聖なる夜へ願い事
「つばき!くりすます、ってしってますか!?」
今剣が、それはもう目をキラキラと輝かせて私に問いかけた。クリスマス。勿論、名前を知っている。大体だが、どんなものであるかも知っている。前の主の妹が退院したりで、なんだかバタバタとしていた記憶があるが、ツリーを飾って、ケーキを食べて、男女がより仲良くなる日だ。同じ年のクリスマスがやってくる度に違う彼女を部屋に連れてきた主は、必ずプレゼントを交換していた。ので、プレゼントを交換する日でもあるのだろう。
私のその、知っている限りの話を今剣に伝えると、人差し指を横に振りながら、チッチッチ、と言った。
「ひとつ、だいじなことをわすれています」
「大事なこと?」
「さんたさんです!」
「さんたさん」
「いいこにしていると、ぷれぜんとをくれるしんせつなおじいさんだそうですよ!」
「プレゼントをくれる親切なお爺さん・・・」
もしや、テレビのCMやなんかで見る、白いひげをたくわえ、赤い服に帽子を被ったの老人だろうか。記憶が合致していくと、ずるずると曖昧な記憶が蘇る。ああ、ああ・・・確かに、確かにそんな風習があったような・・・。
しかし、前の主のところでは、そのような老人はやって来たことはない。クリスマスの夜が明けた朝には、前の主の妹が可愛らしく包装されたプレゼントを持って、大喜びしている姿は何度も見たことがあるけれど。
「つばきも、いいこにしていましたか?」
「うん?いいこ、良い子か・・・どうだろうな。まだ此処に居られているということは、良い子に居られたんだろうな」
「じゃあ、いいこのつばきにも、このまほうのおてがみをわたしましょう」
差し出されたのは、クリスマスのシールがいたる所に貼られている封筒だ。中には一枚、便箋が入っている。
「これは?」
「つばきのほしいものをかくと、さんたさんがもってきてくれるのです!」
「どうやってサンタさんに届けるんだ?」
「あわたぐちのへやにぽすとがあるので、それにいれます!すると!さんたさんとしりあいだというあるじが!なんと!とどけてくれるのです!!」
「おお〜・・・!」
「はやくかかないとまにあわないので、はやくだすんですよ!」
「ああ、分かった」
「ばびゅんと、ぼくはもうだしてきます!」
「何をお願いしたんだ?」
「いわとおしです!」
それだけと言うと、本当にばびゅんと廊下を走っていってしまった。私はその背中を見送って、思わず受け取ってしまった封筒に目を落とす。欲しいもの、欲しいものか・・・。急にそう言われても、思いつかないものだ。ぼうっと、欲しいものについて考えながら部屋へ戻る。
「ただいま」
「お帰りー!」
「お帰り」
「そうだ、2人はこれ貰った?」
鯰尾と骨喰の2人に封筒を見せる。2人は目を丸くした後に、お互いに顔を見合わせて、そして改めて私に向き直る。
「それって、サンタさんへの手紙だよね?」
「ああ。今剣に、いい子の椿にもあげましょう、って貰ったんだ」
「・・・椿は、サンタを信じているのか?」
「? 信じる・・・?そういえば、良い子だと言うだけで欲しいものを与えていくだけの老人というのも変な話、」
「じゃないよ!サンタさんは居るよ!ね!骨喰!!」
「ああ、居る。居るから好きな事を書くといい」
「・・・結局2人は封筒を貰ったの?」
「俺たちもう出しちゃったんだ!ね!骨喰!!」
「ああ、出した」
「早いな」
では私も出さなくては。でも全く思いつかない。
「何を頼んだんだ?」
「え!?えーと、俺は、あのー、あれ、豪華な晩御飯!クリスマスには鳥の丸焼きを食べるんだって!」
「燭台切に言えば叶いそうな・・・いや、鶏とは言えコストはかかるか。骨喰は?」
「・・・」
「・・・?」
「・・・・・・」
「・・・」
「休みが欲しい」
「それはサンタさんよりも主に頼んだほうが良くないか・・・?」
「なっ、何でも良いんだよ何でも!椿ちゃんの好きな事書いたらどう?」
「好きな事・・・」
「大丈夫!この時ばかりはサンタさんは大抵のもの買っ・・・お願い聞いてくれるから!」
「すごいな、サンタさんは・・・」
ボールペンを持って、便箋に向かう。便箋なのだから、手紙の書き方に則るべきかと思うが、残念ながら、文字を書くのもやっとな私は、手紙の正しい書き方など知らないのである。拝啓、から始まることは知っているのだけれど。
・・・難しい。何と書き始めていいのか分からない。まず私の生い立ちから知らせるべきだろうか。いや、しかしサンタさんはもう、プレゼントを渡す相手がいい子だと分かっているから、わざわざ伝えずとも、千里眼のような力で知り尽くしているのかもしれない。
そもそも、そもそもだ。私は本当に良い子だったか?プレゼントを渡すに相応しい良い子であるのか?今剣に言われるがまま封筒を渡された訳で、直接サンタさんから預かった訳ではない。本当に私にプレゼントはやってくるのか?
