世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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03


 アリアに着くと、魔物の姿は直ぐには捉えられなかった。
「遠征兵師団だ!援軍に来たぞ!」
街の入り口で新たな魔物が来ないように見張っていた駐屯兵に声を掛ける。俺達の姿を見て、僅かに安堵の表情を浮かべた。
「ダンテ様!援軍感謝致します!」
「魔物はどうした!?」
見当たらない魔物の姿が不気味で辺りをキョロキョロ見渡す。
「件の魔物は街中で一暴れした後、奥の廃坑に入り込みました。その隙に民は安全な避難させております」
「民の安全状況の確認、街の被害状況確認、急げ!手が空き次第奥の廃坑に向かえ!」
駐屯兵の報告を受け、リヴェランスが団員達に指示を出す。団員達は散り散りに飛んでいく。
「死傷者は出ていないのか?」
「はい、今のところ大怪我を受けた者は何名か居ますが、死亡した人はいません」
「そうか……いや、上出来だ」
リヴェランスは見張りの駐屯兵を労う。
「魔物は今も廃坑で他の駐屯兵達が食い止めてんだな!俺は先にそっちに向かう!」
アリアは調査でよく訪れるから街中は把握してる。以前は活発に炭鉱が栄えていたが、治安が悪くなってからは廃坑となってしまったらしい。きっと今でも貴重な宝石が採掘できるだろう。わざわざ魔物がそんな袋小路に入ってくれたのは有難い。
「ダンテ様、私も行きます」
「あの、リヴェランス様!」
廃坑に向かおうとした俺達を見張りの駐屯兵が呼び止めた。
「どうした?」
「実は駐屯兵ではない女性も魔物に応戦してくれているんです」
リヴェランスの顔色が変わる。
「何?何故その女性を止めなかった!民をむざむざ危険に晒してどうする」
「勿論我々もお止めました!」
慌てて言葉を返す。
「ですが……彼女の武器なのでしょうね、巨大なフォークを突き付けられて戦えるから!と強く言われてしまいまして……」
語尾が弱くなっていく。相当その女性に凄まれたのだろう。

 ……ちょっと待て。駐屯兵を凄める程に気が強くて、兵士と肩を並べられる強さの女?武器はフォークって……。

「フォーク……?」
「ええ、アリアは故郷だから守ると」
リヴェランスと駐屯兵の会話を尻目に俺は弾かれたように廃坑へ駆け出した。
「ダンテ様!?」
「アリア出身のフォークを武器に持ってる女なんて、一人しかいねぇ!」
俺の幼馴染みのアイツに決まってる!
 リヴェランスは面食らっていたようだが、俺の言わんとしている事を汲み取って後を追ってきた。

 廃坑に着くとそこは殺伐としていた。間接照明が廃坑を照らしているがその光は頼りなくて薄暗い。傷を負い手当を受けながら倒れている兵士が何人もいる。
「大丈夫か?」
リヴェランスはしゃがんで横になっていた兵士の一人に声を掛ける。
「リヴェランス様……、ッはい……」
「いい、無理をするな」
ふらふらと体を起こそうとした兵士を制止する。
「すみません……魔物はそちらの突き当りの奥です。今は……」
「プリムが戦ってんだな」
俺が低く言うと、辺りに魔物の唸り声と微かな地響きが廃坑を駆け巡る。兵士の指し示した先にはかつて採掘場だった広い空間がある。
「ああ……ダンテ様のお知り合いの方でしたか、お止め出来ず申し訳ありません……」
「いや、アイツ言い出したら聞かないから気にすんなよ」
傷を負っている上に、申し訳なさそうにしている兵士を安心させる為に軽く肩を叩いた。
「早くプリム様を援護致しましょう」
リヴェランスが立ち上がる。
「魔物は巨大なグリズリーです。酷く狂暴化しておりますのでお気をつけ下さい」
グリズリー……熊の形態をした魔物で、狂暴化してなくても割と好戦的な魔物だ。
「分かった、オマエはゆっくり休めよ!」
「ありがとうございます」
兵士は礼を言うと再び横になった。





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