「ごめん。もういいよ」
「ごめんなさい……あたし、下手で……」
「いや、違うんだ。小夜ちゃんのせいじゃない」
涙目のあたしを見て照星さんはまた「ごめん」と言って抱きしめてくれた。
「思い出を、塗り替えたかった」
「?」
「雑渡が、小夜ちゃんとの思い出をあんまり楽しそうに話すから、悔しくてね。あいつと行った場所全てを私との思い出に塗り替えてやりたくて……」
「照星さん……」
「だが、ここで……この布団で小夜が雑渡と……それが頭にチラついて……」
雑渡さんの馬鹿。きっとニヤニヤと照星さんをわざと怒らせたんだ。
「怒車の術にかかってどうするんですか。照星さんらしくもない」
「私だって嫉妬くらいするさ。みっともない程、君に恋してるんだから」
ほんのり頬を染める照星さんがかわいくて、愛しくて、思わず顔がほころぶ。
「照星さんの作戦、大成功ですよ」
照星さんの高い鼻に自分の鼻先をくっつけて言った。
「あのれんげ畑に行けば照星さんのへたっぴな花冠を思い出すし、あんみつ屋さんでは照星さんが胸やけしたことを思い出して、口移しでくれた野いちごのキスも、照星さんになついた亀も……この宿だって、きっと今の事を思い出します」
全部、更新完了。
2人の大事な思い出です。
雑渡さんとの恋はいい思い出だけど、それが照星さんを苦しめるのなら忘れた事にしておこう。
「だけど無理して張り合わないで、ちゃんとあたしを見ていて下さいね。あたしとのデートなのに雑渡さんの事ばっかり考えちゃ嫌ですよ」
そう言って鼻先にキスした。
照星さんは静かに「そうだね」とキスを返してくれる。
火縄を持つ顔とは全然違う、優しい優しい恋人の顔で。
「なんか元気になってきた」
よかった。いつものように大きくなってくれたのかな。チラリと照星さんの下半身を見てみたがよくわからなかった。
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「えっ、やだ……あたしったら……」
「でもこっちも元気になってきたみたい」
ぎゅっと抱き締められると、お腹のあたりに熱いのが当たってる。
嬉しくなってあたしのお腹も熱くなってきた気がした。
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