「そんなに欲しいものが沢山あるの?」
「あ、ああいや、私は本当に良い子だったのかと考えていた・・・」
「大丈夫だ。椿はとても良い子だった」
「そうそう!毎日欠かさず何かお手伝いはしてるし、皆には優しいし、なんてったって可愛い!」
「・・・でも、私は刀剣女士なんていうよく分からない存在で、戦いには何の役にも立ってない」
「椿、難しい事を考えるな。大丈夫だ。椿は椿だというだけで、きっとサンタは願いを叶えてくれる」
「そう、かな」
「そうだよ!ほらほら、書いてみて」
願い。願いか。それなら私は、書きたいことがある。他人に頼るのもどうかと思うけれど、こればかりは他人にも、それこそ、何でもプレゼントしてくれるサンタさんにも頼りたくなってしまうことだ。
これからも変わらず幸せな日々が続きますように。その一文だけを便箋に小さくしたためる。再び折りたたんで封筒にしまおうとすると、後ろからぎゅうと鯰尾に抱きしめられた。それと同時に、骨喰は私の頭を撫でている。
「もぉぉおお!そんな七夕みたいなこと書いてー!!もーー!!」
「椿は本当に良い子だ」
「変か?」
「変じゃないよ!変じゃないけど、もっとこう、食べたいものとか無い!?きっとサンタさんももう一個くらいプレゼントくれるって!」
「食べたいもの・・・」
「好きなケーキは無いのか?今年はまだ決まっていないらしい」
「あ〜、要望が多すぎてってやつ?」
「・・・サンタさんはケーキも運ぶのか・・・?」
「アッ!あーーー!誰かがケーキ欲しいって書いたって聞いたような聞いてないようなー!?」
「・・・ケーキの指定が無いから困っているそうだ」
「私が種類を決めても良いの?」
「いいよいいよ!誰も文句言わないって!」
「・・・この前、テレビでやってたんだ。シュークリームが一杯積み重なってて、こう・・・そう、クリスマスツリーみたいになってて。なんていう名前だったか忘れちゃったんだけど」
「よし!それ手紙に書いておこう!特徴だけでも!なんとかなりますって!」
「まあ、期待しないでおこう」
「いや、意地でも作ってもらおう」
ケーキの事も増やした便箋を大事に封筒にしまって、ノリで封をする。今剣に言われたように粟田口の部屋へ行き、手作り感溢れるダンボールのポストに投函する。柄にもなく少し、ワクワクしてしまう。
「燭台切さんお願いします!椿ちゃんの為に、シュークリームのクリスマスツリーを・・・!主もお願いしてください!」
「鯰尾くん、クロカンブッシュ!クロカンブッシュって言うんだって!燭台切さん!クロカンブッシュを何卒・・・!私も食べたい!」
「俺からも頼む。作れはしないが・・・片付けなら手伝える」
「シュークリームは作ったことが無いんだけど・・・ここでやらなきゃ格好悪いよね!」
「キャー!燭台切さん格好良いー!」
「キャー!燭台切さん惚れるー!」
「2メートルくらいのを作ってくれ」
「骨喰くん!?」
20161225
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