世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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06


 側に座り込むプリムと、そのプリムに凭れて体を支えてもらっているリヴェランスに駆け寄る。象牙色のローブはグリズリーの爪痕を残すように破れ、赤く染まっている。
「リヴェランス、大丈夫か!?」
「はい……。プリム様は……ご無事、ですか?」
リヴェランスは痛みに顔を歪めながら優しく微笑みかける。
「大丈夫、それよりも貴方の方が酷い怪我じゃない!何でアタシなんか……!」
無事な様子のプリムに、肩で息をしながらリヴェランスは満足気に笑う。
「ふふ、先程も言ったではありませんか。お二人を護衛するのが、私の仕事なんです……っ、お怪我をさせては王に何と言われるか……」
「馬鹿!お前が怪我をしたって父さん悲しむに決まってるだろ!」
「すぐに回復するわ!」
そう言ってプリムは目を閉じて魔力を込める。
「闇に差す一筋の光よ、癒やして。イビルヒール」
彼女が小さく詠唱すると、深い紫色の光が彼女とリヴェランスを包む。魔族特有の回復魔法だ。徐々に背中の傷が塞がっていく。
「プリム様、これをご使用ください!」
近くで魔物から退避していた兵士が包帯を差し出した。
「ありがと」
包帯を受け取り、俺も手伝いながら手早くリヴェランスの背中の傷を中心に巻いていく。
「お手数をお掛けして申し訳ありません、ダンテ様、プリム様」
「アタシの所為なんだから、気にしないで」
包帯を留めるとリヴェランスはまだ痛みの残っているはずの体を動かす。
「ありがとうございます、もう大丈夫です。早く街の様子を見に行かなくては……」
「いい、無理をするな」
立ち上がろうとしたリヴェランスを、先程彼が兵士にしたように制止する。ついでに声もちょっと真似て。
「……ダンテ様、それは私の真似ですか?」
「全然似てないわね」
リヴェランスに苦笑され、プリムに睨まれる。……あれ、思ったより不評だな。
「と、とにかく!街の中なら俺が見てくるから、リヴェランスはもうちょっと休めって」
俺は服に付いた砂埃を掃いながら立ち上がった。

「リヴェランス団長、ダンテ様!」
街の入り口で見張りに立っていた兵士がやってくる。
……あ、そうか。魔物を倒したことが廃坑にいた兵士から街に伝わってたんだな。
プリムに凭れるリヴェランスを見て目を丸くする。
「団長、大丈夫ですか!?」
「ああ。名誉の負傷だからな」
「は、はぁ……」
傷を負ってもなお誇らしげに笑う団長に兵士は困惑している。
「それでどうしたんだ?」
何か用件を伝える為に来た兵士に先を促してやる。
「あ、はい!街の様子の報告に参りました。住民に魔物を退治したことを伝え、皆安心しておりました。怪我人の治療も済み、後は経過を見ていけば大丈夫です。しかし建物の損害状況が酷いですね……」
「そっか……」
兵士の報告に少し考えながら指示を出す。
「建物の補償や修繕は父さんに掛け合ってみるか。家が壊れて住めなくなった人は、建て直すまでリウスに居てもらってもいいしな。だからまずはアリアに住めなくなった人に、一時的にリウスに移動する旨を伝えてくれ」
「分かりました!」
俺の指示に兵士はまた街の方へ走り去って行く。
「んー、取り敢えず死者が出なくて一安心だなぁ……って、何だ?」
頭の後ろに両手を組み上体を反らして伸びをすると、妙な顔をして俺を凝視しているプリムが視界に入る。
「……アンタって、そうやって普通にしてれば王子に見えるわね」
「悪かったな!どーせ王子なんてガラじゃねぇよ!」
プリムの発言に頬を膨らませる。
「私はダンテ様にお似合いだと思いますよ」
「いや、似合ってないだろ……」
俺とプリムのやり取りを眺めていたリヴェランスはこう言うけど、それはない。本人が一番よく分かってる。
「ふふ、ダンテ様は王の若い頃に本当によく似ていますから」
在りし日を思い返してか、懐かしそうに微笑んだ。
「どんなに似てても、俺は父さんじゃないって」
俺は苦笑いをしながら言った。父さんの様になりたいとは思うけど、な。





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