胡蝶が夢見る七日間 | ナノ
2day

 朝、広い畳の間でシカマルたち一行は姫に朝餉に呼ばれていた。並ぶのは魚の煮付けに豆腐の味噌汁、煮物におひたしエトセトラ。朝から品数が多い。だが量は平均的な一人前の量だったので、シカマルはついぽっちゃり系の幼馴染に視線を滑らせた。案の定、不満そうな顔をしている。肉がなかったこともその中に入っているのだろうな、と考えながらシカマルは箸をとった。
 ところで、と彼は今度は姫を視界に入れる。
 「(昨日のことを含め、随分気安いオヒメサマだな)」
 この気安さといい、自由さといい本当に良家のお嬢様なのかと姫の素性を疑う。しかも昨日から今まで見ていた分には、刺客の影に怯える様子も見せなかった。
 姫は物足りなさそうにしているチョウジに気づき、追加を用意させている。
 「ありがとうございます!」
 「チョウジはほんによう食べる。そなたの食べっぷりは気持ちが良いほどだ」
 姫がチョウジを見てころころ笑う。
 ・・・いや、あれは大らかなのか・・・?それならば逆に呑気な富裕層の箱入り娘らしい性格とも言える。
 「・・・そろそろやめとけ、チョウジ。腹がいっぱいで動けねえなんて洒落にもなんねえからな」
 「えーーっまだまだいけるよー」
 チョウジが不満げな声を出す。いのにも止められて、やっとチョウジは引き下がった。文句を言いながらであったが。その様子を姫はニコニコしながら見ている。・・・やっぱり、大らかなだけなのかもしんねえ。


 そして食後。姫は立ち上がって言った。
 「いの、遊ぼう」
 「いいですよ。何して遊びます?」
 「将棋がよい」
 いのは苦笑いをした。
 「私は将棋は指せなくて・・・でも、将棋ならシカマルが強いですよ」
 「おい、いの。遊び相手はお前だろ」
 「だってできないものは仕方ないじゃーん」
 「そうか、ではシカマル。相手いたせ」
 「・・・・・・分かりましたよ」
 仕方がない、とシカマルは使用人が用意した将棋盤の前に腰を下ろす。「うむ」姫は満足そうに一度頷いて向かい側にちょこんと座った。
 「手加減などと野暮なことは考えるなよ」
 「へいへい・・・あ、いや・・・はい、分かりました」
 しまった、将棋盤を前にしているせいか、ついいつもの調子が出てしまった。冷や汗をかきながらちらりと姫の様子を伺うと、姫は小さな口元を袖で軽く隠しながらクスクスとそよ風のように笑っていた。こういう部分は実にお姫様らしい。
 ぱちん、と駒を動かす。いい音だ。さすが金持ち。いいものを使っている。
 姫も小さな手でぱちん、と音を立てた。彼女の手は薄手の黒い手袋で覆われていて、指しにくくないのかと気になった。
 袖が邪魔にならないよう、片手で袖を抑えている。そのせいか、いつもは隠れている手首までもが顕になった。手袋は指先から手の甲の半分までしかないもので、手袋の黒と肌の白さが対照的だ。

 「木の葉は、どのようなところだ?」
 ぱちん、ぱちん、と心地よい音が一定のリズムを刻んでいる。
 「火影と呼ばれる里長が治める忍里で、国内外から依頼を受けて各忍に依頼のランクに合わせて仕事を分配、依頼の報酬で生計を立ててるって感じですかね」
 「固い説明だな」
 「・・・はあ、すんません」
 「では街並みは?ここから見える町の様子と似た感じだろうか」
 「まあ、ざっくりとは。気候も似ていますしね。でもこちらの方が建物が密集していて人口密度が高い印象があります。それから木の葉の方には里のどこからでも見える、顔岩・・・歴代火影たちの顔を彫ったものなんですけど、それがあります。それに木の葉の方が緑が多いですね」
 「なるほど。忍里と言っていたが、里には忍しかいないのか?」
 「いや、確かに忍が多いのは事実ですけど、飯屋とか病院とかもありますし、一般の人も多く暮らしてますよ」
 「そうなのか、意外だ」
 姫の手が止まる。シカマルは彼女の視線の先を観察する。これは攻めようか守りに徹するべきか悩んでいるな、とあたりをつける。
 「忍にはいののように女性も多いのだろうか」
 ぱちん、と盤が鳴る。どうやら守ることに決めたようだ。
 「いや、そんなに多くはないです。大体忍全体の三分の一ってとこですね」
 「なら異業者同士の結婚もよくあることなのか」
 「まあ、それなりに」
 「シカマルはどんな女性と付き合っておるのだ?」
 「ぶっ、は、ごほっげほっ」
 思わぬ質問に今度はこちらの手が止まる。
 「おい、そなたの番だぞ」
 「すんま、せん(あんたのせいですけど!)」
 「それでどうなのだ」
 「いやその話まだ続けるんすか!」
 「なんだ、おらんのか」
 「いませんよ!」
 思わず叫ぶと姫は上半身を捻って向こうにいる、いのとチョウジに呼びかけた。
 「・・・とシカマルは言っているが、いの、チョウジ、本当かー?」
 「聞くなよ!」
 いのとチョウジの笑い声が聞こえる。因みに、端に控えていた侍女には睨まれた。






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