お姉さん、お目付け役になる。


「なまえさん、少し良いかな?」
「良いよ〜。」


可愛い可愛い迅君のお願いを当たり前のようにふたつ返事で聞いた私は、玉狛支部に来ています。ちなみに、今日も車を借りようとしたら営業部の方が本来の使い方をされているとかで借りられませんでした。こればっかりは仕方が無い。ぼちぼち自分で車を買おうかなあ。資産はなるべく持たないように、残さないようにと思っていたけど、今はもうその必要も無い。それに、玉狛支部には千佳ちゃんに会いにちょくちょく来ているし、本部からの距離が絶妙何だよね。車に慣れちゃってるとちょっと面倒臭いなって距離。夏場は割としんどい距離な事を考えると、やっぱり自家用車が必要かなあ。皆で乗れるように大きいやつ。うん、前向きに検討しよう。

ぴんぽん、とインターホンを鳴らすと相変わらず誰か確認されること無く開く扉。ねえ玉狛支部の防犯意識大丈夫?…今度レイジ君に言っておこう。


「よく来たななまえ、今日のお土産はなんだ?」
「陽太郎君〜〜ッ!」
「のあっ、」


本日のお出迎えは可愛い可愛い陽太郎君でした。そっかあ、陽太郎君かあ、それじゃあどちら様ですか?って出来なくても仕方ないね、むしろ5歳でお出迎え出来て偉いね〜。膝を着いてから、その小さな身体をむぎゅううぅっと抱き締める。擦り合わせた頬がむちむちふかふかしていて大変気持ちが良い。うりうり、と思う存分陽太郎君のふわもちほっぺたと子供体温を堪能していると、いつまでも玄関口から動かない私達を迎えに来てくれたのか、奥から迅君が現れた。まだ陽太郎君を離したくないという意思表示を兼ねて、抱き締めたまま低い位置から迅君を見上げる。


「相変わらず可愛がられてんねえ、陽太郎。」
「陽太郎君可愛いんだもん。」
「ふふん、どうだ迅。羨ましいだろう。」
「はいはい、仲睦まじいところ悪いけど、なまえさん借りるからな。」
「なんだ迅、嫉妬か?男の嫉妬はな、みにくいんだぞ。」
「わあ、嫉妬なんて言葉知ってるんだねえ。偉いね陽太郎君〜!そんな偉い陽太郎君には、どら焼きあげちゃう。おてて洗ってから、皆とおたべ。」
「どら焼き……!!」


陽太郎君を離して、腕に引っ掛けていた紙袋を手渡すと途端につぶらな瞳をきらきらと輝かせてリビングの方に駆けて行った。うーん、可愛い。癒し。小さな小さな背中を見送りながら、差し出された手を掴んで立ち上がる。迅君、何気にこういうところ紳士だよね。セクハラが〜って熊谷ちゃんに愚痴られた事があるけど、私は迅君にそんな事された事ないし見掛けたことも無いから実はよく分かってなかったり。それ故になんとも言えない顔をしていたら、「みょうじさんからもよく言っておいてください。」とか言われたんだっけ。正直、迅君がセクハラしてるって事に関しては半信半疑だ。いやでも可愛い熊谷ちゃんの言葉を疑う訳にもいかない。もしかしたら、迅君にとってはただのスキンシップだった事が熊谷ちゃんにとってのセクハラだったのかもしれない。認識の相違というやつだ。

私の手を引き上げた状態のまま小首を傾げている迅君と、鏡合わせになる様に小首を傾げて見上げてみる。


「迅君、熊谷ちゃんにセクハラした?」
「…え゛ッ、まってなまえさん、それ何処で聞いたの?」
「熊谷ちゃんが言ってたんだけど…。」
「あ、あー……、」
「もう、何したのかは知らないけど、迅君にとってはただのスキンシップでも、相手にとったらセクハラになっちゃうかもなんだから気を付けなきゃ駄目でしょ?」
「……ハイ。」
「うん、お利口さん。」


気まずそうに目線を逸らす迅君に、何かしら思い当たる節があるんだろうなあと思わず苦笑を浮かべそうになるけれど、きちんとお返事出来たので頭をふわふわと撫でてあげることにした。一応、あとで熊谷ちゃんには報告しておいてあげようかな。迅君には注意しておいたからね〜って。熊谷ちゃんだって年頃の女の子だもんね、うん。

ちょっとだけしょんぼりとした様子の迅君の後ろに着いて奥へと進むと、ひとつの扉の前に行き着いた。二回のノックの後、返事を待たずに開けた先にはアフトクラトルである証の角を頭に生やした男の子がベッドに腰掛けて座っていた。涼し気な瞳が、私達を捉える。


「…何の用だ。」
「お前もたまには外に出たいかと思ってな、お目付け役を用意してきた。なまえさん、こいつはヒュース。見て分かる通り、アフトクラトルの捕虜だ。今はうちで預かってる。」
「え、あ、なまえです。私がヒュース君のお目付け役……なの?」
「なの。折角だし、三門市を適当に案内してやって欲しいんだけど。」
「それは全然構わないけど、」
「良いのか?こんな鈍そうなのに任せて。隙あらば逃げるかもな。」
「まあ、逃げても良いけど。黒トリガーはうちにあるしね。なまえさん、ヒュースが迷子にならないようにだけ見ててあげて貰ってもいい?」
「…わあ、責任重大だあ。」


迷子にならないようにって、つまり逃がさないようにちゃんと見とけって事でしょ?その役目本当に私で大丈夫?鈍そうとか言われてるし、否定出来ないよ?不安しか無いんだけど。でも、ううん、迅君の頼みは断れない。それに、捕虜ってことはあれから外には出ていないんだろう。確かに、それでは気が滅入ってしまいそうだ。まだ若いだろうに、それはあまりにも気の毒で、結局私は頷いてしまった。




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