4話



15歳の冬。
凍てついた風が頬を撫でる。
道を歩く子どもたちと、公道を走る黄色いバス。よくある、『日常』の断片を繋ぎ合せた風景。

買ったばかりのドーナツの袋を持った指先がゆっくりかじかんで行くのを感じながら、バス停を見つめた。
もうすぐ来るバス、その次の次に来るバスに乗って帰らなければならない。バス停では小さな男の子が走って来る黄色いバスを待ち遠しそうに眺めていた。なんとも微笑ましい風景だと、思った。平和な日常である。こんな日常が続けばいいと、思う。




瞬間。
網膜を焼く閃光、耳を劈く爆音、空を舞うきらきらとしたガラス。
後に世界に名を轟かせるテロ組織が産声を上げた瞬間であろう。
野次馬がぞくぞくと集まって来るのが煩わしくて、小さく舌打ちをしながら野次馬とは逆の方向に歩き出す。この調子では次の次に来るバスを待ち続ける時間が無駄というものだ。爆風でドーナツの紙袋は破け、中身は目も当てられない凄まじい惨状であった。あーあ、折角みんなの分も買ったのに。溜息をつきながらその残骸を投げ捨てる。不法投棄も今となっては瓦礫や人間のかけらと混ざり合ってしまって咎めるすべも無い。早く帰らねばなるまい。

ふと、視界の端に映ったのは確かさっきバスを待っていた男の子だった。
頭から血を流しているものの生きていたようだ。炎上するバスの残骸の森で何かを探している。


「おかあさん!おとうさん!!」

ああ、と聴覚の外側で掴んだ情報に納得。
あのバスに親が乗っていたらしい。可哀想だねえ、と、他人事ながらにその行動のさきを目だけで追う。
きっとあの子だけじゃない、他の人だって大事な人を失ったり、命を落としたりしているであろう。きっと、その人達の平和な日常はここで終わってしまうのだ。


「おかあさん!!おかあさん!!」

あの男の子が母と見られる腕を引いているのが見えた。がらりと、その足元の瓦礫が、崩れる。



その腕は肘関節の少し上で終わっていた。
こんなのって、なんて、



茫然としている男の子にやりきれなくなって背を向けて、今度こそ野次馬とは逆方向に歩き出した。
なあ、と。このテロに関わってしまったあの男の子を筆頭とする人間に心のうちで語りかけながら。


「これ以上楽しいことなんて、無いだろう?」


だってあの肘関節で終わった一本の腕を抱えた男の子の顔、最高だったよ!!



***



「久しぶりに昔の夢をみたよ」

はは、と、乾いた笑いは床に落ちて割れた。思えばあれが初めてだったなぁ。暗い室内に独り言はただただ冷たく響く。そうだ、あの時の男の子はどうしているだろう。


「ロシアの自爆テロ、最高だったと思わない?」

少し吐き気がしたのを隠すようにまたわたしは笑った。


***

「先生、先生」
「…何度言ったらわかるの、五月蠅い」
「あの、ロシアの自爆テロから今年で17年ですね」
「………」
「イカれてますよねー、自爆テロって!!だって自分達のパーティも少なからずダメージ食らってリア充ヤって、何が楽しいのかって。いやまぁ頭可笑しい人間なら至るところにいるんでしょうけど!!」
「……九条。」
「はい?」
「……何が言いたい」
「……いーえ?ただ、」


「自分やあなた含め、外にも内にも頭のイってる気違いはたくさんいるもんだなぁ、と。」











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