「赤い糸が繋がるまで」




 双子が中学生になり理世が家事をマスターすると、いつまでも新婚ラブラブ夫婦の優作と有希子は海外に飛んだ。自由奔放な人たちで、帰ってくるならまあいいかという気持ちで笑顔で見送った。優作たちはどうやら萩原と松田に双子の様子を見るように頼んだのか、さらに頻繁に来るようになった。

 11月1日。今日の夕飯はハンバーグだ。
 最初に大蒜と玉葱をみじん切りにしてフライパンで炒める。香ばしい香りがしてきた。次にパン粉・牛乳・卵・調味料をボウルで混ぜ合わせる。大蒜と玉葱の粗熱が取れたら、さっきのと混ぜ合わせる。合挽き肉を出す。工藤家は合挽き肉派だ。豚肉だと柔らかい食感に、牛肉だと肉感が強くなのだ。合挽き肉を混ぜ終わったら、冷蔵庫で休ませる。その間に飾りを作る。ブロッコリーと人参を切り、茹でる。スイートコーンとグリーンピースも買っておいた。冷蔵庫から硬くなったお肉を取り出す。今日はチーズinハンバーグにしようか。空気をよく抜きながら成形する。理世以外はよく食べるので大きく作る。フライパンで焼き始める。裏面まで焼くと、赤ワインで蒸す。中濃ソースとケチャップをフライパンに入れて味を染み込ませる。これで完成だ。じゃがいもとベーコンの豆乳チャウダーも作った。クリーミーな大豆の味わいがとても美味しいのだ。

 お皿に盛り付けると萩原がキッチンに入ってくる。手伝いに来てくれたようだ。盛り付けが終わったのから運んでもらう。新一と松田は今やっているミステリードラマで犯人を当てるゲームをしていたようだ。


萩原「今日もめちゃくちゃ美味しいよ」

『ありがとう、けんじさん』

新一「どんどん上達するよな」

『新一も少しはできるようになったら?』

松田「新一には無理だな」

新一「失礼だなぁ!」


 食事を終えると松田が食器を洗ってくれた。理世は洗ってくれた食器を拭いていく。理世は松田に聞きたいことがあった。今日は二人はお泊まりの約束なので、萩原は先ほどお風呂にいった。松田の横顔を盗み見る。少し大人になり落ち着きが出てきたのか、とてもカッコいい。口は悪いが優しい彼は警視庁でもだいぶモテモテだ。この前も交通課の女性に言い寄られていた。萩原は当たり前のようにモテているが、彼女がいる素振りがない。まあ、居たら工藤家に来ないか。

 理世の初恋は松田だった。

 助けられたあの日から。

 歳が離れているので相手にされることはないのは知っている。だから、誰にも悟られぬようにしてきた。恋愛に興味ないように、素知らぬ顔をして。


松田「なんだよ。そんなジロジロ見んな。」

『見てない。あのさ、じんぺーさん』

松田「ん?」

『なんで捜査一課に転属したんだ?』


 松田の手が止まる。


松田「お前にはかんけーねえよ」


 そう言うと、松田は最後のお皿を渡すと行ってしまった。知られたくないか。なんだかショックだった。まあ松田のいうことはもっともだし、余計な首を突っ込んだかなと反省する。松田が爆処を離れ、捜査一課に転属しようが理世には関係ないのだ。それが事実だ。



 それから松田と理世は疎遠になっていった。一緒に食事やお泊まりはするが、松田と理世は一言も言葉を交わさなかった。萩原は気を使ったのか「気になることがあるから転属したんだよ。」と言っていた。4年前から希望していたらしく、やっと転属できたらしい。



 理世は悪意のある嫌がらせには慣れていた。この容姿に産まれ14年。あの両親から産まれきたのだから当然だった。

 栗色の艶やかな長い髪は揺れるとなんだか良い匂いがするし、太陽を知らないような白い肌に薔薇色の頬、双子の兄と同じ青い瞳は長い睫毛に縁取られていた。有希子譲りの理世の端正な顔立ちはとても目立った。理世はこの人生、他人からたくさんの嫉妬・羨望・好意を向けられてきた。本音を言うと、迷惑だった。有希子から「嫉妬も妬みも美しいからこそよ。ファンレターだと思いなさい。」と言われた。なんでそんな話になったのかというと、警視庁での嫌がらせが発端だった。



