力比べをしていた潮江さんは上着を脱ぎ頭巾を外し、私に預けてもんじろうへ跨った。


「…なぁ、翔子…」

そして不安の色が出る顔。そう、あの時も皆同じような顔をしていた。

「ええ言いたいことは解ってます。残念ながら、手綱はありません」

「なにィ!?」
「はい潮江さんこれお金」
「は!?」
「さぁ行けもんじろう!山2つ越えてこの間の美味しい饅頭屋でお饅頭買ってもらってきなさい!」
「!!」
「ちょっ、ちょっと待て翔子!」
「大丈夫です!出門表は出しておきましたし買い物している間はもんじろうは山の中に隠れるようにさせます!」
「そういう問題じゃ


ない、と言う頃にはもう塀を乗り越え、潮江さんともんじろうは山へと姿を消した。あー、饅頭と聞いてもんじろうさらにスピード上げたな。あれ潮江さん落ちるわ。

せんぞうが消え、こへいたが消え、もんじろうが消え、残ったのはちっちゃい子と三人だった。あー、やっと静かになった。

まったりして縁側に座り込むと、「ねぇ、」と善法寺さんが困ったような声で話しかけてきた。なんでしょうと後ろを振り向くと善法寺さんのお腹にぐりぐりと頭をこすりつけるいさくの姿。なんだどうした。

「いさくどしたー?不機嫌かーい?」
「…!」
「何?何?なんだって?」

「あー、……いさくが『乗っけてあげたり空飛んであげたり泳いであげられなくてごめんねー』って嘆いてます」

あととめもちょうじも同じようなこと言ってます。といえば膝の上にいる他の二匹も小さくうつむいているのを確認した。


「なーんだそんなこと?僕は、さくちゃんが僕のこと大好きでいてくれるならそれだけで嬉しいよ?」

「そうだぞ、こんな世話しない世界で、お前らにどれほど癒されていることか。」

「そんなに…気を使わなくていい………」


ありがとう



そう言って頭を撫でてくれる三人に、三匹は喜んで飛びついた。あー、平和だ。あの三匹と違ってこっちはこっちで癒される。


そよそよと生温い風が流れ、平和な時間を過ごす。

そういえばこいつら皆さんと力比べとか手合わせとかしてるからなんか徐々に経験値溜まってるのが気になる。私の仲間にはレベルが上がって進化する子はいないから大丈夫なのだが、そういえばいさくがそろそろ進化してみたいとか言ってたな。やみのいしは持ってる。いつ進化させてあげようかな。

ふと空を見上げるともう満足したのか、空から降りてくるせんぞうの姿が目に入った。目を輝かせてせんぞうに抱きつく立花さん可愛い。あなたクールじゃなかったんですかと問いたい。

その後続々とびしょびしょになった七松さんが戻ってきたり、余裕だったと饅頭を抱え手を離してもんじろうの背中に乗る潮江さんが戻ってきた。



あらあらせんぞうももんじろうもスゲェ笑顔だ。満足したかい。



よーし、お饅頭も来たしお茶を再開しましょー。












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「あー、平和だねぇ……」
「…♪」

「そういえばさー」
「?」

「…とめさん……ちょっと肥えたよね……」
「……!?」
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