01

迅「なあ、紫苑」

夜の三門市、といっても玉狛たまこま近くの広場。夜遅いからか、人気がなくとても静かだ。
そう紫苑に話しかけるのは、ボーダーの存在が公になる前からの仲である迅悠一だった。小さい頃から、玉狛支部がボーダー基地本部だった頃、副作用サイドエフェクト仲間とこじつけては遊んでくれる迅を紫苑は信頼しているし、兄のように思っている。

迅「明日の遠征が終わったら、面白いことが起こりそうだ。」

まず、トリオンとは人間が心臓の横に持っている見えない内臓「トリオン器官」と呼ばれる部位で生成・貯蔵されている生体エネルギーのことである。そのトリオンが多い人間は、稀にトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして超感覚を発現することがあるのだ。それが副作用サイドエフェクトと呼ばれる。
迅が副作用サイドエフェクト仲間とこじつけ遊んでくれたと話したように、迅にも紫苑にも副作用サイドエフェクトを持っている。迅の副作用サイドエフェクトは、未来視。目の前にいる人間の少し先の未来が見える能力である。
迅は楽しそうに笑いながら、右手を紫苑に差し出した。

紫苑の副作用サイドエフェクト接触感応能力サイコメトリー。自身の体表面を接触させることにより、人間や物体から現在の情報を読み取ることができる能力である。つまり、「人物」を対象にして、身体のどこかを触れることにより、情報を読み取れるのだ。

『へぇ、太刀川さんと敵対しているのが見えるね。』

迅「紫苑でも断片的かぁ。」

『なんで敵対しているのかはわからないけど、悠一が率先して戦ってるみたいだし、大丈夫だとは思うけど。』

迅を信頼しきっている紫苑に、ニヤニヤが抑えきれない。紫苑は出自のせいか、将又副作用サイドエフェクトのせいか、あまり他人が好きではない。迅の立ち位置を羨ましく思う人は多かった。

『僕が遠征に行っている間にいろいろあるみたいだね。』

迅「ああ。これから楽しみだよ。」

『何かが変わりそうだね。』


端正な顔が憂いをおびる。




迅「まだ変わるのが怖いか?」

『いや、そういうわけじゃないんだけど…』

迅「俺が守るよ。」


いつもおちゃらけた言動はどこにいったのか、水色の瞳が紫苑を見つめる。紫苑は恥ずかしくなり、顔に熱が集まるのを感じた。

『僕はもっと悠一自身を大切にしてほしいんだけど。』

迅「あははは、それはこっちのセリフだなぁ〜
 でも大丈夫。俺たちは運命共同体だろ。」

『そうだね。』

迅「あ、最近学校はどう?」

『別に』

迅「エリカ様っ!?」

『あははっ、特になにもないよ。』


 紫苑は、他のボーダー隊員が通う高校に通っていなかった。提携校である三門私立第一高等学校と六頴館ろくえいかん高等学校のことである。紫苑は幼少期からモデルの仕事をしていた。自分の容姿を有意に使うと考えた結果であった。本当なら、六頴館に入学するはずだったのだが、幼馴染が夢ノ咲学園アイドル科に入学手続きをしてしまい、見事合格してしまったのだ。


迅がこんなにも心配しているのは、ただ紫苑のことを弟のように思っているからだけではなかった。


迅「俺は、紫苑みたいに心が読めるわけではないからな。
 紫苑もよく言ってるだろ。」

『どんな想いも言葉にしなければ伝わらない。』

迅「そうそう。俺には、紫苑の気持ちがわからない。だから、言ってくれ。」


迅は、紫苑の頭を髪をかき混ぜるように撫でる。擽ったそうにする紫苑に口角が上がる。


迅「頼むぞ、相棒。」
 
『うん。』

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