 今日も目暮警部に呼ばれ、警視庁に赴いていた。どうやら松田は外回りらしくいなかった。それに少し安心した。いつものように詳細を聞き、推理する。すぐに犯人は捕まり、事件は解決した。そして理世は平井刑事の車で送られることになったのだ。彼は平井龍太郎と言って、4月に配属されたばかりの新人だ。松田がいないと平井に送迎されることが多い。正義感の強く真面目な彼は、理世の扱いに慣れていないためドギマギしながらも嫌な顔をせず車を出してくれる。

 平井がトイレに行くと理世の傍を離れたときのことだった。

 一人の女性警察官が理世の前に立ち塞がる。


「萩原君と松田君に色目つかってんじゃないわよ。松田君は佐藤さんと付き合っているみたいだし、ガキのあんたなんか相手にされないわよ。」


 叫ぶように言われる。パチンっと平手打ちを食らい、体の軽い理世は吹っ飛んだ。理世は言われ覚えのないことにびっくりしたが、すぐに理解した。この女性は萩原と松田のことが好きなのだ。嫉妬か。殴られた頬を抑え、立ち上がる。


『相手にされないからって私にあたらないでくれ。』


 その言葉に怒った女性は再度腕を振り翳した。

 理世の目の前に腕が入る。トイレから戻ってきた平井がいた。


平井「やめてください。立派な暴行罪です。」

「っ…あなたには関係ないでしょ!?その子邪魔なのよ!!」


 ヒステリックに叫ぶ。目を吊り上げ、顔が歪んでいる。
 平井は理世を守るように前に立ってくれる。平井はスマホを取り出し、動画を撮ったことを女性に伝えると逃げるように去っていった。


平井「今、冷やすものを」


 平井のスーツの袖を引っ張る。『いらない』と首を横に振る。
 平井は理世を車に案内した。助手席の扉を開け、座ってシートベルトをつける。少し待つように言われた。数分して戻ってくると、冷たい紅茶のペットボトルを頬にあてられた。なんてお人好しなんだろうか。こんな愛想の悪い子供なんか放っておけばいいのに。


『あ、ありがとうございます。……平井刑事。』


 平井は驚いたように肩をびくつかせた。それを不思議に思い、理世は見つめる。どうやら彼は理世が喋ったことに驚いたらしい。確かに今まで警戒して最低限しか喋らなかった。

 「よくあるんですか?」と聞かれたので頷いた。なんだか彼は落ち着きがないようだ。チラチラと見てくるのは常だが、なんだか頬が赤いし、口元が緩んでいる。誰にも公言しないでほしいというと、仲の良い萩原と松田には言わないのかと心配された。理世が静かに首を横に振ると、平井はそのあと何も言わなかった。






 その数日後、学校帰りに松田と佐藤が一緒にいるところを見てしまった。仲睦まじく楽しそうに喋る二人を見ると手が震えた。ズキズキと胸が痛む。体の中から何かが落下していくのを感じる。まるで胸の肉を抉り取られたような気分だ。

 さらりと、風が吹く。


『"思へども 験もなしと知るものを 何かここだく あが恋ひわたる"か』


 その声は、誰にも届かずに宙に消えた。




 11月7日。理世はストレスのせいか、風邪をひいて熱を出してしまった。両親はロスにいるので、頼れる大人はいなかった。萩原と松田は仕事だし他の知り合いには連絡がついていない。隣の阿笠博士は研究発表会で不在なのだ。理世は一人で米花中央病院に来ていた。理世は病院が嫌いだ。診察までは長いし、終わって会計までも長い。マスクをして、たくさん着込んで待合室で待っていた。

 すると、イヤホンをして紙袋を持った面長の男が目に入る。

 理世は自分が4年前に見た不審者だと思い出した。あのときは小学生だからと相手にされなかったが、理世は学習しない女ではない、阿笠博士に頼み込み、発信機と受信機である腕時計を作ってもらった。この発信機は理世が持ち歩いている電子辞書程度の大きさのノートパソコンでも追跡できる。理世は隠し撮りする。トイレに行くフリをして男のコートに発信機をつける。

 理世はパソコンを開いた。



 しばらくして男がいなくなったことを確認すると、理世は持っていた紙袋を探した。男が座っていた座席の下を見ると紙袋を見つけた。中身をそっと見る。爆弾だった。体が強張る。4年前のと構造が似ている。理世はすぐに萩原に電話をするため携帯を取り出した。そしてパソコンを取り出す。


