あの子 | ナノ
仲良くしましょう

「椿ちゃん!一緒にお風呂入ろうよ!」


乱が、私の腕にくっつきながらそう言った。私も、短刀に好かれるようになったものだなとしみじみ思う。ついこの間まで、遠巻きから珍獣でも見るかのような扱いだったのに・・・。乱のお願いに私は喜んで答えようとしたところで、乱がいる方とは反対の腕に、鯰尾がぶつかってくるような勢いで絡んできた。


「お風呂!?許さないよ乱!俺だって一緒に入ったことないのに!」

「鯰兄は一緒の部屋で一緒に寝てるでしょ!ずるいよ、ボクも椿ちゃんと寝たいのに!」


私の両側でぎゃんぎゃん言い合うのはいいけれど、風呂の順番があるのだから早く行った方がいいのではないかと思う。他の短刀は、こちらを伺いつつも準備を整えて先に行ってしまった。私は、別に一緒に風呂へ入るぐらい訳ないのだが、何故だか鯰尾が私の腕を掴んで離さない。


「椿ちゃんはボクとお風呂行くの〜・・・!」

「許しません〜・・・!」

「鯰尾、私は大丈夫だ。それに・・・短刀と仲良くなれる折角の機会だから、一緒に入ろうと思う。」

「じゃ、決まりだな。椿姉さん。」

「薬研!?」

「背中、流しあいっこしようぜ。」

「あ、じゃあボクは頭洗って欲しいなー!」

「頭を洗う?・・・上手くできるだろうか・・・。」

「ああ・・・ああ・・・!骨喰!どうしよう骨喰!椿ちゃんが汚される!」

「落ち着け兄弟。たかが一緒に風呂へ入るだけだろう。」

「分かんないよ!?分かんな・・・ううわああ!こうなりゃヤケだ!次郎太刀のとこで酒盛りだ!」

「なぜ俺まで引っ張っていくんだ。」

「お前だって寂しいくせに!」

「そんなことはない。」

「二人とも、呑みすぎるなよ。さ、行こうか乱。薬研。」

「うんっ!」


短刀たちが風呂へ入るのは基本的には早めの時間なので、普段は最後の最後に入る私は、なんだか少し変な感じがする。この場にそぐわないような、少し居心地が悪いような。それに、こんなに賑やかな浴場というのも初めての事なので、本当に落ち着かない。そわそわとしながらも、私はセーラー服を脱いでいく。


「おお、良い脱ぎっぷりだな。」

「?、何か可笑しいか?」

「いや。・・・これが俺たち短刀じゃなくて、例えば・・・鯰尾や燭台切の旦那の前でも、同じように脱いだか?」

「脱がなきゃ風呂には入れないだろう?」

「そりゃそうだ。」


くく、と喉で笑った薬研を横目に、最後に下着を脱いで中へ入ろうとすると、乱に腕を引っ張られた。押し付けられたのはバスタオルだ。


「バスタオル巻いて!身体に!」

「え?」

「なんだ乱、今更照れたか?」

「う〜、だって・・・!ほら椿ちゃん、ボクも、みんなもきっと目のやり場に困っちゃうから・・・!」

「そうなのか?」

「俺っちはそのままでも構わんが。」

「薬研!」


乱に言われるがままバスタオルを巻き、ようやく中へ入る。一人では大きすぎた大浴場は、今は短刀たちが居るお陰で丁度良いくらいだ。思い思いにお喋りをする声が響いて、少し騒がしいくらい。それでも、一人で入っているよりも楽しいと思える。


「さ、乱。頭を洗ってほしいんだろう?」

「ほ、ホントに良いの・・・?」

「上手に出来るか分からないがな。もし間違ってたら言ってくれ。」

「うん!」


手入れの行き届いている髪の毛を、シャワーで濡らしていく。乱専用だというシャンプーを出して、恐る恐る洗っていく。良い匂いだ。もう少し力を入れてもいいよ、と言うので少し力を強くしてみる。ちゃんと洗えているのか心配で、自分にやるよりも時間をかけて、しっかりと洗う。最後にシャワーで流して、終わり。乱は早々にタオルで髪の毛を拭いていく。


「ありがと!えへへ・・・こんなに丁寧に洗ってもらうの、初めて。」

「そうか。・・・嬉しそうで何よりだ。」

「ボクは最後にトリートメントするんだけど、椿ちゃんは何付けてるの?」

「とり・・・ん?シャンプーだけじゃないのか?」

「ええ!?シャンプーだけでその髪の毛!?」

「あ、ああ・・・。」

「嘘だ・・・羨ましいような、勿体ないような・・・!ボクのシャンプーとトリートメント貸してあげるよ!あと、これからはちゃんと、備え付けので良いからトリートメントしてね!?」

