「ENCOUNT」

 悲しいことに、この状況を打破する方法が思い浮かばなかった。こうなったのは、良く晴れた快晴の日だった。星野紫苑と犬飼澄晴は学校も防衛任務もないので、久しぶりに買い物に来ていた。服を買った後に、今日の晩御飯の材料を買い、紫苑の家でお泊まりするプランになっている。ちなみに、本部長である忍田真史と紫苑が一緒に住んでいる家の方である。思いっきり恋人の休日のデートだ。紫苑と犬飼が仲が良いのはボーダーでも有名だが、あらぬ噂を立てられていることを紫苑は知らなかった。他人の心情を読んでしまう副作用サイドエフェクト故に、周りを気にしないようにしているおかげであった。

 大好きな紫苑を独り占めしているため、犬飼は機嫌が良かった。さりげなく手を握る。紫苑は自身の持つ副作用サイドエフェクトのため人に触れるのを嫌がる。嫌がるというより、トラウマになっているのだろう。未だに、肩が跳ねている。といっても、良くみないとわからない程度だ。接触感応能力サイコメトリーと言って、自身の触れたところ全てからあらゆる情報を読み取ってしまう副作用サイドエフェクトだ。幼少期はこの副作用サイドエフェクトのおかげで両親に更に嫌われる要因にもなったし、紫苑はよく思っていない。それにも関わらずボーダーの人間ときたら「読まれて恥ずかしい生き方をしてきたつもりは無い」と言って遠慮なく触ってくる。犬飼なんかはその代表で、「じゃあ小細工なんかいらないよね、紫苑のこと好きだよ」と言ってくるものだから堪ったものではなかった。他の人に対しては胡散臭かったり、食えない言動をとるのに、紫苑に対してだけそういう真っ直ぐな人間だからこそ一緒にいて楽なのかもしれない。犬飼と一緒にるようになってから随分経つが、犬飼が知らないのは迅悠一との"企み"ぐらいだろうか。一方で紫苑は副作用サイドエフェクトのことを夢ノ咲学院の仲間には言えていなかった。学校を休みがちなのはソロ活動や作曲活動をやっているのもあるが、ほとんどが防衛任務を占めていた。相棒である迅悠一の副作用サイドエフェクトである「未来視」と紫苑の「接触感応能力サイコメトリー」はとても相性が良いため上層部の会議に招集されるのだ。彼らには、ボーダー隊員であることは認知されているがそれは"保護者がボーダーの幹部だから広報活動をしている"という認識なのだろう。それぐらい、アイドルをやっている彼らには興味の対象外だった。彼らにはトリオンってなんなのかという話からしなくてはいけないし、別にこのまま言わないままでもいいかと思っている。

それも今日までかもしれない。


瀬名「あれ、紫苑?」


スーパーの帰り道、犬飼と紫苑はお互い片手で荷物を持って、手を繋いでいた。犬飼と同じ二宮隊である辻新之助が「紫苑の最近出したシングルを聞いていた」という話に相槌を打っていた。副作用サイドエフェクトで犬飼の記憶を読むと、イヤホンでMeTubeでシングルのMVを見ている辻ちゃんが見える。かわいい一個下の弟子にニヤける。すると、前から歩いてきた瀬名泉に話しかけられたのだ。


犬飼「紫苑ちゃん、しりあいー?」


紫苑はまだ学院で仲の良い瀬名泉とボーダーで仲の良い犬飼澄晴を会わせたことはなかった。だが、何回かライブに来たり、DVDや雑誌を見ている犬飼が瀬名を知らないわけがなかった。確かに、面白くなさそうな顔はしていたような。


『あのね、』

瀬名「紫苑、こいつ誰なわけ?」


瀬名は、自分の何歩先も歩いていた紫苑の隣を歩こうと努力してきた。瀬名よりも先に子役として売れていた紫苑。追いつこうと必死に自分を磨いてきた。紫苑に近づく女も男も跳ね除けてきた。大事に大事にしてきた。休日に大好きな紫苑が知らない男と歩いているのは沸点が低すぎる泉は怒る。


犬飼「君こそ誰なのかぁ?イケメンくん」

瀬名「はぁ?」


これは大変なことになったと紫苑は思った。商店街のど真ん中、顔面偏差値が高い3人は注目の的だった。チラチラと見てくるサラリーマンや、ひそひそと話す主婦たち、キャッキャッと騒ぐ女子高生。見ないでくれと叫びそうになりながら、この状況を打破するために考え始めた。


瀬名「はぁ?この俺をわからないんてありえないんだけどぉ
そっちこそ、どういう関係なわけぇ?」

犬飼「へぇ、気になる?」

瀬名「当たり前でしょ?紫苑につく悪い虫は俺が全部払ってきたんだから」

犬飼「へぇ、悪い虫ねぇ。」

瀬名「あんたは悪い犬みたいだけどぉ」

犬飼「ははっ、おもしろい。ただのボーダーの仲間だよ。俺、紫苑ちゃんの弟子だから。」

瀬名「ボーダー…、ちっ 」

犬飼「ボーダーまでは手が届かないもんねぇ。紫苑ちゃんのことは任せてよ。一般人、いやアイドルくんか。アイドルくんは指を咥えてみてなよ。」


もはや煽り合いというべきか、マウント祭りというべきか。性格が悪いと定評のある2人だ。まだ殴り合いの喧嘩にならないからマシだと思うべきだろう。影浦雅人だったらやばかったな。完璧に優位を取っている犬飼に瀬名はだいぶイラついているようだ。


瀬名「ボーダーのことは知らないけど、あんたは同じ高校に行きたかったんじゃないのぉ?」

犬飼「へぇ、なんで?」

瀬名「そりゃ、俺はほとんど毎日紫苑と登下校してるしぃ
俺は紫苑が作った衣装も着れるし、ピアノも曲も毎日聞いてるんだよねぇ。」

犬飼「………」

瀬名「まぁ。ボーダー隊員は歌わないし踊らないからわからないと思うけどぉ」


2人の間に冷たい空気が流れる。
このままでは、【ボーダーに入る】とか【曲作って】とか言われそうだ。【曲作って】はまだマシだが、【ボーダーに入る】と言われたら…。想像もしたくない。


『はぁ……ここで話していてもしょうがないでしょ。
明日学校だからここで終わりにしよう。』


双方とも【納得いきません】という顔をしているが紫苑は無視して犬飼の背中を押す。


犬飼「ちょ、ちょっと紫苑ちゃん!!」

瀬名「なんでそいつなわけぇ!?」


『じゃあ、泉。また明日学校で会おうね!7時に迎えにきて、GoodBye! Valeバレαντιο σαςアビオサス! Güle güleグレグレ! Auf Wiedersehenアフィダジン! Au revoirウホイバ! addioアディーオ! Vaarwelファービャウ! ha detハッド! adiósアディオス〜!!』


瀬名「あいつ、絶対許さないからね…」
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