世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
[ check! ]


05


 グリズリーが咆哮すると、広い空間にビリビリと響き地面を軽く揺らす。
「散々街を荒らしやがって、覚悟しろ!」
グリズリーへ大股で距離を詰め、右手の剣を頭目掛けて振り下ろす。俺の気配を感じ取ったグリズリーがこちらを向き、太い腕で剣を防ぐ。
「くッ……硬ぇ!」
狂暴化の影響は皮膚の硬さにまで表れていた。腕に力を込めるがギリギリと刃が軋むだけで、肉に深く食い込んでいかなかった。通常のグリズリーならそのまま腕を切り落せただろう。
 グリズリーは腕を振り上げ、剣が弾かれて数歩下がる。腕には微かな傷が付いただけだった。その勢いのまま、腕を振り下げつつ再び口から炎の塊を吐く。
「ダンテ様ッ!」
リヴェランスが声を張り上げた。俺は瞬時に左手の剣を握ったまま腕を前に突き出して魔力を込める。
「闇よ!俺を守る盾となれ!シェイドシェル!」
詠唱が終わると闇が集まり、黒と紫色の実体となり俺の体を包むように隠す。炎の塊は音も無く闇に飲み込まれた。目の前から闇のシールドが外れると、今度はグリズリーが俺との距離を詰めていた。
「チッ!」
俺が軽く舌打ちをしたと同時に、プリムがグリズリーの背中にフォークを突き立てる。やはり深くは刺さらないが、突き刺すことに長けたフォークは剣よりもグリズリーの体に食い込み、痛手を与えている。
「いい加減にしなさいよ、この……!」
刺したフォークを引き抜くと、そこから少量だが魔物の血が溢れ銀色のフォークの切っ先を赤く濡らす。グリズリーは苦しみながらも体の向きを変えて、地面を両腕で強く叩き衝撃波をプリムに向けて放つ。
「きゃ……!」
衝撃波をまともに受け、プリムの体は数メートル後ろへ吹き飛ばされる。吹っ飛んだプリムに追い討ちを掛けようとグリズリーは俊敏な動作で一気に近付いていく。プリムは先程の攻撃の衝撃でまだ起き上がれてない。
「プリム!!」
彼女は俺の声に顔を上げ、目の前のグリズリーに目を見開き、蒼色の瞳が揺れる。グリズリーが腕を動かす。急いで動きを止めようとブーツで地面を蹴る。
……くそ、距離が有り過ぎて間に合わねぇ!
「プリム様ッ!」
俺よりも近くにいたリヴェランスが、一歩早くプリムを抱き締めるように庇う。グリズリーの爪がリヴェランスの広い背中に直撃する。
「ぐ、う……!」
「リヴェランスさんッ!」
プリムが悲鳴混じりの声をあげる。
「コイツ……ッお前の相手は俺だろ!」
二人を心配しつつ、先程プリムがつけた背中の傷を狙ってグリズリーに一太刀浴びせる。ぐらりと巨体が揺れ、明らかに鈍くなった動きで再び俺の方を見て低く喉を鳴らす。
「どんな時でも魔物を仕留める場合は急所を狙え、ってな!」
師の教えを思い出しながらグリズリーの喉元に狙いをつけて魔力を込める。大抵の魔物はココが急所だ。
「氷よ!彼の者を貫く槍となれ!アイシクルフィズ!」
手元で発生した氷の塊が弾け、鋭く尖った数個の氷の礫がグリズリーの喉元に飛んでいく。その氷を腕で弾き飛ばして防いだグリズリーは瞬間的に無防備になった。
この瞬間を待ってたんだ!
「氷の魔法(そっち)はブラフ。本命は、こっちだ!」
低い姿勢から走り出し、グリズリーの隙だらけの喉元を剣で薙ぎ払う。予想通り喉元は皮膚の強度が低く、傷口から大量の血を吹き出しながら崩れ落ちる。グリズリーは身体を痙攣させ、程なくして完全に消滅した。





.