「中出し御免、だそうだ」


わたしが訪れたのは照星様の寝室だ。
用心棒にと彼を雇うため、わたしの村が差し出したものは、銭と米と、

わたし。


清めた体に、長からもらった上等の襦袢……この村にしては、だけれど。それにお化粧をして、照星様の所へ出向いた所。

気に入っていただこうと媚びた格好のわたしなんかより、ずっと妖艶で色香を纏った照星様がそこにくつろいでいらっしゃった。

紅より遥かに綺麗で透明感のある艶やかな唇。生気を感じさせない白い肌。烏の濡れ羽の如き、みどりの黒髪。目尻の上がった射すくめるかのような目。

福相と言われる大きな耳たぶには金属の飾りが貫いていて、盃を傾けるたびに美しい顔の横で揺れた。


成熟した大人の芳香を放ち、毒を隠したような悪魔的な美しさにわたしは立ちすくんだ。


「おいで。乱暴にはしない」


まっすぐ差し伸べられた手に吸い込まれるように、わたしも手を伸ばした。


「あっ……」


掴まれた手は引かれ、一瞬で照星様の腕の中に収まる。
ちゃんと体温があったのかと当たり前の事を不思議に感じた、男の人の体がそこにはあった。


どんな人かも知らないのに、今夜からわたしはこの人に好きなようにされるのだ。

自分の置かれた立場をあらためて認識すると、持って行き場のない感情に胸が押しつぶされそうになってしまう。

わたしの中に精を放つ事をわたし以外の人間が許可を下したのか。村の為、みんなの為と言えど、いたたいまれなくて仕方がない。

よそ者に村の為に抱かれる人身御供の不安と、一目で惹かれはじめている己の心の軽さへの嫌悪感にキュッと唇を結んだ。


村を救う神と交わる、これは名誉な事なのだと言い聞かせ、少しでも誇りを保とうとした。

米粒のように小さな小さなプライドだった。









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