「こ、こいつは龍じゃないか…!」
「ギャラドスといいます。こへいた久しぶり!」
「い、いくらなんでもデカすぎだろう……!」
「6mありますから。多分七松さんの大体五倍はあるでしょうね」
「ごばい!?!?!?」


この近くに海はないかと聞いたところ、海までは少し時間がかかるが、水練池ならあると教えてもらった。その水練池という場所に連れてきてもらい、そこでこへいたをお披露目した。


こへいたの正体は、『赤いギャラドス』。


『いかりのみずうみ』の主の如く君臨していた赤いギャラドスである。

かつてはこへいたは普通の青いギャラドスだったらしい。だが、チョウジタウンにあるロケットだんアジト、そのロケットだんがチョウジタウン周辺の電波を妨害したため、こへいたは突然変色しこの姿になったという話を聞いた。



だが、一説によると、こういう話もある。



昔々、食糧難に陥っていたある漁師たちは、あの湖でコイキングを必要最低限の量を捕獲し食べていた。
食べ終わったコイキングの骨を綺麗にしてまた湖に戻す。それを繰り返していた。自分の命となってくれたコイキングへの最低限の感謝の気持ちを込めて。コイキングたちも、食糧難な人間を助けるため、我が身を差し出していた。

しかしいつからか、その漁師たちは必要以上にコイキングを獲っていった。コイキングを捕まえ食べる。それが当たり前のようになってしまっていたのだ。

湖のコイキングは、人間たちに絶望し、怒りを覚え、ギャラドスへと進化を遂げた。そのギャラドスたちは漁師たちを食らった。その返り血により、あの湖に居たギャラドスは赤くなったのだと。

残ったその一匹が、こへいただった。

これが「怒りの湖」の名の由来、そして、何故こへいたが赤いのか。


こっちの話を知ったのは『いかりのみずうみ』にいたおじいちゃんから聞いた話。
もしかしたら後者が事実で前者が嘘かもしれない。それとも、前者が事実で後者はただの伝説かもしれない。

でも、赤いギャラドスなんて滅多にいるもんじゃない。もし、この話のどちらかが本当だったとしても、こへいたは人間に恨みを持ってしまっている。

こへいたは、いかりのみずうみのチョウジタウンの町の人から、「恐ろしくて湖に近寄れない」「あいつがいる時はあまごいされるので困る」「子供が近寄ったらと思うと…」などの声を聞いて私から近寄った。

そんでもって私の命がけの説得により、私の仲間となってくれた。あの時は本当に大変だった。なみのりの出来る子で奥へ進んでその子に何かあったら困る。私は自力で泳いでこへいたのもとへと向かったのだ。噛み付かれるわ尻尾ではじかれるわ、最終的にはハイドロポンプで飛ばされたこともあった。

でも、めげなかった。
チョウジタウンの皆が困ってるし、何しろ、この子も私の仲間と同じなのだろう。だったら放っておくわけにはいかない。



『いい加減にしなさい!もうこの湖には昔の漁師もいないし、ロケット団も私が撃退したわ!これ以上ここで暴れて何になるの!チョウジタウンの人たちに迷惑をかけているだけだってなんで解らないの!いつまでそうやって暴れれば気が済むの!

もう終わりにしよう!もしよかったら、私と一緒に旅をしよう!こんな湖じゃなくて、もっと広い海にでも連れて行ってあげる!ね!こんなのもうやめよう!』




いやぁ、あの後とめさんとかにブチ切れられたしまじ泣きされたし反省した。もうあんな無茶しない。


それから心を開いてくれたこへいたに実際のところどうなのかと質問をしたけれど、「翔子には知られたくない」と黙り込んでしまった。思い出したくもないのだろう。私はそれ以上深くは追求しなかった。



「…!!」
「駄目。私は今此処で御世話になってるの。焼き払うようなことをしたら私が許さない」
「…」

「あぁそう、紹介するの忘れてた!こちら七松小平太さん。貴方と同じ名前をしてるのよ!」
「お前も小平太と言うのか!私と同じだな!」

「…」


七松さんはあの人懐っこい笑顔を、こへいたに向けた。

だが、





ギャアァァァアア!!!





「うぉわぁ!!!」
「七松さん!?」


雄たけびをあげ、まさかの、ハイドロポンプ。

こへいたのハイドロポンプはとんでもない威力がある。私も我が身をもって体験した。
しかも七松さんは飛ばされ、樹に叩きつけられた。

あの勢いで飛ばされるだなんて!やばい!


「な、七松さん!大丈夫ですか!?」
「ガッ…!痛ェ……!」

「こへいた!なんてことすんの!」


こへいたは今だにこちらをギロリと睨んでいた。これの目は、始めてあった時と、同じ目だ。

近寄るなと、怒ってる。


「………」
「この人は違う!あんたの仲間を食べるようなまねはしない!電波で妨害なんてこともしない!」
「…!」
「あなたと仲良くなりたいって言ってるだけ!挨拶しにきただけよ!」
「…」

「…こへいた」






ボールに入れてくれ






そう言って、こへいたはボールに戻った。



「……七松さん」
「こへいたは元気だな…!さすがの私でもあれはよけられなかった…」
「…すいません……」


他の子はみんなにすぐ懐いた。だからこへいたもすぐ、七松さんに懐くと思っていた。


甘く見すぎていた。


そうだ、これが普通の反応なんだ。

とめさんや、もんじろうや、せんぞうや、ちょうじや、いさくは、すぐに皆に懐いてくれた。でもあれはきっと奇跡だ。心なんて、そう簡単に開けるもんじゃない。

しかも心に一番深い傷を持っているのは、こへいただ。
一番人間に恨みを持っているのは、こへいただ。


「…すいません。こへいたと仲良くなってくれとは言いましたが、あの子は無理です…」
「……」

「さっきお話したとおり、こへいたの心の傷が一番ひどいんです。漁師の話だったとしても、悪の組織の話だったとしても、こへいたの傷はあまりにも深い。初対面の貴方に、心を開いてくれるはずありませんでした……。」

「……」
「私の考えが甘かったんです。これ以上、あなたに傷を負わせるわけにはいかない」

もう全部許します。だからこの子のことは忘れてください。


そういい立ち上がり、汚れてしまった着物の裾をはらった。



「待て!」


「七松さん…?」

「翔子!私にもう一度、チャンスをくれ!あいつの心が開かないなら、私がこじ開けてやる!絶対に仲良くなりたい!それであの背中に乗っけてもらいたい!」

「な、七松さん?」
「委員会の花形、体育委員会の委員長をなめるな!いけいけどんどんで仲良くなってやる!」
「え、だから、」

「まずはあいつの気持ちを知るんだ!水練池を100周泳ぐぞー!!」



そうして七松さんは水練池に消えた。


絶対頑張る方向間違ってる。






でも、ちょっと嬉しかった。

こへいたのためにチャンスをくれだなんて、言うとは思わなかった。






「な、七松さーん!」
「おう!なんだ!」
「…こへいたと、絶対に仲良くなってくださいねー!!」
「おう!!任せておけー!!」









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ガサガサッ

「ガァア……」
「おやどうしたのもんじろう。潮江さんと手合わせしてたんじゃないの?」


「…」
「いやぁ、七松さん本気みたいだし、いいかなって」

「?」
「いや、第一印象は最悪。ハイドロポンプしてきたし」

「!?」
「さぁねぇ。この子ばっかりは、私もどうなるかわかんない」
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