恋々 | ナノ


3 葛藤




 日向ネジは私の好きな人であり、天敵である。だが私の天敵は、実は、もう一人存在するのだ。

 外でお姉様を見かけるとき、必ずと言っていいほどそいつはお姉様の近くにいる。正確には、お姉様の方がやつのストーキングをしているわけだがそんなことはどうだっていい。問題なのはお姉様がそいつ・・・うずまきナルトを好きだということである。どうしてって、そいつはとってもおバカでどうしようもないのだ。だっていつもイタズラをして大人に怒られているし、アカデミーでもドベだと聞く。見た目も不細工とは言わないが、少なくともイケメンではないし、煩くて全然クールじゃない。極めつけは、お姉様のわかり易すぎる熱視線に、まっっっっったく!気がつかないことである!全然気づく様子もないうずまきナルトも馬鹿だが、そんなどこがいいのかわからない奴を、頬を染めて影からずっと見ているお姉様も馬鹿だ。お姉様に関してはとても甘いと自負している私すらそう思ってしまう。
 なにより、なにより。
 「・・・・・・」
 「・・・ハナコ様、早く行きましょう」
 私の視線の先には、膝小僧得を怪我している金髪の男の子。先ほどそこにいる店主に突き飛ばされたのだ。その男の子の名は、言わずもがな、うずまきナルトである。
 「・・・、ハナコ様!」
 うずまきナルトは里中の嫌われ者だ。いつからとかどうしてとかは知らない。でも、私の知る限りずっと、彼は嫌われ者だった。
 今、店主が突き飛ばしたのも、相手がうずまきナルトだから、というだけで理由は十分なのである。現に、子どもが大の大人に乱暴にされたというのに、誰も店主を咎めない。それどころか、ナルトの方が睨まれる始末だ。相手がナルトではなく他の子供だったなら、話は全く変わっていただろう。
 お姉さまは馬鹿だ。とても馬鹿だ。わざわざこんな人を好きにならなくてもいいのに。心の底から思う。

 「・・・いつまでそこに座っている気なの」
 でも、私も同じく馬鹿であったらしい。とてもとても、残念なことに。
私はうずまきナルトの腕をつかみ、立たせた。そしてそのまま引っ張っていく。周りがぎょっとしているが気にしないことにする。
 「な、なにするんだってばよ!」
 人垣を早足で進んでいく。周りに人が少なくなってから、少し速度を緩めた。
 外でお姉様を見かけるとき、必ずと言っていいほどそいつはお姉様の近くにいる。正確には、お姉様の方がやつのストーキングをしている。今からストーカー気質とは、将来が心配な姉である。そしてそんな姉を私は見ている。なんてことはない、私にも若干のストーカー気質があるらしい。血は争えないものだ。
 ストーカーをさらにストーカーしているその様子は、端から見たらおかしな構図だろう。視線が一方通行だ。そしてその一方通行の最後尾にいる私の目には、望まなくたって、うずまきナルトの姿も映っていたのだ。彼は意外にも、努力家だった。そんなあいつを見て、姉は幸せそうに言うのだ。「ナルト君を見てたらね、私もがんばらなきゃって、思うんだ」
 「公園」
 「は?」
 「放っといたら、ばい菌入っちゃうでしょ、それ」
 水で洗い流すの、と告げながら視線を一度だけうずまきナルトの膝小僧に向けて、すぐに前を向き直す。できるだけこいつの顔を見たくなかった。見たらきっと、情が沸いて、後に引き返せなくなってしまう。お姉さまを引き返させなきゃいけない私が。私は、私は、何をやっているのだろうか。こいつには関わってはいけないと言われていたのに。どうしてこんなことをしているのだろう。思考が滅茶苦茶だ。まるでまとまらない。お姉様の顔が浮かんでは消える。恋をするお姉様の顔はどれもとても幸せそうだった。いつかのお姉様の声が蘇る。静かに鈴を転がしたみたいな声。「誰にも内緒よ」馬鹿なお姉様。私が言わなくたって、周りにはバレバレなのに。「私ね、ナルト君のことが」うずまきナルトも馬鹿だ。「・・・好きなの」
 今こうしている、私も馬鹿だ。








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