「さてさて………此処は、何処だろう」


突然ですが、翔子は絶賛迷子中です。















「ひょうごだいさんきょうえいまるさん?」
「そうよ。その人のところへ行って、お魚貰ってきてくれないかしら?」
「はい、いいです、けど、……誰ですか?」


今日の晩御飯はお魚の塩焼きの予定らしい。でもその肝心のお魚を昨日貰いに行くのをすっかり忘れてしまっていたのだという。

と、いうわけで、今日の分の仕事を終え暇を持て余した私に、食堂のおばちゃんからお使いを頼まれたのだ。地図を貰って道もなんとなく教えてもらって、とりあえず地図どおりに歩いている。はずなんです。

だが、迷子である。


「いやー…まさか、崖に出てきてしまうとは…」


とめさんは出発前、ヘムヘムと庭で昼寝をしていたのでそのまま学園長先生に預けてきた。みんなまだ授業中だったし、食満さんに預けるのも迷惑だもんね。いい子にしててくれよぉ…。

魚を貰ってきて、ということは、漁師さんかな。崖に出たとはいえ目の前に広がるのは壮大な海。ってことは海岸でも探せばどっかしらで情報ははいるかな。なんかもう地図も意味なくなってきた。神崎くんを見習って「こっちだー!」って走り出せればいいのに。


「さて…」

どっちに行こう。


「お?」
「ん?」


くるり


声が聞こえて後ろを振り向くと、いかついお兄さん。うわおでこの傷大丈夫ですか痛そう。
ちょっと眼があって、波の音が耳に入る。潮風になびかれるお兄さんの茶色い髪の毛が揺れた。

「…お嬢ちゃん、どっから来たの?」
「あ、えっと、」
「へぇ、可愛いね」
「え」

うさんくさい笑顔で近寄ってくるが、後ろは崖。あれ、逃げ場が無い。どうしよう。

「あれ、近くで見ると本当に可愛い。大当たりだ」
「あの、」
「こんなところで何してんの?まさか自殺じゃないよね?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!!」
「だよねぇ。で?何処の子?向こうの町の子?迷子?じゃぁお兄さんとちょっと遊ばない?」
「うぇっ!?」

返答させる暇もなく、お兄さん質問攻め。そしてするりと腰に回される腕と顔を撫でる手にぞわわと鳥肌が立つ。お、お兄さん近い近い!!あ!でも泣き黒子なんかエロイ!でもその笑顔うさんくさい!!!



そして、腰に回された手から、カチリと鳴る音。

あ、そういえば行き先海だから、こへいた連れてきたんだった。



シュパッと光ってザバン!と大きな音がする。崖の影から出てきたのは、


「はぁ!?りゅ、龍!?」


うわああああやっぱりこへいただったぁあああ!!しかもこれちょっと怒ってるぅうううう!!!!!

「おい義丸!こんなところで何しt…ってぇ!?」
「ぎゃああああああああああ!!龍だあああああああああああああああああ!!」

「か、蜉蝣のアニキ!疾風の兄ィ!龍だ!!龍が出た!!!」


ギャァァァァアア!!

「うぉっ!?」
「ぐあぁつ!」
「うおお!?」

「落ち着いてこへいたダメだって!!ハイドロポンプやめなさい!!!」

「「「ぅおおお頭ああああああああああ!!!!」」」























「そうか、忍術学園の新しい事務員さんてのはあんたのことだったのか」
「すいませんすいません本当にうちのこへいたがすいません」
「いや、小屋に戻れば着替えがある。そんなに落ち込むんじゃねぇ」
「そうそう、元はといえばうちの義丸があんたに手ぇ出すから」
「いやだってこんだけ可愛かったら…」

「…」

「ヒィッ!?」
「こへいた睨むのやめなさい!」


どうやら私にナンパしてきた義丸さんをはじめ、こへいたを見てビビッてた疾風さんと蜉蝣さんは、私が捜し求めていた「兵庫水軍」という漁師さんらしい。今は町へ買い物の帰りで、義丸さんがいなくなったので探していて、ここへ遭遇してしまったと。
なんだ義丸さんも迷子か。

「で、翔子。こいつは一体なんなんだ…」

蜉蝣さんは極度に陸酔いが酷いらしく、そろそろ吐きそうだと言っていたので今は上機嫌で海を泳ぐこへいたの頭の上にいる。よかったね広い場所で泳げて。

この道沿いに行けば兵庫水軍の皆様がいるらしい。すいません道案内してもらっちゃって。


「あぁえっとですね…」


「翔子ー!ここにいたのか!」
「あれ?七松さん?」

「翔子さーん!」
「僕等もー!」
「来ちゃいましたー!」
「エーフィ!」

「あれー!猪名寺くんに摂津くんに福富くん!それにとめさん!もう授業終わったのー?」


山の中から顔を出したのは、とめを頭に乗っけた七松さんと、一年は組の猪名寺くんに摂津くんに福富くんだった。どうやら海に行ったという私の話しを聞き、七松さんが追いかけてきたらしい。それを知って猪名寺くんと摂津くんと福富くんもついてきたとか。昼寝から目覚めたとめさんも。