『どうしよう、けんじさん。爆弾見つけちゃった。』


 ワンコールで出てくれる萩原に伝える。頭がグラグラするのを我慢しながら、理世はここまでの経緯を話した。「理世ちゃん深呼吸。」心地いい萩原の声が聞こえる。言われた通り、ふーっと深呼吸する。「怖くて堪らないと思うけど、すぐに俺が行くからね。」そう言ってくれる萩原に理世は透かさず『防護服着てね』と言うと、「もうあんな思いは懲り懲りだからね」と笑い声が聞こえた。萩原との電話を切ると、理世は目暮警部に電話をかける。また経緯を話し終えると、松田から電話が来る。少し緊張した。1週間碌に喋っていないのだ。


『…はい。』

松田「理世か?」

『ああ。』

松田「ちょっとこの暗号解いてくれ。答え合わせしたい。
  " 我は円卓の騎士なり
   愚かで狡猾な
   警察諸君に告ぐ
   本日正午と14時に
   我が戦友の首を弔う
   面白い花火を
   打ち上げる
   止めたくば
   我が元へ来い
   72番目の席を空けて
   待っている" 」

『円盤型で72もあるのは杯戸ショッピングモールにある大観覧車くらいだな。』

松田「俺もそう思う。」

『この文面からして、4年前の爆弾魔みたいだな。正午と14時ってことは爆弾はまた2つあるという意味か。』

松田「そうだな。」

『円卓の騎士は、アーサー王物語に出てくるアーサー王の支配下の騎士たちのことだ。アーサー王は5世紀後半から6世紀初頭、中世ヨーロッパで活躍したブリトン人の君主だ。中世ヨーロッパの騎士たちの鎧には十字が施されている。十字は地図記号で病院を意味する。』

松田「やっぱり病院か。問題はどこの病院かだな。」

『実を言うと、その二つ目の爆弾を私は見つけた。』

松田「はあ!?、お前、まじか…」


 理世はこれまでの経緯を松田に話す。三回目だ。松田は若干引いている。理世はパソコンのエンターキーを押した。


『今持ってきたパソコンから松本さんに詳細を送った。犯人の証拠と発信源もね。今度は証拠不十分なんて言わせない。』

松田「おまっ、松本ってもしかして警視か!?」

『ああ、知り合いなんだ。それでじんぺーさんは観覧車の方に解体に行くんだな?』

松田「ああ。」

『大丈夫だよな?』

松田「お前を置いていかねぇよ。だから、あぶねーことすんなよ。」


 気まずくなっていたことを忘れ、理世は安心して電話を切る。すると、機動隊が到着したようだ。秘密裏に行うようで、一人が確認してきた。理世は萩原のところに走っていき、『私は犯人を追う、後は頼んだ。』というと病院から走り出した。後ろから理世を止める萩原の声も聞かずに。


 体が重い。

 頭が痛い。

 息があがる。


 杯戸ショッピングモールにつくと、大観覧車の近くはいくつか爆破されてしまったようだ。黒い煙が見える。理世は爆発してたくさんの人だかりのなか、先ほどの男を見つけた。


松本「理世君」

『松本さん、』

松本「犯人は」


 理世は松本に送っていた証拠を送っていたため、すでに逮捕状を作って杯戸ショッピングモールに来たらしい。たくさんの私服警官を連れているようだ。理世は腕時計を見せると、松本は頷く。


松本「逮捕だ!!!」


 私服警官が一斉に飛び出し、一人の警官が犯人の腕を後ろにし手錠をかけた。


『もしかしたら遠隔操作のボタンを持っているかもしれません。4年前と一緒なら携帯電話がそれです。』

松本「ああ、わかってる」



「ありました!!!」



 犯人の身体中をまさぐっていた一人の警官が携帯電話を取り出した。理世はそれを見ると鞄から携帯電話を取り出した。松田に電話をかける。何コールかすると、松田が出る。


松田「理世か、」

『ああ。犯人を取り押さえたぞ。今けんじさんも解体終わったって、』

松田「"勇敢なる警察官よ、君の勇気を称えて褒美を与えよう もうひとつのもっと大きな花火のありかのヒントを 表示するのは 爆発3秒前 検討を祈る"」

『まさか、ヒントか。』

松田「それがフェイクだってこともあるだろ」

『まさか、解体せずヒントを見る気じゃないだろうな!』

松田「はっ、やっぱわかっちまうか。」

『暗号にあったもう一つの爆弾の場所は米花中央病院で合ってた。なんで解体しない!!』


 ボロボロと涙が流れる。


松田「うぜぇな。お前に何がわかんだよ、一般人のくせに。」

『は、』

松田「お前、犯人追いかけてきただろ。お前が危ねぇのにも関わらず犯人を追いかけてきたのは、警察が信用できねぇからじゃねーのか。小学生の頭脳でもわかるトリックも解けねぇ警察、お前に嫉妬して嫌がらせしてくる警察だもんな。」


