あの子 | ナノ
グッドモーニング フロム 世界

あの後直ぐに、大きな部屋に大勢の刀たちが集められ、私が紹介された。ペルソナなんかの事は秘密にしておこうと主に言われたので、少しばかり記憶がないという事になっている。初めは皆一様に驚いていたけれど、特に邪険にされてはいない。まあ、予想していたとおり、中には私をよく思っていないものもいるようだったが・・・主の命があるからか、あからさまにどうこうする動きはない。

私の部屋は結局、鯰尾と同じ部屋にお邪魔する事に。主は最後まで一緒に寝ようとゴネたが、私が自ら辞退すると渋々納得してくれた。へし切長谷部からの視線で折れるかと思った。


「骨喰藤四郎だ。」


鯰尾と以前から同室だった彼は、たった一言それだけを言うと、とっとと寝床に入ってしまった。確か、遠征から帰ってきたところだったと聞いている。


「気にしないで、椿ちゃん。元からそういう奴なんだ。あ、因みに骨喰も記憶がなくってねー。俺たち、みんな記憶喪失だね!」

「そんなに明るく言う事ではないだろう。」

「いやいや、暗くなったってしょうがないって!」

「鯰尾、煩いぞ。」

「おっとごめんごめん!じゃあ寝よっか〜。布団は椿ちゃんが真ん中ね!」

「えっ。」


私はこの部屋の隅にでも行こうと思っていたのに、鯰尾は手際よく骨喰の横へ布団を並べる。隙間無く敷き詰められているのはどうしてなんだ。そこまで狭い部屋ではないのに。


「はいはいこっちこっち!じゃっ、お休み〜。」


明かりが消される。少し布団の上で悩んで、諦めて寝ることにした。移動して、隣の骨喰を起こしてしまうのは可哀想だ。それに、みんな付喪神なのだから、人間ほど男女を気にすることもないのだろう。如何せん、付喪神として意識があった期間が少なくて、感覚が掴めない。
主がこの光景を見たら、ひっくり返りそうだなあなんて思いながら、私は初めて睡眠を取った。


「ん゛。」


身体が・・・上半身が重い。目を開けると、部屋はうっすらと明るくなっていて、朝が来たことを告げている。眠るというのは、こんなにも体力を使うものなのか?息苦しくて仕方が無い。


「んー、んん。」


やたらと近くで鯰尾の声が聞こえた。聞こえてきたのは重苦しい身体の方。顔を上げて見れば、胸の上に鯰尾の頭が乗っていた。うつぶせ気味で、随分と寝にくそうな体勢なのに、気持ちよさそうに眠っている。


「・・・寝相が悪いんだな、鯰尾は。」

「いや、そいつはそんなに寝相は悪くない。」

「!・・・おはよう、骨喰。」

「ああ、おはよう。」


骨喰はすっかり衣服を整えていた。横にあった布団も片付けられているところを見ると、随分前に起きていたらしい。


「寝相は、そんなに急に悪くなるものなのか?」

「わざとに決まっている。」

「わざと。」

「叩き起していいぞ。」

「え、でもなあ・・・鯰尾、起きろ。朝だ。」

「あと・・・もうちょっと・・・。」

「うわ、あまり頭を動かすな!浴衣が乱れる・・・直し方が分からないんだから、勘弁してくれ。」

「・・・絶景だぁ・・・。」

「起きろ、兄弟。」

「痛い!髪引っ張らないで!痛い!」


骨喰は、鯰尾の頭頂辺りにある飛び出たひと束を掴んだまま、私を見た。


「着替えたら、洗面所へ行くぞ。もうすぐ他の奴らでいっぱいになる。」

「洗面所、何処だったかな。」

「部屋の外で待っている。焦らなくていい。」

「よし、俺も着替えよ!あ、椿ちゃん手伝いいる?大丈夫?」

「お前は先に洗面所へ行け。」

「そんなこと言って、骨喰は着替えシーン覗く気だろ?ずるい!」

「どこかの兄弟とは違うから、そんなことはしない。」


二人が賑やかに部屋を出て行って、別れる。鯰尾は骨喰が言ったように、先に洗面所へ向かったのだろう。襖には骨喰の影だけが写っている。ああ、ぼうっとしている場合じゃない、早く着替えを済ませないと。
セーラー服は、思っていたよりも着やすくて有難い。他の刀には、和装をしているものも居たけれど、着づらくないのだろうか。昔の刀だから、あれが普通か。セーラーを着て、黒色のタイツとスカートを穿き、部屋を出る。


「お待たせ。」

「ああ。・・・リボンは?」

「やり方がいまいち解らなくて。」

「貸せ。」


また主に教えてもらおうと思ったのだが、リボンは骨喰によって綺麗に胸元に結われた。見ながら覚えようと思ったけれど、スイスイとやってのけるので結局結い方は解らないまま。行くぞ、と歩き出した骨喰の後ろへついて行くしかなかった。
洗面所には、もうそれなりの人だかりになっている。こっちだ、と骨喰に引っ張られて、丁度空いた蛇口へ。


「顔を洗え。タオルは此処にある。」

「分かった。」


何から何までしてもらって、なんだか申し訳なくなる。見よう見まねで蛇口を捻り、顔を洗おうとする、が髪の毛が前に垂れてきてしまった。彼を思い出すこの銀色の髪は、顔を洗うには邪魔になってしまうらしい。束ねられるゴムは持っていないし、どうしよう。


「椿、じっとしていろ。」

「骨喰?」

「髪は俺が持っている。」


ざっくりと、骨喰の手によって髪が束ねられた。その間に、ばしゃばしゃと顔を洗う。洗い終わると手にタオルが乗せられたので、急いで拭いた。


「ふふ、君たち、そうしていると兄妹みたいだね。」

「堀川。」

「髪の毛の色が似てるからかな?それに、骨喰がそんなに誰かに世話を焼くのも、珍しいよね。」

「・・・うるさい。」

「はは、ごめんごめん。」


そう言えば、前の主にも妹と呼ぶ存在が居たことを思い出す。確か、実の妹ではなかったはずだけれど、あの子はお兄ちゃんと呼んでいたっけ。


「・・・。」

「なんだ、椿。」

「お兄ちゃん。」

「!」

「なんてね。」


冗談で言ったつもりだったのに、どうやら骨喰は気に入ってしまったらしい。さっきよりも少しだけ饒舌になって、あれやこれや世話を焼いてくれる。骨喰からも、ご飯の席を指定されるとは思わなかった。部屋と同じように、私は鯰尾と骨喰の間になるようだ。もしかしたら一人になるかもしれないと思っていたけれど、大丈夫な気がしてきた。今は、二人に世話を焼かれることを、素直に受け入れよう。


「魚を箸でほぐすのは難しいな。」

「貸せ。やってやる。」

「いいよ、大丈夫。少しは自分でやらないと。」

「いいから。」

「あれ!?俺がいない間に仲良くなっちゃってる!」

「・・・椿は、妹のようなものだからな。」

「えっ、どういうこと!?」

20150327
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