「工藤新一の妹」




『犯人は、第一発見者と一緒にいた人間だ。』

目暮「なんだってぇ!?どういうことかね、理世くん!!」


 たくさんの刑事に囲まれる一人の少女がいる。栗色の長髪、親譲りの端正な顔立ちは髪の毛の長さも相まってまるで人形のようである。傲慢な口調はその容姿からはかけ離れていて、まるで尊大かつ老成した男性のようであった。彼女の名前は、工藤理世。あの推理小説家である工藤優作と人気女優藤峰有希子の娘だ。「平成のシャーロック・ホームズ」「日本警察の救世主」と謳われる工藤新一の双子の妹でもあった。


松田「理世」

『落ち着け』


 彼女は松田陣平を制止する。彼女は出された紅茶を飲みながら、桃色の小さな口を開くと、次々と大人たちが頭を悩ませていたことを推理していった。

 新一と理世は二卵性双生児で、外見はあまり似ていなかった。新一は好奇心旺盛で外にサッカーをしに飛び出しに行く子供であるのに対し、理世はあまり活発的ではなく室内でおとなしく本を読んでいるのが好きな子供だった。そんな双子にも共通点がある。


『殺害の動機は、彼女の日記に書いてある。』


 彼女の言葉に刑事たちはドタバタと部屋から出ていった。

 それは父親が推理小説家のせいか、それに影響され推理小説が好きなことだった。双子は根っからのシャーロキアン(アーサー・コナン・ドイルが書いた「シャーロック・ホームズ」の主人公であるシャーロック・ホームズの熱狂的なファン)で、推理が大好きだった。双子は頭脳明晰、豊富な知識量と柔軟な思考の持ち主で観察眼に優れいていた。

 決定的な相違点は、理世は現場にも行かずに事件の詳細を聞いただけで犯人を推理してしまうところだった。そうまるでアガサ・クリスティーが書いた「火曜クラブ」に出てくるミス・マープルのように。


松田「今回もお手柄だな」

『私はパズルのピースの繋ぎ方を教えただけだ。完成させるのは君たち刑事たちだ。』

松田「そう花を持たせてくれるのはお前のいいところだよな」

『じんぺーさんは行かなくていいのか。』

松田「俺はお前を家まで送らなきゃいけねぇーんだよ」


 理世はじとりと口の悪い松田を睨む。松田と理世は、理世が小学生からの中だ。理世は兄同様事件に巻き込まれる体質で、幼少期から誘拐・人質・ストーカーetc. さまざまな事件に巻き込まれてきた。そのおかげで知り合いはすべて刑事。子供なのに子供らしくない彼女は、いつも刑事と連み事件解決のためその頭脳を使う。一歩外を出ると事件が起こるという治安の悪い米花町。彼女は事件に遭遇し過ぎて1つの結論に辿り着く。


松田「たく、隣町じゃなきゃ楽なのによ」


 そう、理世は高校を隣町にある江古田高校に進学するため、放任主義な両親をいいことに隣町に住んでいた。自由奔放な両親たちは、セキュリティの高いマンションを借りること、そして3年ぐらい前に工藤邸で同居することになった顎髭のお兄さんと一緒に住むことを条件に許可したのだ。


『もう高校生だ。一人でも帰れる。』

松田「そう言って人質にされたのは誰だよ!」


 理世は頬を限界まで膨らます。彼女は怒るとリスのように頬が膨らむ。そういうところがガキなんだよなと松田は思う。怒る理世の両頬を片手で掴み、空気を抜けさせる。頭をぐしゃぐしゃと撫で、自分よりもひと回りもふた回りも小さい手を掴み引っ張った。



『ああ、じんぺーさん。』

松田「あ?」

『実家に寄ってくれ。』

松田「なんでだ?取りに行くもんでもあんのか?」


 すっかり理世の特等席になった松田の車の助手席。理世はシートベルトをすると、松田の袖を引っ張る。松田は理世に視線を合わせるため上半身を屈ませる。理世はこの松田の仕草が好きだ。ちゃんと耳を傾けてくれる彼の優しさが好きだった。後、ヘビースモーカーなのに理世の前では絶対吸わないところも。


『新一が帰ってこないと蘭に言われてね』

松田「なんだあのボウズ、家出したのか?」

『ん〜』


 工藤新一は、理世の双子の兄である。彼は帝丹高校に在籍しているため実家に住んでいる。昨晩、トロピカルランドで幼馴染の毛利蘭とのデート帰りに分かれた後家に帰ってないと蘭から電話が来ていた。昨日の顛末を彼女に聞いた理世は久しぶりに工藤邸に帰ることにしたのだと言う。


