世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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02


 ここはとある酒場。街の大通りから路地に入った少し先に、店を構えている。
店内はシックな内装に、品の良さそうなシャンデリア。それはほんのり淡い橙に店内を照らしている。決して大きな店ではないが、落ち着いた雰囲気がある。店主がトレジャーハンターでそれが影響してか、この酒場に宝の噂が集まるようになり、トレジャーハンター達の情報交換の場となっている。

 バーカウンターに座り、静かにグラスを傾けている金髪の青年。その背中に、近づいて行く人影がひとつ。
「あら。久しぶりね、レスト」
レスト、と呼ばれた青年が声の主を振り返る。視線の先には、少し癖のあるエメラルドの綺麗な髪の女性が微笑んでいる。彼女の頭のてっぺんから、アンテナの様な髪の毛が2束立っている。その髪の毛には、赤い珠飾りがたくさん付いている。後ろ髪は襟足程度だが、横髪が胸の下ほどまで長くパーマがかっており、そこにも珠飾りが付いている。
「ティレア。久しぶり」
軽く右手をあげて応える。
「最近調子はどう?いいお宝見つけた?」
「んー……ま、ぼちぼち、だな。そっちは?」
同じように尋ねる。彼女は首にふわふわの短いマフラーを巻き、胸元と臍回りが開いているトップスを着ている。生地が二重になった短いスカートと、動きやすそうな格好だ。彼女もレストと同じ、トレジャーハンターのようだ。
「私もぼちぼち、かしら」
ティレアは軽く肩を竦めてみせる。レストも苦笑する。

「でも」
「あン?」
彼女の橙の瞳が光る。
「新しい情報を拾ったわ。ね、レスト。『天使の涙』って知ってる?」
「天使の涙?」
聞いたことのない名前のものに、思わず聞き返す。
「そう。最近になって、その存在と在処が判明したのよ」
「ふーん……」
レストは僅かに反応を示す。その反応を見てから、彼女はレストの隣の席に座る。レストも特に止めることもなく、話の続きを促す。
「今まで存在すら知られてなかったってのは、何か曰く付きなのか?」
彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「何でも、『天界の扉を開ける鍵』らしいわ」
「天界ィ?」
彼女の言葉に、レストが眉をひそめる。
「そりゃまた、随分現実離れしてンな……ま、面白そうではあるけど」
「でしょ?」
楽しそうにティレアが笑う。
「でも、私は天界とか興味ないし」
「あー……ティレアは魔力が無ェもンな」
そう言って、レストがガリガリと頭を掻く。
「そうそう。それで、私がこの情報を持ってても仕方ないし、だったら可愛い後輩トレジャーハンターのレストに譲ろうかと思って」
何を気にするでもなく、彼女はウインクしてみせる。
「結構綺麗なものって話よ?」
そして一言を付け足す。レストの興味を引くには、それだけで十分だった。
「天界云々は置いといて、『今まで誰も知らなかったお宝』ってのは気になるな」
彼の蒼色の瞳が輝く。
「ふふっ♪レストならそう言うと思ったわ。はいコレ」
 ティレアは微笑み、自分の鞄から綺麗に折り畳まれた紙切れを取り出し、レストに差し出す。
「じゃーん♪『天使の涙』の在処の地図よ」
「お、地図まであンのか。サンキューな♪」
レストはティレアから地図を受け取り、礼を言う。その地図をざっと見ながら、小さく呟く。
「へぇ……アルゴール大森林に遺跡」
「大昔に、この地に暮らしてたって言う天使達が遺していったものって聞いたわ」
「ふーん……そんな怪しい遺跡があったのか…」
ティレアが補足すると、胡散臭そうに青年が溢す。
「あの森、広いものね。“未開の地”だったんじゃないかしら」
「あぁ、そんなもンか」
そう言って、地図をコートの内ポケットにしまうレスト。その様子を眺めながら、ティレアは小さく溜め息を吐いた。
「まぁ……レストには地図なんて、あって無いようなものだと思うけど」
彼の方向音痴さは、神がかっているほどだ。
「ンなことねェって!すぐに獲って来てやるって!」
全く説得力の無い、自信に満ちた返答が返ってくる。ティレアは呆れつつも、柔らかい眼差しをレストに向ける。それは、大切な弟に向けるような暖かいもの。
「……迷子にならないように、気をつけて行きなさいね」
「分かってるって。ありがとな、ティレア」
少し照れながら、レストはそれに応えた。

それから3日間をかけ、青年は目的の遺跡に辿り着いた。





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