一枚、手拭いにはさんで残しておいた花びらはもうカラカラで色あせてしまった。
あたしの部屋を花だらけにしてくれた、あの時の花びらだった。
迂闊にも感動してしまったあたしが馬鹿だったなぁ。
あんなにたくさんのお花、見た事ない。何種類もの花が一緒になったごちゃごちゃの花束はドーンとあたしの胸を打ったのに。
「はぁ……」
凄腕さんがあたしの体を欲しがって、あたしは凄腕さんの心を欲しがって……
結局、強引にあたしの事抱くだけで……なんか虚しい。
そんな時に、あたしに告白してくれたのは白目くんだった。
裏庭に呼び出されて、文と一緒に「好きです。読んで下さい!」って真っ赤な顔して言ってくれた。
すごく嬉しくて、それと同時に悲しくもなった。凄腕さんはあたしに「お前は俺のだ」なんて言いながら、いつも一緒にいる白目くんにはあたしの事なんて話した事ないんだって知ったから。
もし凄腕さんが白目くんにあたしの事好きなんだって話してたらきっと告白なんてしなかったはず。たぶんだけど。
白目くん、可愛かったなぁ。
「悪い返事だったら言わないで……直接きらいなんて言われたら立ち直れないから」
「嫌いなんて、そんな訳ないじゃない」
「ほんと?」
「うん。でも、付き合うのは……」
「考えて。今決めないで、ちょっとでも前向きに検討してくれたらと、思うんですけど……」
変な言葉遣いになってる白目くんを思い出して、思わず笑った。
人生うまくいかないなぁ。あたしが欲しいのは凄腕さんの告白なのに。
それからすれ違うたびに緊張した笑顔を見せてくれて、本当にちょっと気になる存在になっちゃったり。やっぱり「好き」ってちゃんと言ってくれる人っていい。
すごく幸せな気持ちになれるし、自分を大事に思ってくれてる人がいるだけで、心強い。
逆に素直じゃない人と一緒にいるとこっちまで素直でいられなくなってしまう。今のあたしがいい例だ。あたしだって凄腕さんに「好き」って言ってない……
「清香、おーい清香ー」
「はぁーい。なに?凄腕さん」
「少し寒くなってきたろ?今夜は少し温めてくれ」
クイと杯を傾ける仕草と一緒にそう言った。日課の晩酌は主に部下さんへのお説教と暗器語り。あたしはお酒と肴だけ出したらいつもそそくさと退散する。
でも温めるとなるといっぺんに出してあとはご勝手に、とはいかないなぁ……めんどくさーい。
あの新人部下さん達も凄腕さんに付き合うのは大変だろうに、不思議とウマが合うみたいだ。今までは一緒に晩酌する部下さんなんていなかったもの。
今まで来た中で一番デキが悪くて、一番仲良し。
特に白目くんとはまるで兄弟みたいだ。
- 21 -☆しおりを挟む☆
≪back