「分かった。努力しよう。」


乱はスルスルと、髪の毛にトリートメントとやらを付けると、器用に髪の毛をタオルの中にしまう。そして、うさぎの形をした可愛いスポンジで身体を洗い始めた。・・・ちょっと羨ましい。私も、猫の形のスポンジが欲しい。主に言ったら買ってくれないだろうか・・・そんな事を思いながら、手早く頭を洗ってしまう。乱に言われた通りにトリートメントを付けて、ヘアゴムでくくる。すぐに洗い流さずに、時間を置くと良いらしい。乱と同じ、嗅ぎなれない良い匂いがして、柄にもなく嬉しくなる。


「じゃあ、次は俺っちの番だな。」

「待っていたのか。」

「こんなチャンス、そうそうないだろ。」

「そうか?私はまた、皆と入りたいけどなあ。さて、背中を流すんだったな。」

「正確には流し合いっ子だな。俺の次は椿姉さんの番だぜ。」


タオルを泡立たせて、これまた恐る恐る背中を洗う。乱と同じように、もっと力を入れてくれと言われてしまった。他人の身体を洗うのは難しい。よくよく背中を見てみると、大小いくつもの傷跡があるのが分かる。私にあるのは、比較的新しい傷ばかりで、どれもすぐに消えてしまいそうなものだ。しかし薬研にあるのは、もう随分と前からあるような傷ばかり。やはり、戦禍を駆け抜けてきた刀と私は、違うな。


「うし、じゃあ今度は俺が洗う番だな。」

「薬研、椿ちゃんに変なことしないでよね!セクハラとか本当にわからなさそうだから!」

「事故なら仕方ないよな。」

「仕方なくない!椿ちゃん、薬研に背中じゃない所触られたら叫んでね!ボク、飛んでいくからね!」


乱はそれだけ言うと、浴槽の方へ行った。まだトリートメントは流さないらしい。


「椿姉さん、バスタオル取ってくれ。背中が洗えない。」

「ああ、すまない。」


薬研が私の背中を、手馴れたようにゴシゴシと洗っていく。力が強すぎるとか弱すぎるとかないけれど、誰かに背中を洗ってもらうのが初めてなので、むずむずとくすぐったくなってしまう。


「んひっ!」

「おお、悪い悪い。姉さん、脇腹は苦手か?」

「ゾワゾワした。」

「くすぐったかったか。・・・どれ、もう一度。」


薬研の人差し指が、つうと脇腹を縦になぞる。なんだかよく分からない、自分でも聞いたことのないような気の抜けた声が出てしまう。そして、その指を避けようと身体をねじってしまったせいで、椅子から転げ落ちてしまった。思ったよりも大きな音が響く。


「えっ、な、なんですか?」

「椿さん?大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ・・・!」

「薬研!なにしたの!」

「姉さんは脇腹が弱いらしい。」

「そんな事聞いてない!」

「そうか、私は脇腹が弱点か・・・!」


脇を締めて行くべきか、と思いかけたところで、敵は脇腹をこんな風に狙ってくる事はないんじゃないかと思い直す。
身体を洗い、私と薬研も浴槽に入る。バスタオルを巻いたまま入るのは、ちょっと窮屈に感じるが、巻いておけと言われるので仕方ない。


「そうだ。椿姉さん、このままこの前の借りを返してくれないか。」

「借り・・・ああ、添い寝か。」

「えっ、なにそれ!?」

「この前、長谷部とやりあった時に世話になったからな。礼として添い寝をする約束をしていたんだ。」

「じゃあボク、椿ちゃんの反対側で寝る!」

「だーめーだ。今晩は俺だけの椿姉さんになってもらうからな。」

「その言い方ヤラシイ!オヤジくさい!」

「何とでも言え。」


その後、のぼせる前に浴槽から上がる。忘れないようにトリートメントを流して、ちゃんとドライヤーまでやってようやく浴場から出た。ドライヤーは、あんなに丁寧にやるものだったのか・・・。ドライヤーの熱でのぼせてしまいそうだ。
相変わらず、両側に薬研と乱を連れて廊下を歩いていると、後ろから小走りしてくるような足音が聞こえてきた。振り返ると同時に、誰かが胸に飛び込んでくる。この、触覚が飛び出た黒髪は鯰尾だ。鯰尾は風呂に入っていないにも関わらず熱く、そして酒臭い。