「こへー!会いたかったぞー!」
「!!!」

七松さんの頭からとめさんは私に飛びつき、七松さんはこへいたに飛びついた。

「あ、疾風さんこへいたから降りたほうが良いです」
「何でだ?」
「こへいたが七松さんと海泳いでくるって言ってるので」


疾風さんがこへいたの頭から離れ、こへいたと七松さんは海へと姿を消した。まぁ七松さんだし死なないよね。大丈夫。

「ちょっと変わった私の仲間です」

そう言って私と猪名寺くんと摂津くんと福富くんは手を繋ぎ、呆然とする義丸さんともうそろそろ吐きそうな蜉蝣さんとそれを支える疾風さんで道を急いだ。














「うおああああああ龍が出たあああああああああ!!」
「お、お頭!!船の向こうに真っ赤な龍が出た!!」
「なにぃ!?!?石火矢で追い返せー!!!」

「うわああああやめてくださいやめてください!!私の仲間なんですやめてください!!!」

「お頭あああ!!そいつは撃っちゃダメですぜ!!」
「そいつは殺さないでやってください!!」
「翔子ちゃん急いで急いで!!」

あそこがそうだよ、と義丸さんに指差され視線を向けると、海岸にいるのはこへいたと七松さんと、完全に敵意丸出しの兵庫水軍の皆様だった。慌てて止めに入り兵庫水軍の皆々様に事情を説明した。というかは組の三人が必死になって説明してくれた。ポケモンという存在のことや私が異世界の人間だということまで一気にぶわっと喋り倒し、理解の早い兵庫水軍の皆々様方は石火矢をおろした。

「ありがとうね猪名寺くん…」
「いえ、翔子さんも大変ですね…」

「そりゃそうだ、翔子さんは全然違うとこの人間なんだから」
「心遣い痛み入るよ摂津くん…」

「翔子さぁん、もうお腹空いたし帰りましょうよぉ」
「そうだね福富くん、早く帰らないと晩御飯に間に合わないもんね」


くいくいと袖を引く福富くんの頭を撫でて、海のほうへと目を向けた。

今こへいたは兵庫水軍の皆さんと海で遊んでる。義丸さんもうそこまで仲良くなったんですか。さっきまで敵意むき出しだったのに。

網問さんという方と白南風丸さんという方、それから兵庫第三協栄丸さんという方(この人がお頭さんか)に大きな網に魚を運んできてもらった。


「はい翔子ちゃん!此れで全部ね!」
「網問さん、ありがとうございました!」
「いいえ!じゃ、その!俺も、あいつと遊んでくる!」


興奮したままこへいたの方へダッシュする網問さん可愛すぎでしょう…。

「翔子、今回は大量だったからな!これ全部持っていっていいぞ!」
「お頭さんもありがとうございました!遠慮なくいただきます!」

網の上でキラキラ輝く魚の鱗の輝きといったら!本当に美味しそう!お腹減った!


「ところで、網なんかでよかったんですか?言えば台車ぐらい貸しましたけど」
「大丈夫です白南風丸さん、力持ちの仲間がいるので」

いつの間にか白南風丸さんの足に移動していてすりすりとすりよるとめさん。白南風丸さんも優しいから質問しながらもとめさんの頭を撫でてくれていた。


「せんぞう、これ忍術学園まで運んでくれる?」


それぐらい任せろと言わんばかりに羽を広げ足で網を起用に掴んだ。鳳凰という存在だと思い込んだ兵庫水軍の皆さんがざわつくが、またあの三人が説明してくれて事はすぐに収まった。


「猪名寺くんに摂津くんに福富くん、せんぞうの背中に乗って先に学園に戻ってていいよ」
「「「わぁい!」」」

「とめさんは?」
「エーフィッ」
「そっか。じゃぁとめも先戻ってな。悪いんだけど摂津くん、とめさん落っこちないように抱っこしててもらっていい?」
「お安い御用ッス!」

三人ととめさんはテンション高めにせんぞうの背に乗り込み、「よろしくね」と声をかけてせんぞうは山に沿い低空飛行で学園へと先に戻った。










「おーい七松さーん。そろそろ帰りませんかー」


「おう翔子!こへ!そろそろ帰るみたいだぞ!いけいけどんどんで帰ろう!」
「♪」








よかったね、大好きな七松さんと海で泳げて。


あー気持ちいい潮騒だなー。









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「お残しは、許しまへんでー!!」

「「「「いただきまーす!」」」」



「え?兵庫水軍さんて海賊なんですか?」
「え?知らなかったんですか?」
「いやぁ…てっきり漁師さんかと……」
「まぁ殆どそんな感じですけどね」

「エーフィ!」

「お、とめも魚食うか」
「あぁすいません食満さんわざわざほぐしていただいて…」


晩御飯、凄く美味しかったです。
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