世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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02


 校門前にはキリス達の姿はなく、私が1番だったみたいだ。その代わり、校門の少し手前に空を見上げている女の人が立っていた。品の良さそうな白いマキシ丈のワンピースと、栗色の長いストレートの髪が爽やかな風に揺れている。

なんだろう…知らない人なのに。
あの人を見ていると胸騒ぎがする。

ゆっくりと視線が落ちてきて、こちらに気付く。目が合うと女性は緩やかに微笑んだ。
「こんにちは」
「こ、こんにちは…」
声をかけられるとは思わず、慌てて挨拶を返す。見知らぬ人とはいえ、無視するわけにはいかない。緩やかな微笑みを浮かべたまま、女性は言葉を紡ぐ。
「あなたは、ここの生徒さん?」
「はい」
「じゃあ魔法が使えるのね」
「…はい」
見知らぬ女性との会話が続く。

胸騒ぎが止まない。

「どうして、この学校に通っているの?」
「えっ?」
何故そんなことを訊くのだろうか。
「どうして?」
女性は繰り返し問いかけてくる。

…きっと答えるまで質問は終わらないし、変わらないのだろう。素直に答えることにした。
「え、と…魔力を高めたかったからです」
「へぇ…」
女性がじっと私の目を見つめたまま、首を少し傾げながら言った。

「あなたは天使なのに?」
「………え?」
急激に背筋が冷える。

この人、私のことを知っているの?
唇が震えてしまう。
「…何で、それを…」
それに。
「あなたは、誰…?」
「あなたは選ばれたわ」
女性は全く質問には触れず、答えになっていない言葉を返した。
「…選ばれた?」
「そう」
女性が私に向けて、ゆっくりとした動作で手を差し伸べてくる。
「さぁ、一緒に行きましょう」
そう言って微笑んだ。

――怖い。
顔は笑っているけど、目は笑っていない。その手をとれば無事では済まない気がする。
「…嫌です」
その手を払い、一歩後退る。後ろ目にシュウ達が歩いてくるのが見えた。3人一緒にいると言うことは途中で鉢合わせたのだろう。

…シュウ達に駆け寄る?
人が来たら、この人も諦めるかもしれない。

でも、今まで隠してきた私が天使だと言うことが、シュウ達に知られてしまうかもしれない。それだけは避けたい。

大好きなみんなには、知られたくない。 
私が人間じゃないなんて…

「セシルー!」
自分を呼ぶ声にハッと我に返る。ユウナの声だ。前方にいた私に気付いたようだ。
3人が近寄ってくる。

…どうしよう。

「あなたのお友達?」
声を掛けられたことで女性が後方から近づいてくる3人に気付き、問いかけてくる。
「…………………」
答えるべきか迷った。みんなを危険な目に巻き込みたくない。

そんな私の答えを待たずに女性は呟いた。
「邪魔が入ったら面倒ね…」
「えっ」
「強制したくはなかったけれど、ごめんなさいね」
言うよりも早く女性は私に手を翳す。同時に私の体中に巡る天使の血が沸き立ち、抑えきれない魔力が放出される。
「ああ…ッ」
意識が遠退く。
「…あなたに罪はないのだけれどね」
どこか悲しげな彼女の言葉を、最後まで聞き取ることは出来なかった。





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