「椿ちゃん!!変なことされなかった!?おっぱいは!?おっぱいは触られなかった!?」

「今現在、鯰尾が顔を押し付けてくる以外には何もなかった。」

「そうなんだ!良かった!良かった!俺だけのおっぱい枕!」

「人の胸を枕呼ばわりか。」

「ん〜ふふふ、柔らかい〜いい匂い〜このまま押し倒しちゃうぞ〜?襲っちゃうぞ〜?んひひ・・・。」

「もっとオヤジくさいのがいた・・・。」

「骨喰はどうした?」

「あいつなら、まだ次郎太刀の部屋に居る!」

「まだ呑んでるのか?」

「んにゃ、潰れて寝てる!あはははは!」

「笑い事か。」


まあ、寝ているだけなら良いか。鯰尾のように誰かに絡んでいるのなら、部屋に連れ帰るべきだとは思うけれど・・・。


「鯰尾、今日はもう寝ろ。人様に迷惑をかける前に。」

「寝る!?やっだ、椿ちゃんたら大胆・・・!俺、いつでもオッケーだから・・・!」

「残念だったな。今日、椿姉さんは俺と寝るんだ。」

「・・・ええ?なんで?」

「私には貸しがあるからな。今日は短刀たちの部屋で寝る。」

「え、えっ!やだ!なんで!俺以外と寝るなんて許さないんだから!」

「鯰兄!誤解を招くような言い方やめて!」

「それにしても良い事を聞いた。おっぱい枕、か。」

「!!!、薬研!これは!これは俺だけのものだから!ダメ!!」

「はいはい、分かった分かった。」

「わかってないだろ!」

「椿姉さん、先に言って布団を温めておいてくれ。鯰尾兄さんを部屋まで送ったらすぐ行く。」

「そうか・・・気をつけて。」

「任せとけ。」

「椿ちゃん、行こ。」

「椿ちゃん、椿ちゃ〜ん・・・!」


ひたすら私の名前を呼ぶだけになった鯰尾は、薬研に引っ張られて行ってしまった。基本的には、普段の鯰尾とそう変わらないけれど、色々とあからさまになっていたなあ。


「酒を飲むと、みんなあんな感じになるのか?」

「うーん・・・人によるかな。鯰兄みたいにずっと笑ってたり、ひたすら泣いてる人もいたし、変わらない人もいるよ。」

「そうなのか・・・。」

「椿ちゃんは、飲んでもあんまり変わらなさそうだよね。それより、湯冷めしちゃう前に行こ!きっともう、前田や平野たちが布団を敷いてくれてると思うよ!」


短刀たちの部屋に入ると、乱が言っていたようにもう布団が敷かれていた。人数が人数なので、私の部屋よりも大きな部屋だったけれど、それでも布団を敷いてしまえば畳が見えなくなってしまうくらい、敷き詰められていた。壮観だ。
五虎退がやってきて、おやすみの前に頭を撫でてください、と言うものだから私はそれに応える。すると、乱も五虎退の後ろに並んで、期待するような目をこちらに向ける。五虎退と同じようにしてやると、乱の後ろには前田がいて、その後ろには平野・・・短刀の行列が出来上がっていた。いや、本当に、驚くくらい好かれるようにあったものだなぁ、私・・・。


「待たせたな。」

「薬研、おかえり。鯰尾は大丈夫そうか?」

「ああ、大丈夫さ。」


面白そうな事してるな、と薬研も並ぶ。最後のひと仕事を終えて、私は薬研と同じ布団に入った。薬研は布団に入るなり、さっきの鯰尾と同じように抱きついてくる。私はそんな薬研の背中に手を回し、リズムよく叩く。確か、前の主が妹と添い寝をするのを見たときに、こんな事をしていたのを覚えている。


「こりゃ良いな。」

「そうか?」

「ああ、なんだか、安心する・・・。」


私も気分が乗ってきたので、子守唄の一つでも歌ってやろうかと思っていたのに、薬研はすぐに眠ってしまった。薬研も疲れが溜まっていたのかもしれない。
風呂同様、人数が多い中で眠るのは初めてだったけれど、悪くない。いつもより多く聞こえる衣擦れの音も、抱いている温かさも、心地が良いと思う。今夜はぐっすり眠ることが出来そうだ。
20150711
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