世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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01


 深い深い森。アルゴール大森林と呼ばれる世界最大の密林。その森の中の狭い獣道を、金髪の青年が歩いている。淡い灰色のロングコート、白のラインが入った黒いズボン。首に長くて赤いマフラーを巻いている。マフラーはボロボロで、青年が長年愛用してきたことが、みてとれる。彼の手には、くしゃくしゃの紙が握られている。真ん中から分けられた前髪から覗く、蒼色の瞳をその紙に向けては首を傾げている。
「あー、おっかしィな…今は多分ここだから、地図的にはこっちで合ってると思うンだけどな…」
手に握られている紙は、この辺りの地図のようだ。
「トレジャーハンターのオレが、こンなところで道に迷うなんて…………よし、取り敢えず自分の勘を信じて、あっちに行ってみるか!」
青年は獣道を外れ、藪の中に進んでいく。注意深く辺りを観察しながら、道無き道を難なく歩く。木々からキラキラと木漏れ日が落ち、彼の金髪が輝く。

 しばらく進むと、豊かな自然が生い茂る森林には似つかわしくない、厳かな雰囲気に包まれた石造りの古びた建物が、青年の目の前に現れた。
「着いた……!ここが昔、天使が遺してったって言う遺跡か。雰囲気出てンな。いかにもお宝が眠ってそうじゃねェか!」
目の前の建物に、瞳を輝かせる青年。青年ながらも、その表情からは幼さが滲み出た。

「おっと、」
彼の侵入を拒むかの様に、突然大地が揺れ始める。少し大きな揺れに、近くの柱に手を付いて耐える。揺れは数秒ほどで収まる。
「……ふぅ」
小さく息を吐き、柱から手を離す。
「また地震か。最近妙に多いな……」
ここ数日頻発している地震が気になり、地面を見つめて考え込む。

 が、そんな理由が分かる筈もなく、直ぐ目の前の遺跡に気持ちが向く。
「ま、いいか!」
あちこち崩れている石畳の入り口に足をかけ、一度その場で立ち止まる。改めて遺跡を眺める。高さはそれほどないが、奥行きはあるように見える。
「……噂で聞いたよりも、案外広そうだな。こりゃ罠も多そうだ」
小さく呟いて、真剣な表情になる。それからニヤリと笑う。
「何でも来いってンだ。お宝はオレのモンだ!」
不安よりも、期待の方が大きいようだ。遺跡の中へと進んでいく。

事の起こりは3日前のこと。





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