05

「女の子からプレゼントを貰うなんて、シズちゃんも隅に置けないなぁ」

「臨也、手前。シズちゃんって言うなって何度言ったら分かるんだ?」

「そんな細かいことをいちいち気にしてたら折角好かれた女の子にも、嫌われるよ」

「黙れ」

そう、彼は昨日私に忠告はしたけど結局はあの他校生の下へ私を追いやった人。平和島さんに喧嘩をふっかけたり悪巧みをしてるという、折原臨也。
平和島さんと口喧嘩を繰り広げながら折原さんはこちらに近付いてくる。昨日はあの如何にも作ったような笑みばかりが印象に残っていたけれど、改めてよく見れば整った顔をしている。眉目秀麗なんて言葉が似合いそうだ。
先程までの和やかな雰囲気はあっという間に消え去って、平和島さんは額に青筋を浮かべている。それ程までに折原さんに"シズちゃん"と呼ばれるのが嫌なのだろうか。
そんな風に考えていたら折原さんの視線がこちらに向いていることに気が付く。私と目が合うと折原さんは、目を細めて笑った。

「やぁ、藤堂さん」

「…こんにちわ」

「なんだ藤堂、このノミ蟲と知り合いなのか?」

「いえ知り合いというか、昨日出会ったばかりで…」

私と折原さんの会話を聞いて、少し冷静さを取り戻したらしい平和島さんに疑問を投げかけられた。折原さんのことをノミ蟲なんて呼んでしまう辺り、まだ苛立っているのには変わりないのだろうけど。
私が言葉を返せば平和島さんは再び顔をひきつらせる。どうやら何か引っ掛かったことがあるらしい。

「"昨日"、だと?」

「いやぁー、俺も正直こんな展開は予想してなかったよ。シズちゃんが"偶然"他校生に女の子が絡まれてる現場に遭遇して助けてこんなに懐かれるなんて」

肩を竦めながら折原さんはさも楽しそうに言う。そんな折原さんに平和島さんの神経が更に逆撫でされていることは彼の震える拳で分かった。

「やっぱり昨日のは手前の仕業か…?」

「だったら?」

「…俺に喧嘩ふっかけるだけなら腹は立つが、すっげー腹立つけどまだいい。けどな、今回のこいつみたく関係のない人間まで巻き込むのは止めろ」

「別にシズちゃんに許して貰おうなんて思ってないよ。大体俺はこの子に警告したんだ。なのにそれを無視したんだから自業自得ってやつだよ」

「んだと…!!!」

折原さんの言葉で怒りの頂点に達した平和島さんは目を見開いた。私の渡したマフィンの入った袋を地面に落とし、折原さんに殴りかかろうとする。私は慌てて右腕を振り上げた平和島さんの体にしがみついた。

「待ってください!」

「離せ、藤堂!!昨日お前をあんな目に合わせた張本人だぞ!?」

「確かにそうですけど、でもいいんです!」

「何が良いって言うんだ!」

私の言ったことが癇に障ったのか、平和島さんが後ろにいる私の方を向いて睨み付けるように見下ろした。今まで私に向けられていた表情とはかけ離れた怒りに燃える荒々しい顔。でも怯んではいけないと、負けじと私も大きな声で言い返した。

「折原さんの言う通り、私が折原さんの言葉を信用せずに忠告を無視したのがいけないんだから!」

「けどよ!」

「それに私は平和島さんに出逢えたから!あなたに助けて貰えたからいいんです!!」

私がそう力強く言い放てば、平和島さんは拍子抜けしたように振り上げていた腕をゆっくりと下ろした。

「藤堂…お前…」

「確かにあの時は怖かったけど助けてもらって何もなく終わったので、それでいいんです」

本当に言葉の通りだった。平和島さんに助けられたお陰で、恐怖や痛みといったものは感じたものの、大事には至らなかった。それにあんなことでもなければ平和島さんに出逢うこともなかったかもしれない。そう考えれば悪いことばかりでなくて。あの時平和島さんと出逢えたことは私にとって良いものであったという、よくは分からないけどそんな根拠のない確信が私の中にはあった。

「折原さんも折角忠告してくれたのに信用しなくてすみません」

「…だってさ。本人がこう言ってるんだからもういいじゃない、シズちゃん」

私が忠告を聞かなかったことに対する謝罪をすれば、軽口をたたきながら折原さんはまたあの感情の読めない作った笑みを浮かべる。一応謝りはしたもののやっぱりこの人と初めて会った時に感じた印象は間違いではないと思った。何を考えているかとても読めそうにない。そしてあの時は正しいことを言ったからといって、この人を完全に信じきってはいけないと。

「…臨也、今回は藤堂に免じて殴らねえけど次にこんなことしやがったら手前を殺す」

「やれるもんならやってみなよ」

平和島さんは未だ怒りを完全には収めておらず、ピリピリとした雰囲気を放っている。対する折原さんもそれは同じらしく、鋭い視線が平和島さんに向けられていた。
じっと睨み合った後、平和島さんは先程落としたマフィンを拾い上げ、反対側の手で私の腕を掴んだ。そしてそのまま私を引っ張りながら出口へと歩き出す。

「…えっあの、平和島さん!?」

「帰るぞ、駅まで送る」

強引なその行動に後ろを向くことも出来ず、背後に取り残され黙ったままでいる折原さんの様子は窺えない。こちらを振り向くことなく足を進める平和島さんに連れられ私はそのまま学校を後にした。



















「……"いい子"見つけちゃったな」



優良観察対象発見
(これから面白くなりそうだ)



bkm
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