その夜は秋風が心地よくて、いい気持ち。虫の音もまん丸に近い月も、庭でゆれるすすきも風流だ。そういえばいつの間にかあんなにうるさかった蝉もいなくなったし、もう秋なんだな。


「入りますよ」

「んー遅い」


横になって何かの書物を読みながら、そこから視線も外さずに言った。
今夜はどうしてか凄腕さんしかいなかった。


「あれ、みなさんは?」

「寒いから寝るって。白目はそこ」


今度は視線だけで衝立の向こうを示した。秋の夜長にさっさと寝ちゃうなんてもったいないな。月も星もあんなにキレイなのに。


「じゃあ……」

「二人っきりだな」


ニッと意味深に笑ってポンポンと畳を叩く。そこに座れって事だ。

それに従うとさっそく起き上がって後ろから羽交い締めにされた。


「も、もう……やめて下さい」

「なんで」

「な、なんでって……だって、あたしは……」


ちゃんと好きって言われてないし。恋人じゃないもん。


「清香は俺のだってまだわからない?」

「そんな言い方は嫌いです……」

「白目みたいに言ってほしい訳だ」


耳に息がかかるくらいの距離で囁くように話す凄腕さん。心臓がドキドキと反応して体が固まる。


「なんで知ってるんですか」

「アイツが言ってた。清香に告白したって。きらいじゃないって言われたから頑張るって」


やっぱりかわいいなぁ白目くん。
そんな事まで言ってくれたんだ。すごく嬉しい。


「なんではっきり断らないんだよ」

「だ、だって!あたしは、別に、凄腕さんとお付き合いしてるつもりはありませんから!いつも勝手にあたしの事……そうでしょ?」


頑張って言えたのは、白目くんがあたしを大事に思ってくれてるって知ったから。凄腕さんもあたしを大事にしてよ、って思ったら強気に出れたんだ。









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