プロローグ
■「…364、」
たん、と、軽い音が響く。
頭に風穴があいた男は、自分が死んだことにも気付かず地面に伏した。
冷たい風が頬を撫でた。肌寒さを感じながら、冷たい指先は冷たい引き金を引く。
小さな振動と抵抗と共に、眼下でまた一人の人間が絶命していく。なんとも言えない非現実感に目を細める自分を、
孤月が眺めているように感じて背骨がひやりと冷えた。
「365、…366、」
空気の爆ぜる音と共に、呟く少女は口元だけで笑った。
旧ロシア地区。
退化し、進化した美しく狂った社会。三分化された世界。
閑静な市街地を、耳に慣れた銃声が切り裂く。その中を縫うようにして、一人の青年が転がるように駆け抜けていく。
青。
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