2話



暗いショットバー。パソコンの光だけがほんのりと明るい。行儀悪くストローを鳴らしてパソコンの主は愚痴っぽくこぼした。



「あー…パソコン初期化されて超だるい。重い。遅い。」
「この前ケーブル切られたんだっけ?」
「そ。こないだ新社会の奴らが暴れたときに」
「街中の電源が落ちてたからね…」

時間を持てあましたように薄紫色のスーツを着た青年は頬杖をついた。手持無沙汰にメロンクリームソーダをストローでくるりとまわす。くるり、くるり。パソコンの
光を反射して、バー内が歪んだように光を含んで回った。それと錆びたドアが開かれたのはちょうど同時であった。

「…お疲れ。その調子だと今日もダメだったみたいだね?」


薄紫がくすりと笑うとその隣にどさりと身をおろした彼は疲労の色を含ませて苦笑する。


「今日も、は無いだろ今日も、は。鈴。」

鈴と呼ばれた薄紫色のスーツの青年は彼の疲労がさも可笑しいように笑う。「だってここんとこほぼ毎日じゃない。ねえ、シグマ?」
鈴がパソコンの主に同意を求める。それに返事を返すでもなく、ただ無表情にシグマはパソコンを操る。そんな2人に構わずに絶えず携帯に流れてくる情報に目を通しながら
ルーベンスは独りごとのように言う。

「軍人も大変なんだぞ…ってお前らも軍人か」


***

「オレは悪人だからさ、」

青年は暗い路地裏で返り血にまみれながら笑った。周辺住人に迷惑極まりない、壁に血がびしゃり、と飛ぶ。
彼はそれでもさも上機嫌で歌うように言う。


「だからさ、せめて―――」



「だから、瀬莉、瀬莉だけが独りじゃない、オレが、」



暗い暗い、垂乳根の闇。
彼はずっとそこで眠っているのを、青年は知っているのだ。


「オレが、いるよ。瀬莉。」



***


闇。


自分を襲う青の激流。目蓋の裏で響く悲鳴。絞られていく酸素。
青。

「………っ!」


瀬莉が目覚めてみると、そこは自室だった。
夢だということに安堵し、同時に腹立たしさを感じた。繰り返す夢と、繰り返さない現実。


「……またかよ、」


小さく舌打ちをする。その舌打ちは、部屋の片隅、どこよりも深い暗闇に飽和して消えた。










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