世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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04


 広い採掘場に足を踏み入れると、兵士数名が太い二本の後足で立つ赤黒い毛色をしたグリズリーと対峙していた。近くにはグリズリーにやられたらしき兵士が蹲っているが、他の兵士達もグリズリーの対応におわれ回復を施すことが出来ずにいる。
 その兵士に紛れて、身の丈の半分はあるフォークを握る一人のスレンダーな女性の背中が見える。後頭部の髪の毛を4つに分け、上部のツインテールはお団子状にまとめてあり、そのお団子の中心から毛先を垂らしている。下部のツインテールは三つ編に結っていて、彼女が動く度に濡れ羽色の髪の毛は艷やかに揺れる。
 胸元が大きく開いた桃色のジャケットを着ていて、裾の部分は豊満な胸の下で結ばれている為、細い腰周りは外気に晒されている。茶色のベルトを付けたショート丈のパンツとキャメル色のロングブーツの隙間から素肌が覗いている。

 グリズリーはだいぶ傷付いているが、まだ動きは鈍っていない。腕と化した前足を振りおろし、狂暴化した際に異常発達したと見受けられる鋭利な爪でプリムを襲おうとするも、彼女は身軽にバックステップをしてひらりと躱す。
「プリム!」
二対の剣を出現させてから彼女の隣に立ち、油断なくグリズリーに注意を払いながら声を掛ける。
「ダンテ?!何でアンタがここに居るのよ?」
グリズリーから一瞬だけ俺に視線を移して意外そうな顔をする。兵士みたいに安堵するとかねーのかよ!
「援軍要請がありました。お前達、グリズリーの相手は我々に任せて倒れた者の回復に回れ!傷が深い者は無理をせずグリズリーと距離を取れ!」
「はッ!」
プリムの質問にリヴェランスが答えつつ、グリズリーの近くで武器を構えていた兵士に指示を出す。傷付いた者は無事な兵士に体を支えられながら採掘場の隅に移動していく。魔物の側には俺達3人が残った。
「それはこっちの台詞!オマエここ最近ずっとリウスにいたじゃん!」
グリズリーを気にしつつプリムに問い掛ける。
「うるさいわね、実家に用があったのよ。用事が済んでリウスに帰ろうと思ったらこの通りよ」
俺の言葉に、本当に煩そうに眉間に皺を寄せた。
「駐屯兵に任せとけばよかっただろ!普段の魔物じゃないんだから危ねーだろ!」
怪我したらどーすんだよ、全く!コイツ女って自覚無いのかよ?
「こんな奴に殺られたりしないわ。大体街が襲われて黙ってられないわよ」
確かに彼女に目立った外傷はなく、かすり傷が数カ所ある程度だ。
「そりゃそうだろうけど……!」
素直に謝ろうとしないプリムに更に言葉を返そうとした時、グリズリーが俺達の直ぐ側まで迫り、大きく口を開けていた。口内が赤く染まり熱を帯びていく。いつの間にかグリズリーから意識が逸れてしまっていた。
「お二人共、危険です!」
先に魔物の動きを察知したリヴェランスが俺達の前に立ちはだかる。その直後にグリズリーが吐いた炎の塊を、持っていた槍で弾き返す。グリズリーは返ってきた自分の炎に怯み、巨体が地面に倒れる。辺りに肉の焦げる嫌な匂いが充満した。
 リヴェランスは後ろの俺達を見る。その表情は厳しいものだった。
「お二人共、積もる痴話喧嘩はあると思いますが、今は魔物の討伐に集中して下さい」
「痴話喧嘩じゃねーよ!」
恋人じゃあるまいし、痴話喧嘩ってなんだよ!
 プリムはそれを気にせずリヴェランスに軽く頭を下げる。
「リヴェランスさんありがとうございます、ごめんなさいね。ほら、アンタもちゃんと謝りなさい」
俺を見る時だけ睨む様な視線を送ってくるなよ。
「あぁもう分かってるよ!リヴェランス……ごめん」
「いえ、分かって下さればいいんです。護衛が私の仕事ですからね」
リヴェランスに謝罪すると、いつもの穏やかな笑顔を浮かべながらそう言った。
「……いつも思うけど、私の護衛は関係ないんじゃないかしら?」
プリムが居心地悪そうに呟くと、首を横に振った。
「大ありです。ダンテ様の大切な人は私達にとっても大切ですから。まして未来の伴侶となれば……」
「ちょ、ちょっと!勝手に決めないで!」
「はぁ!?何で俺がプリムと結婚しなきゃなんねーんだよ!」
俺とプリムはほぼ同時にリヴェランスに異議を唱えた。同時にリヴェランスの前方で倒れていたグリズリーがゆっくりと起き上がった。
「その話も後で、まずは問題の解決です!」
そう言うと立ち上がる寸前のグリズリーに向き直る。
「コイツを片付けたら、絶対その勘違いを改めさせてやるからな!」
捨て台詞の様に言いながらグリズリーの右方向に素早く移動する。一箇所に固まっているより効率がいいだろう。俺の動きを見てプリムは左方向に回り込み、グリズリーを取り囲む様な配置になる。





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