夜の三門市、といっても
そう紫苑に話しかけるのは、ボーダーの存在が公になる前からの仲である迅悠一だった。小さい頃から、玉狛支部がボーダー基地本部だった頃、
迅「明日の遠征が終わったら、面白いことが起こりそうだ。」
まず、トリオンとは人間が心臓の横に持っている見えない内臓「トリオン器官」と呼ばれる部位で生成・貯蔵されている生体エネルギーのことである。そのトリオンが多い人間は、稀にトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして超感覚を発現することがあるのだ。それが
迅が
迅は楽しそうに笑いながら、右手を紫苑に差し出した。
紫苑の
『へぇ、太刀川さんと敵対しているのが見えるね。』
迅「紫苑でも断片的かぁ。」
『なんで敵対しているのかはわからないけど、悠一が率先して戦ってるみたいだし、大丈夫だとは思うけど。』
迅を信頼しきっている紫苑に、ニヤニヤが抑えきれない。紫苑は出自のせいか、将又
『僕が遠征に行っている間にいろいろあるみたいだね。』
迅「ああ。これから楽しみだよ。」
『何かが変わりそうだね。』
端正な顔が憂いをおびる。
迅「まだ変わるのが怖いか?」
『いや、そういうわけじゃないんだけど…』
迅「俺が守るよ。」
いつもおちゃらけた言動はどこにいったのか、水色の瞳が紫苑を見つめる。紫苑は恥ずかしくなり、顔に熱が集まるのを感じた。
『僕はもっと悠一自身を大切にしてほしいんだけど。』
迅「あははは、それはこっちのセリフだなぁ〜
でも大丈夫。俺たちは運命共同体だろ。」
『そうだね。』
迅「あ、最近学校はどう?」
『別に』
迅「エリカ様っ!?」
『あははっ、特になにもないよ。』
紫苑は、他のボーダー隊員が通う高校に通っていなかった。提携校である三門私立第一高等学校と
迅がこんなにも心配しているのは、ただ紫苑のことを弟のように思っているからだけではなかった。
迅「俺は、紫苑みたいに心が読めるわけではないからな。
紫苑もよく言ってるだろ。」
『どんな想いも言葉にしなければ伝わらない。』
迅「そうそう。俺には、紫苑の気持ちがわからない。だから、言ってくれ。」
迅は、紫苑の頭を髪をかき混ぜるように撫でる。擽ったそうにする紫苑に口角が上がる。
迅「頼むぞ、相棒。」
『うん。』