松田「なんかわかったのか?」

『そうだなぁ…これからそれを確かめに行きたいんだ。私のナイトなら付き合ってくれるんだろう?』

松田「はっ、とんだ姫君だな。」



 工藤邸に着くと、松田を連れて理世は足を踏み入れた。松田は工藤邸には何度もお邪魔した事があった。一回目は誘拐されそうになった理世を松田と親友の萩原研二が助けた時に、二回目はお礼にと食事に呼ばれた時、その後から覚えてないが遊びに行ったり食事したりしに来ていた気がする。相変わらずの豪邸だ。理世は長い髪を揺らし歩いている。栗色の髪は太陽に反射しきらきらしているように見える。すっぽりと収まってしまう小さな身体で理世はいくつもの命を救っている。松田の命もだ。

 理世はいくつか部屋を見た後、唇を左手で触る。彼女が考えるときにする仕草だ。松田は理世がこうするとき、あまり喋りかけないようにしている。彼女の何もかもを透かして見えているような、真剣な青色の瞳が気に入っていた。彼女は口を緩ませると、『阿笠博士のところに行こう』と言った。松田も何度か会った事がある、確か隣に住んでいる科学者だったはずだ。スタスタと歩いていってしまう理世を追いかけた。



『それで、新一くんは両親よりも一緒にいる時間の長い私をその母さんが見たら泣くような演技で騙せると思ったのかね?』


 理世と松田は阿笠博士の家に行くと、小さな眼鏡をかけた少年がいた。理世はいくつか話を少年と博士とすると自信満々な顔で少年のことを新一だと言ったのだ。


松田「まて、理世。お前はこのちっこいボウズのことを新一だって言うのか?」


 慌てて会話に入る松田に、理世は説明するように話し出した。幼馴染の毛利蘭と双子の兄の新一がトロピカルランドでのデートの後、蘭から新一の行方を理世は聞かれた。そして私たちの遠い親戚だという江戸川コナンの面倒をみることになったと言われたのだ。理世は蘭からの電話に適当に話を合わせたのだという。


『私には江戸川コナンというキラキラネームの親戚には覚えがない。新一がいなくなったと同時に現れた君と言う存在。よほど鋭い人間でも気づかないだろう。体が小さくなったなんて現実味がないからね。しかし、私と君は双子だよ。半身が君だということくらいわかる…』

コナン「理世…」

松田「まじかよ…」

『まあ、好奇心旺盛な君のことだ。余計な首でも突っ込んだんだろう。』

阿笠「さすが理世くんじゃな…」


 コナンが新一だと見破られ、降参だと手を挙げた。松田は驚いて口を開けていた。理世は松田の顎を押し口を閉じさせる。阿笠は新一たちを座らせ、昨晩何が起きたかを説明するべく新一は口を開いた。蘭とトロピカルランドに行き、殺人事件に巻き込まれそれを解決したこと。その場にいた黒ずくめの男たちを追いかけ、怪しげな取引現場を目撃したこと。その直後、背後からもう一人の男に気づかず襲われ、薬を飲まされたこと。体が縮んでしまったこと。阿笠博士のところに飛び込み、新一が生きていることがバレたら再度命が狙われ、周りの人間にも危害が及ぶかもしれないこと。新一を探しに来た蘭に見つかり、背後にあった本を見て「江戸川コナン」と名乗ってしまったこと。そして蘭の家に転がり込んだこと。

 理世は唇を触る。松田は「ファンタジーすぎる」と口を開けていたので理世は顎を押し、口を閉じさせる。理世は少し考えた後、新一を見て口を開いた。



『とりあえず、ネーミングセンスがないのは相変わらずだな』

コナン「そこじゃねぇだろ!!!」


 新一の双子の妹である理世はマイペース人間だ。新一と違い感情の起伏があまり無く、学校でも浮いた存在だった。同年代に比べかなり大人びているので、高嶺の花として遠目で見られていた。小さい頃から興味の対象にしか目が行かなく、同年代の子供たちと遊ぶのではなく、松田や萩原に付いて行き事件を解決する"遊び"をしていたくらいだ。彼女が今でも好きなのは推理と甘味だった。


『そこしかない』

松田「いやもっとあっただろ。黒ずくめの男とか、体が小さくなる薬とか」

コナン「ほんとだよ」


 新一は元に戻るため黒ずくめの男たちのことを探ることにしたらしい。刑事である松田も協力するとのことで話は終わった。しばらくは毛利探偵事務所で世話になりつつ、小学校に通うらしい。


『新一の好奇心旺盛なところは買うが、もう少し落ち着いて行動しないと命を落とすぞ。』

コナン「はぁ!?」

『それと、嘘をつくとき右の口角が引き攣る癖直したほうがいいぞ。』


 そう言い残し、理世はお腹が空いたといい松田を連れて帰ってしまった。終始マイペースぶりに振り回された阿笠とコナンだった。しかし、彼女の忠告通り落ち着いて行動しなかったばっかりに蘭に正体がバレそうになったのはご愛嬌である。

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