いつもは中の人に作ってもらう所を知り合いだからとあたしが入れた。
トレンチに冷たいラテを乗せて運ぼうと先生の席の方を見ると、窓際の光のせいかすごく綺麗に見えて思わず足が止まった。
頬杖をついたまま何やら分厚い本に視線をやって、睫毛の影を頬に落とす。
額にかかる前髪も組んだ脚も……
不覚にも見惚れてしまった。
「お待たせしました」
「ありがとう」
「あの……」
「うん?」
「何でもないです……ごゆっくり」
思わず携帯の番号が変わってないか聞きそうになった。今さっき恋人がいるって知ったとこなのに……
振られたから悔しくて覚えているだけ。忘れられない、なんて甘い感情じゃないもん。たまたま、今日、偶然会っただけだ。
何も変わりはしない。
そう思ったのに……
「バイト、何時に終わるんですか?久しぶりに食事にでも行きましょう」
マイペースなのは変わってないみたいで勝手にそう決定されてしまった。
「私の携帯は変わってませんから」
「あ、あたしの番号……ここに書きます」
コースターの裏に走り書きして仕事に戻った。元カレとゴハンだなんて、何か変なの……
夕方に終わって電話をするともう迎えに来てると言った。
『裏口の前に車停めて待ってますから』
『先生のって……白だっけ?』
『あぁ……買い換えました。黒のスポーツワゴンです』
外に出るとその車はすぐにわかった。綺麗な黒……
「すごーい。手入れ、大変でしょ?」
「かなりね……ひどい時は週3で洗車してます」
「あはは!でもカッコいい」
「女の子は好きですよね、こういうの」
何だか車褒められても嬉しそうじゃなかった。車や腕時計、スーツを褒めれば大体の場合が嬉々と語り始めるのにな。
前に男の子の話に合わせてあげようと何冊か車やバイクの本を買った。
ファッション誌も買ったっけ。
かわいく質問すると得意そうに説明してはいい気分になって、結果的にあたしに良くしてくれる。
大事なのは男の子より詳しくならないこと。
ちょっとバカ。そういうのが好きだってわかってるからそんなフリをするんだ。
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