 理世は息を呑む。


松田「理世、お前は一般人なんだぞ。あぶねぇことすんなって言ったろ。」


 手に力が入る。
 優作や理世の力を借りないと事件解決まで行かない日本警察。証拠不十分として却下されてから、自分が大人に認められれば子供だとしても信用されるだろうと沢山の事件を解決した。インドアで目立ちたくない理世が警察に協力的だったのはこのためだった。それを松田は薄々感付いていたのだ。


松田「信用されてない俺らもわりい。相談してくれなかったのもそのせいだろ。だけどよ、お前が危ない目に遭うのだけは勘弁なんだ。」

『ああ。』

松田「だから誓ってくれ。俺に守られるって。」

『わかった。だからはやく戻ってきてくれ。』

松田「ああ。」


 涙が決壊したように溢れる。
 もう正午の2分前だ。理世は携帯電話を握りしめ、72番のゴンドラを見つめる。



 正午になる。


 爆発はなく、ゴンドラの中から松田が手をあげた。その瞬間、警察官たちは手をあげて喜ぶ。犯人は松本警視たちに連行された。


 白鳥が予備の制御装置を操作し、松田がゆっくりと地上に降りてきた。松田がゴンドラから降りるのを見届ける。刑事たちが松田を取り囲み、その中で佐藤が松田に抱きつくいた。松田の姿を見ると理世は体の力が抜けた。

 ぼーっとあたりが白くなる。理世は熱が出ていたことを思い出した。

 理世は騒めく歓声の中、静かに倒れた。


松田「理世!!!」

佐藤「えっ、松田君!?」


 松田は倒れる理世を見ると、佐藤を押し退け、人をかき分け走る出す。理世に駆け寄ると苦しそうに呼吸を繰り返している。11月で寒いのにたくさんの汗をかいている。顔が真っ赤だ。額を触ると火傷してしまいそうなほど熱い。


松田「すげぇ熱じゃねぇか」


 松田はすぐに救急車を呼ぶように佐藤に言う。

 理世は薄れゆく意識の中、松田の声を聞いていた。理世をしっかり抱き込み、寒くないようにスーツの上着を掛けてくれたようだ。松田の心臓の音が聞こえる。

 生きてる、生きてるんだ。


『(ほんとうはね、ほんとうはわたし)』





 理世が目覚めると、病院だった。あのあと運ばれたようだ。熱のせいか頭痛がする。明るさ的に日が落ちたぐらいか。横を見ると、萩原と松田がいるのが見える。二人は俯いていた。萩原が気づく。


萩原「理世ちゃん、起きたんだね。」

松田「お前、心配したんだぞ!!」

萩原「陣平ちゃん、ここ病院だから」


 萩原によりナースコールが押され、看護師が駆けつけた。騒いでいた松田は怒られていた。医者に診察してもらう。「熱も下がったようだから、大丈夫ですね。」理世はどうやら41.0の高熱だったらしい。確かに本当は医者に診てもらうために米花中央病院に行ったのだ。診察する前に病院を出てしまったが。走り回って熱が上がったのだろうか。どうやら帰れるようで、薬が処方されるようで、少し待つように言うと、医者は部屋から出て行った。


 萩原は飲み物を買いに行ったようで、病室に入ってきたのは松田だけだった。松田は理世を抱き締める。心臓の音がはやくなる。聞こえていないだろうか。


松田「もう勘弁な、本当に」

『ああ。』

松田「何かあったら一番に俺に言え。」

『ああ。』

松田「嫌がらせもだからな。」

『平井刑事か…』

松田「ああ。真っ先に俺に言ってきたよ。上に報告しといた。」

『迷惑、かけたくなかったんだ。』

松田「そんなのかかったことねぇよ。」



萩原「仲直りしたのね、おふたりさん

松田「見んじゃねぇ萩〜!!」


 ニヤニヤと笑いながら病室に入ってくる萩原。じゃれあう二人を見つめる。理世は静かに笑った。



 退院して、松田の車まで抱っこされて連れてかれた。歩けるから良いと言ったのに聞いてくれなかった。解せぬ。助手席を少し倒し、慎重に座席に置かれた。萩原はこのことを報告するため、警視庁に行くそうだ。理世も体調が戻り次第、事情聴取をされるらしい。


