01

5月、桜の木が緑の葉で覆われ始める季節。私が来神高校に入学して早くも1か月程が経った。仲の良い友達も出来、ようやく高校生活に慣れ始めていた頃、私は偶然にも運命の出逢いを果たすことになる。




邂逅の日




部活のある友達と別れて、私は今日も新たな日常の一部となった通学路を歩く。今日はどこに寄って帰ろうか、と考えながら一先ず学校から程近い場所ある池袋駅を目指す。元々駅まで行くのにそんなに時間は掛からないけれど、更なる時間短縮を図ろうと近道であるメインストリートから外れた少し薄暗い人気のない道へと足を向けた。たまに危ない人がいるから通らない方がいい、なんていう子もいるけど頻繁にこの道を通っている私は今までそんな現場に遭遇したことは無い。帰宅部の私は比較的早い時間に通るから問題ないのだろう。

「今日はこの先にある道は通らない方がいいよ」

今日はCDでも見に行こうかと目的を決めたところで、掛けられた声に足を止めた。声のした方へと顔を向けると、そこには歩道と道路の間に設置してあるガードパイプに腰掛ける黒髪の学ランを着た男子の姿があった。制服だけだと判断が付かないけれどこの辺りにいるなら同じ来神高校の生徒だろうか。
印象的な赤い少しつり上がった目が私を捕らえる。私がまっすぐ見つめ返せばその人はにたっ、と貼りついたような笑みを浮かべた。その笑みを見て直感的に思う。…この人は簡単に信用してはいけない人だと。


「どうしてですか?」

「君が行ったら多分怖い目に遭うだろうから」

私が疑問を返せば、そう言って彼はより一層笑みを濃くする。何故そんなことを言うのだろう。この道の先に一体何が待っているのだろうか。
彼の言葉は嘘?からかい?優しさ?
意図の見えない曖昧な警告とあまりに分かりやすい作ったような笑み。本音の読めそうにもない彼の言葉を信じるか否より、こういう時こそ自分の気持ちを優先するべきだと思った。

「………そうですか。でも今から引き返して遠回りするのはちょっと面倒なので、このまま行くことにします」

「あーあ、後悔しても知らないからね。俺は親切に忠告してあげたんだし責任取らないよ」

「……なんだか、あなたみたいな飄々とした人って何を考えてるのか想像つかないから、言われた事に下手に左右されない方が良いかと思って」

一瞬鋭くなった彼の目を見て、私は無意識のうちに思っていたことをそのまま言葉にしていた。
茫然とする彼に全て言い終わった後に気付いて、まずいことを口走ってしまった、と慌てて頭を下げて謝る。

「あっご、ごめんなさい!失礼なこと言っちゃって…」

頭を上げながら彼の様子をそーっと窺う。顔は俯いていてその表情は分からない。といっても彼の場合は顔を見て考えてることが読めるかといったらそうではないけど。
どうしようかと考えていたら、彼は小さく肩を震わせ始める。

「くくくっ…………ハハハハハハッ!!」

「…………っ!?」

そして突然大きな笑い声を上げる彼に、気でも触れたかと思い息を呑んだ。でもどうやらそうではないということは、ひとしきり笑った後のじっと私を見つめて口元を緩める彼の表情でわかった。そして初めて彼の考えてることを理解出来たと思う。


彼は興味を持ったんだ、私に。


「君面白いね。そんなにはっきり言われるといっそなんだか清々しいよ。
 俺、折原臨也。君と同じ来神高校の2年。君の名前は?」

「えっと、1年の藤堂由良です」

「なるほど、だからか」

なるほど、の言葉の意味を理解は出来なくて不思議に思っていると、彼はそんな私を特に気に留める様子もなく座っていたガードパイプから飛び降りた。両手をパンパンと叩き合わせた後、制服もはたきついていた白い汚れを払う。

「君ならあそこに居合わせてもなんとかなるかもね。いいよ、行って。引き留めて悪かったね」

「は、はぁ……」

「じゃあね、藤堂さん!」

全て払い終わると彼は喋りながら早く行けと急かすように私の背中を押し、先程まで自分が行くべきではないと言っていた道へと導く。彼の強引な行動のなすままに私は足を進める。

何メートルか歩いて振り返ると彼はまだこちらを見ていて、私に気付くとひらひらと手を振った。それを会釈で返して私は前を向いて再び歩き出した。







私を見つめていた彼が手を下ろしながらこれは面白くなりそうだ、と楽しそうに呟いたのにも気付くはずもなく。


そして私はその数分後、彼の言葉の意味を身をもって知ることになる。



bkm
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