影浦隊に初お披露目。



「……待って、緊張する!」
「うるせぇ、早くしろ。」


ぺちーん!と、十二分に手加減されたデコピンが額を打つ。今、私の手には光ちゃんが調整してくれたトリガーが握られている。そして、目の前には影浦隊の面々。光ちゃんと二人できゃっきゃうふふと影浦隊隊服を着る予定だったんだけど、気付いたら全員集合してた。これではまるで見世物パンダである。自分に注目が集まっているのが何となく気恥ずかしくて、もだもだとしていた所冒頭のように影浦君からデコピンを喰らってしまった。

いや、まあ、わかるよ、わかる。ついつい見てしまう皆の気持ちは分かる、でも私の気持ちも分かって欲しい。


「ったく、乙女心の分からねー奴らだなあ。そんなんだからモテねぇんだぞ。散れ散れ。」
「散れも何も作戦室だろうが。」
「ゾエさんもなまえちゃんの隊服姿気になるな〜。」
「観念してさっさとトリガー起動した方が良いと思うんだけど。」


矢張りこの場において、私の味方は同性である光ちゃんだけだったらしい。私を背に隠す様にして男性諸君をしっしっ、と手で追い払う様な仕草を見せてくれた。うちのオペレーターが頼もしい……。まあ、それで大人しく解散してくれたらそもそもこんな事態に陥って無いよねって話なんだけれども。ユズル君の正論パンチも無事に頂けたので、心の中で涙を流しながら皆の前でトリガーを起動する事となった。

かく言う私自身、光ちゃんに「換装してからのお楽しみだからな。」って言われているから、わくわくどきどきしてたりする。影浦隊の隊服って、ミリタリーチックでカッコイイんだよね。カゲ君のSEを少しでも緩和するためか、生地も厚めだし。頑張っても細いままで、筋肉が付くことの無いこの何とも情けない手足を誤魔化せるのでは無いか。という淡い期待を込めて、光ちゃんの背中に隠れたままトリガーを握り締めた。


「…トリガー、起動。」


淡い光に包まれた後、いつものようにさらりと背中に流れる髪を感じながら身体を見下ろす。上は皆とお揃いのジャケットで、要望通り首にヘッドホンが掛かっている。太腿にはガンホルダー、腰には孤月を差す用のベルトと私のトリガー構成を元にきちんと考えてモデリングをしてくれている。ただひとつ何か言うとするのであれば、カーゴパンツがショート丈になってるという点。ちょっと待って。もう一度私の年齢を考えて欲しい。22歳である。世間一般で言う22歳は若いのかもしれないけれど、中高生に囲まれてる中での22歳は流石にいい歳だろう。

でもこれ、光ちゃんが私のためにって考えてくれたんだよなあ。そう思うと、作り直して欲しいとも言えずに色々な感情と言葉をそのまま飲み込むしかなかった。そんな私の背をどんっ!と叩きながら前に押し出した光ちゃんは、それはもうにっこにこのドヤ顔状態である。うーん、可愛い。こんな可愛い子ちゃんに調整してもらったトリオン体に文句言える人居る?少なくとも私には無理だった。


「アタシの手に掛かればざっとこんなもんだな。」
「なんでヒカリと同じ髪型なの?」
「可愛いだろー、お揃い。」


言われて、ようやく気付いた。そりゃあ鏡が無いから気付かなくても仕方ないんだけど、どうやら私は光ちゃんとお揃いの髪型になっているらしい。嘘、そんな可愛いサプライズまで用意してくれてるの?可愛さのあまり目頭を抑えようとしたら、目の前に居るゾエ君が既にるるる…と泣いていた。前から思ってたけど、ゾエ君って結構涙脆いよね。情が深い?感受性が高い?どう表現していいのか分からないけれど、感激屋さんなところも含めて癒しである事は間違いない。


「うぅ、なまえちゃん本当にうちの隊に入ってくれたんだねぇ。」
「ゾエ君泣かないで〜。」


座っているゾエ君のお隣に行って、少し腰を屈めて頭をよしよしと撫でてあげている。と、何処から引っ張ってきたのか、膝掛けを手にしたカゲ君が其れを腰に巻き付けてきた。……ええと、あの、トリオン体だから寒くは無いよ?確かに脚出てるから寒そうに見えるかもしれないけど。

きょとんとした顔の私と、尚も泣きながら「……カゲ、」と呟くゾエ君の二人に見上げられたカゲ君は、隠す気の無い舌打ちをした。


「おいこらヒカリ!脚出てんのどうにかしろ、見てて寒ぃんだよ。」
「何言ってんだよカゲ、脚何て出せるうちに出してなんぼだろ?」
「歳考えろ、歳。あと周りの目。」
「カゲさん。」
「カゲ、それはダメだと思う。」
「なまえ、カゲの言うことなんか気にしなくて良いんだからな。」


カゲ君から遠ざけるように、ぎゅうっと光ちゃんに抱き締められて、そのままよしよしされる。いや、お姉さん別に気にしてないし、なんならカゲ君と同意見なんだけどなぁ。光ちゃんが居る手前言わないけど。カゲ君は後ろの方で「あ゛ァ!?そういうんじゃねぇだろうが!」って叫んでる。大丈夫大丈夫、別にショックとか受けてないから。っていうのは、カゲ君に伝わってるんだろうか。むしろ、カゲ君を責める空気になってしまってるのが何となく心苦しい。ので、「気にしてないから、大丈夫だよ。」と言ったのに「ああいう事言う奴は甘やかさなくて良いんだよ。」と言われて、さらには光ちゃんが占領している炬燵のお部屋に引っ張られてしまった。



あ、初めておこた入ったけどこれは……ダメだ、出れない……。









「うっわ、なまえさんえっち〜。」
「なまえさんはえっちじゃないです〜。」
「いやいや、太腿にガンホルダーは流石にえっちだろ。」
「わあ、お姉さん米屋君の性癖聞きたくなかったなあ。」
「俺、なまえさんに膝枕してもらいてぇなあ?」
「え、うん、それくらい良いよ。」
「よっしゃ、言質もーらい!……やっべ、影浦さん超睨んでくんじゃん、ウケる。」




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