1話




旧ロシア地区市街地。息を弾ませて走る青年は、何かを追っているようだった。

「くっそ、あのアリども…!!」

穏やかな街並みに、それとは不釣り合いなセリフが響く。続くようにして、短い銃声が一発、二発。その銃声に、穏やかな街は、ゆるりと揺らいだ。



『またあいつらかよ』『赤ちゃんが起きちゃうじゃない…』『この間あいつらのせいでパソコンのケーブル切られちゃったんだよね』―――街はゆるやかに、それでもどこか他人事に表情を変えた。
そんな中を縫うようにして、青い青年は走り続けた。目の前の標的を見失ってしまいそうだったのだ。
元美術館前通り、石畳を蹴り上げて、青年は走る、走る。
そんな青年をさらに追いかける黒スーツの人物などまるで気付かないと言わんばかりに。



***

「……372、373」

少女は数え続ける。

***

「先生ぇ、暇じゃないですかぁ」
「………」
「ねーぇ、先生ってば」
「………」
「―――まだ怒ってるんですか?」
「……煩いよ」

***

「あーあ、暇っ!ねーぇ?殺したいんだけど」
「それは駄目」
「あー殺したい殺したい」
「駄目だって…つうか真昼間から何言ってんの」

***

「腹減った」

***


青年は走り続ける。その時、後ろから自分を呼ぶ声に気付いて立ち止った。背後には、鋭い声で青年を止めた黒スーツの人物。

「瀬莉!!」
「……あれ、シオン?」

瀬莉と呼ばれた青年は、自らがシオンと呼んだ人物をもの珍しそうに眺め、たった今自分が走ってきた道のりを一瞥し、「ついて来たのか」と呟いた。

「当たり前です。これ以上騒ぎを大きくされては困りますから。」

ため息混じりにシオンが呟く、それに気まずそうに視線をさまよわせた瀬莉は思わず苦笑を漏らした。

「あのアリどもが逃げやがるんだよ」
「そんな派手に追いかけて、軍に見つからないとでも?」
「あー…」
「ほら、そんなことを言っている間に」

その時後ろからけたたましく鳴るサイレンに、耳聡く反応したシオンが軽く瀬莉を睨む。


「…行きましょう」
「おい、」
「どうせ見失ったのでしょう?」
「シオンー…俺そんなにできねえ?」
「平社員ですから」
「………」
「ほら、拗ねてないで、行きますよ」
「……おう」





専用の覆面車両にもたれかかって、軍人ルーベンス・ドレットは深いため息をついた。穏やかな午後が引き裂かれたことに僅かながらも悔しさを抱きながら、呟く。

「取り逃がしたか…」

無線に向かって何やら報告しながら、ルーベンスは軽く微笑んだ。

「エリア24からエリア30にシフト。…さぁこれからどうなるのかな?新社会ネットワークさん。」















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