世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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01


 授業が終わって下校の時刻。それぞれが帰りの支度をして教室を出ていく。
「〜〜♪♪〜♪」
ユウナの楽しそうな鼻歌が聞こえる。振り返ると2つ後ろの席に座って鞄に教科書を詰め込んでいるユウナがいる。
「ユウナ楽しそうだね〜」
「あっセシル〜♪」
私も帰り支度を済ませ、ユウナの側に寄って声をかけた。ユウナが顔を上げて私を見るとにっこり微笑む。
「だって、帰りに皆で新しく出来たカフェに行こうって話してたから楽しみなんだもん♪」
皆で、と言うのは私達2人とシュウとキリスのいつもの4人だ。今は教室に2人の姿はない。
「シュウは中庭の掃除当番だったっけ?」
ユウナが椅子から立ち上がりながら言った。それに頷きながら答える。
「そう。キリスは日直だから、学級日誌をサギリ先生に提出しなきゃ〜って慌ててたよ」
その様子を思い出すと自然と笑みがこぼれてしまう。
「じゃあキリスを迎えに行ってあげよ〜♪」
「私はシュウの様子を見に行くね」
「おっけ〜♪セシルもあとでね♪」
「うん!」
指で丸を作ったユウナは、鞄を持って手を振って教室を出ていく。

 学校の外を出ると心地よい風が吹いて、晴れた空は夕焼けの色が混ざりはじめていた。
「わぁ、シュウの色〜♪」
その綺麗なオレンジ色を見て、つい炎の魔法を得意とするシュウを思い浮かべてしまう。

 そのシュウを探しに学校の外周を歩いて中庭に回る。中庭はそこまで広くないけど、ベンチが置かれていたり花壇や生け垣が整備されていて、昼食時にそこでまったりお弁当を食べるのも人気だ。

 木陰に長い竹箒を持って、芝生の上の落ちた木の葉を集めているシュウの姿を見つける。
「シュウ、掃除終わった?」
私の声にシュウは顔を上げてちょっとだけ笑った。
「…セシル。そう、これ集めて終わり」
辺りをきょろきょろ見回しても他の人は見当たらない。
「他の当番の人は?」
「ん、これで終わりだからあとやっとくって言ってさっき先に帰した」
シュウは私の背後を気にする。
「ユウナは一緒じゃないのか?」
「キリスのとこ〜」
なるほどと頷きながら、竹箒で集めた落ち葉を側にあった塵取りにまとめていくシュウ。私はずれ動きそうな塵取りを支えると、すっと落ち葉が塵取りに収まる。
「サンキュ」
私から塵取りを受け取ると、すでにたくさん落ち葉が入っているごみ袋に入れてその口を縛った。
「よし」
パンパンと手を叩き、大きなごみ袋を持ち上げる。
「俺はこれを焼却炉に捨ててついでに手も洗ってくるから、セシルは先に校門に行って待ってて」
「うん、分かったよ〜」

ユウナを迎えに行かなきゃ。

「キリスにも日誌が終わったら校門前な、って言ってあるからすぐに来るはず」
そう思っていたら、シュウが先回りして言った。
「あっ、それならユウナも一緒に校門前に集まれるね♪」
「あぁ。それに、ユウナが迎えに行ったんなら日誌に詰まってたとしても安心だ」
シュウはいたずらっぽく笑った。私もつられて笑った。
「新しいお店、みんなで行くの楽しみだね♪」
「あぁ」
こうして放課後に4人、たまにジェミニが混ざって遊びに行ったりする。
「じゃあ先に行ってるね!」
「分かった。…あとでな」
私が手を振ると、シュウも焼却炉に向かいながら軽く手を上げて応えてくれる。

こんな楽しい時間がずっと続いて欲しい。
そう願わずにはいられない。
一瞬で全てを壊してしまうような秘密を、私は持っている。

私は人間と天使の間に生まれたハーフ。
天使だった母は私を産んだ数年後、病で死んでしまった。数年前、突然魔力が暴走して自分が天使の血を引いていることを父から知らされた。

人間でもない、天使でもない。
そんな曖昧な存在である自分をずっと秘密にしてきた。

幼馴染であるキリスでさえ知らない。
知られれば皆の側には居られない。

――きっと、拒絶される。

「――いけない、校門に行かなくちゃ!」
パシっと両手で頬を軽く叩く。嫌な思考を振り払って私は校門に向かった。





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