「てのひらの中には暖かい君」

紫苑はあまりラウンジを訪れない。なぜなら、自身の副作用サイドエフェクトである接触感応能力サイコメトリーによって他人の情報を読み取ってしまう可能性が高いからだ。いくら制御できるようになったからとはいえ、万が一があるため、紫苑は人の多いところには出ないようにしていたのだ。だから、ドリンクを買ったらそそくさと自身の部屋に帰ろうと思っていたのだ。

しかし、泣きぼくろにサンバイザーが特徴の後輩に捕まり、それは叶わなかった。

テーブル席に紫苑を座らせ、4人席であるにも関わらず隣を陣取る。紫苑の手を握る。紫苑は触ること、触られることに未だになれていなかった。ビクッと身体を揺らす紫苑に隠岐は1つ謝るが、握る手は離れなかった。読まないように集中するため、1つ深呼吸を入れる。

隠岐「ほんまにすいません。でも、紫苑さんSSRやから捕まえんとと思いまして、」

『人をカード扱いすーんーなっ』

紫苑は空いている手で隠岐の頬を引っ張る。

隠岐「だって、紫苑さんと会えるの稀すぎますよ。俺だってかまって欲しいのに」


その言葉に手を離すと、そんなに会わなかっただろうかと考える。少しばかり赤くなった頬をさする隠岐は涙目になっている。


隠岐「最近は、鈴鳴の狙撃手の子ばっかりやないですか」

『そりゃ、弟子だし』

隠岐「せやから、俺も弟子入りさせてくださいよ」

『えー、隠岐くんに教えることないでしょ』


「たくさんあるのに」とむくれる隠岐に紫苑は笑った。
顔面偏差値が高い2人にたくさんの隊員がちらちら見ている。
増えていくギャラリーに紫苑はあまり気にしていないようだった。
そう見えた。


『っ……』


隠岐「紫苑さん?」


『大丈夫、少し目眩しただけ』


『朝から体調悪くてさ』と少し離れ、こめかみを抑える紫苑に隠岐は再び紫苑の手を取る。紫苑の副作用サイドエフェクトには副作用がある。たくさんの情報を読み取ってしまう故に脳がキャパオーバーを起こして発熱や目眩を起こすことがあるのだ。人が多いラウンジにあまり寄り付かないのはこのためである。どうやら朝から頭痛がするようだった。低気圧のせいだろうか。確か紫苑は偏頭痛持ちだったと隠岐は記憶している。薬を飲むための飲み物を買いにくるためにラウンジを訪れたようだ。薬を飲ませて、一息入れる。冷たくなっている手に自分の体温を分けてあげるように摩る。リラックスすることで緩和することを隠岐は知っていたのだ。

『ごめん、少し読んだ。』

隠岐「俺が紫苑さんのことどれだけ好きかバレちゃいましたね」

『〜〜っ、もう』

隠岐「紫苑さんの部屋いきましょ。恥ずかしさで目眩と頭痛どっかいったんやないですか?」

『僕より心読めるんじゃないのか?』


「なにいってるんですか」と笑う聡い後輩に生意気と先ほどのように頬をつねった。さっぱりした表情で笑う紫苑に隠岐は嫉妬していた心は晴れていた。
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