 CX-5が街を駆ける。


『じんぺーさん』

松田「なんだ。」

『佐藤刑事と付き合ってるのか?』

松田「はあ!?なんでそうなんだよ。」

『だって、抱きつかれてたし一緒に出かけるのも見た。』

松田「あれはあいつが勝手に、クソっ
変なところだけ見てんじゃねぇ!あとそれは張り込みだ!!」

『じゃあ何で捜査一課に転属したんだ?』

松田「そ、それは…」


 松田は4年前、理世が持っていた爆弾魔の写真が受理されなかったことを見て、理世が警察を信用してなかったことを悟った。頼る警察がいなければ理世は現場に出て捜査をするだろう。必然的に危ない目に遭うかもしれないのだ。

 だから松田は強行犯を希望した。自分がそばで守ればいいと思った。

 理世は目を見開いた。居心地が悪そうに眉を寄せて松田は言った。


『それって、わたしの』

松田「お前のためだとよ。俺のためでもあるからな!!」


 「言うつもりなかったんだよ」と頭をかく松田に理世はそっと微笑んだ。


『(もう少し、好きでいてもいいかな。)』


 誰にも言うつもりないけど。




***


松田「理世なんだろ?」

『何がだ?』


 真剣な面持ちで、松田は理世に詰め寄る。工藤邸のリビングには萩原と松田、そして理世が集まっていた。新一は部活でいない。

 爆弾魔が逮捕された。悪質な犯人で、2つの爆弾を違うところに設置し、多くの犠牲者を出したくなければ要求を呑まなきゃいけなかった。4年前は10億円、今回は警察官を狙うために爆発3秒前にもう一箇所の爆弾の場所のヒントを教えるというものだった。たまたま理世がもう一箇所の爆弾を見つけていたから良かったものの、理世が見つけていなければ松田は多くの民間人を助けるために、ヒントを見るためゴンドラに残ったままだっただろう。


 その犯人が、取り調べ中に変なことを言ったのだ。


「病院にある爆弾が見つけられたから遠隔操作で爆発させようとしたが、できなかった。」


 警察側は「壊れていたのだろう」と終わらせていた。松田は先輩刑事たちに「壊れてて良かったな」と口を揃えて言った。納得がいかなかった。あんな精密に作られた爆弾がたまたま遠隔操作のところだけ壊れていたのだろうか。4年前の事件の帰りに車の中で萩原と話したことを思い出し、萩原にメールを打った。その日、萩原と落ち合い工藤邸に向かうことにした。

 あんなに高熱が出ていた理世は元気になったようだ。顔色が良くなった理世を見て安心した。


萩原「俺たちは理世ちゃんがやったと思ってるんだ。」

松田「4年前の遠隔操作のコードだけ切られていたこと、今回の遠隔操作ができなかったこと。4年前のやつは隙を見て切ったと片付けられても、今回のはハッキングでもしないかぎりできない。」

『私が、犯人の携帯をハッキングしたとでも?』


 萩原と松田は頷く。理世は全く表情を動かさない。


『The proof of the pudding is in the eating. あなたたちは警察だろ。』


 理世は不敵に笑った。"The proof of the pudding is the eating"、省略して"The proof is in the pudding." 「プリンの品定めとは、食べてみることである。」という意味で、つまりは「論より証拠」という意味だったはずだ。


松田「びっくりするほど証拠がなかったんだよ。警察が押収した犯人が持っていた携帯も爆弾に取り付けられていた携帯からも何も出てこなかった。」

『だろうね。だって、全く足がつかないようにプログラムしたからね。』

萩原「理世ちゃんっ、」

松田「お前、やっぱり」


 理世はしれっと自分がやったことを認めた。椅子を引く音を出しながら立つ。身を乗り出す2人を余所に理世はそんなことを気にせず、パソコンを取り出した。萩原と松田はパソコンを覗いた。


『前回、爆弾を見た時に盗聴器と遠隔操作の装置がついていたのを見て、また爆弾犯が爆弾を作る時に再度つけるだろうと思ってね。』

松田「お前、そんな技術どこで」

『ああ、ハワイで親父に』

萩原「ハワイで!?」

『ははっ、冗談だ。お父さんに習ったのは本当だ。』


 何教えてんだあの人と松田は頭を抱えた。犯罪だぞ。不正アクセス禁止法違反。だが、理世がハッキングをしてくれなかったら、松田は遠隔操作され爆発されて死んでいただろう。


萩原「おっ、これは陣平ちゃんも理世ちゃんに命を助けられっちゃったね」

松田「だな。」

萩原「でも理世ちゃん。これは犯罪だからね」

『はーい、ごめんなさーい』

松田「お前、わかってんのか!?」

prevtopnext
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -