ブチ、と音が聞こえたのは気のせいなんかじゃない……
コブシを握りしめて、みるみるうちに凄腕さんの額の血管が浮いてくる。
「ふざけんな!お前、俺の気持ちわかってんじゃないのか!」
「わ、わかんないですっ!いつも、勝手にスケベな事して、気持ちなんて全然伝わってきません!性欲だけじゃないですか!」
「はぁあああ!?性欲だけだったら色んな女とヤッた方が楽しいに決まってるだろ!そうじゃないから通ってるんだろが!」
「通ってるって……人を女郎みたいに言わないで下さい!ただあたしの感触が気に入ってるだけなんでしょ!?」
思わず前のめりになるほどの口喧嘩。こんなに大きな声を出したのも子どもの時以来かもしれない。
それだけ溜まってたんだ。夢に見るほど、あたしが欲しがっているのは優しさとか愛情とか甘い雰囲気。好きって言って欲しい。頭をポンポンって撫でてくれて、肩を抱いて優しくキスしてくれて……
ぐるぐると言いたい事はまだまだ胸の中で渦巻いてる。
頭の中でどれから言おうか考えているのに、凄腕さんは言い返してこない。
下を向いて、拳は握り締めたままだ。いったいどんな顔をしているのか気になって、かがんで下から覗きこんでみたら、様子がおかしかった。
歯を食い縛って眉間の皺をよりいっそう深くした顔。
「もしかして、泣いてるんですか……」
「泣いてない!お前なんか大っきらいだ!」
「目、赤いですよ?」
「ウルサイ!黙れ。黙ってヤらせろ!」
だからそこが嫌いなんだってば!
無理矢理その場に組み敷いて、せっかく持ってきたお酒も冷めちゃうのに……着物を脱がそうと帯を解く。
「お前は俺のだ」
「知らない……」
「白目なんかに絶対触らせてやらない」
「そんなに言うなら素直に好きだって言って下さい!」
凄腕さんの動きが止まって、ボンッと顔が真っ赤になった。
「そ、そんな事、言えるか!」
照れてるんだ、カワイイ。なんて全然思えなかった。
なんで言ってくれないのかさっぱりわからない。あたしの事、好きなんだったら言ってくれてもいいじゃない……
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