大好きな紫苑を独り占めしているため、犬飼は機嫌が良かった。さりげなく手を握る。紫苑は自身の持つ
それも今日までかもしれない。
瀬名「あれ、紫苑?」
スーパーの帰り道、犬飼と紫苑はお互い片手で荷物を持って、手を繋いでいた。犬飼と同じ二宮隊である辻新之助が「紫苑の最近出したシングルを聞いていた」という話に相槌を打っていた。
犬飼「紫苑ちゃん、しりあいー?」
紫苑はまだ学院で仲の良い瀬名泉とボーダーで仲の良い犬飼澄晴を会わせたことはなかった。だが、何回かライブに来たり、DVDや雑誌を見ている犬飼が瀬名を知らないわけがなかった。確かに、面白くなさそうな顔はしていたような。
『あのね、』
瀬名「紫苑、こいつ誰なわけ?」
瀬名は、自分の何歩先も歩いていた紫苑の隣を歩こうと努力してきた。瀬名よりも先に子役として売れていた紫苑。追いつこうと必死に自分を磨いてきた。紫苑に近づく女も男も跳ね除けてきた。大事に大事にしてきた。休日に大好きな紫苑が知らない男と歩いているのは沸点が低すぎる泉は怒る。
犬飼「君こそ誰なのかぁ?イケメンくん」
瀬名「はぁ?」
これは大変なことになったと紫苑は思った。商店街のど真ん中、顔面偏差値が高い3人は注目の的だった。チラチラと見てくるサラリーマンや、ひそひそと話す主婦たち、キャッキャッと騒ぐ女子高生。見ないでくれと叫びそうになりながら、この状況を打破するために考え始めた。
瀬名「はぁ?この俺をわからないんてありえないんだけどぉ
そっちこそ、どういう関係なわけぇ?」
犬飼「へぇ、気になる?」
瀬名「当たり前でしょ?紫苑につく悪い虫は俺が全部払ってきたんだから」
犬飼「へぇ、悪い虫ねぇ。」
瀬名「あんたは悪い犬みたいだけどぉ」
犬飼「ははっ、おもしろい。ただのボーダーの仲間だよ。俺、紫苑ちゃんの弟子だから。」
瀬名「ボーダー…、ちっ 」
犬飼「ボーダーまでは手が届かないもんねぇ。紫苑ちゃんのことは任せてよ。一般人、いやアイドルくんか。アイドルくんは指を咥えてみてなよ。」
もはや煽り合いというべきか、マウント祭りというべきか。性格が悪いと定評のある2人だ。まだ殴り合いの喧嘩にならないからマシだと思うべきだろう。影浦雅人だったらやばかったな。完璧に優位を取っている犬飼に瀬名はだいぶイラついているようだ。
瀬名「ボーダーのことは知らないけど、あんたは同じ高校に行きたかったんじゃないのぉ?」
犬飼「へぇ、なんで?」
瀬名「そりゃ、俺はほとんど毎日紫苑と登下校してるしぃ
俺は紫苑が作った衣装も着れるし、ピアノも曲も毎日聞いてるんだよねぇ。」
犬飼「………」
瀬名「まぁ。ボーダー隊員は歌わないし踊らないからわからないと思うけどぉ」
2人の間に冷たい空気が流れる。
このままでは、【ボーダーに入る】とか【曲作って】とか言われそうだ。【曲作って】はまだマシだが、【ボーダーに入る】と言われたら…。想像もしたくない。
『はぁ……ここで話していてもしょうがないでしょ。
明日学校だからここで終わりにしよう。』
双方とも【納得いきません】という顔をしているが紫苑は無視して犬飼の背中を押す。
犬飼「ちょ、ちょっと紫苑ちゃん!!」
瀬名「なんでそいつなわけぇ!?」
『じゃあ、泉。また明日学校で会おうね!7時に迎えにきて、GoodBye!
瀬名「あいつ、絶対許さないからね…」