世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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02


「急げ!」
遠くからバタバタと慌ただしい足音と焦ったような複数の声が聞こえてくる。騒々しさに腰を上げる。
「何だ?」
「ダンテ様!いらっしゃいますか!?」
あれ、俺を探してるのか。……まさか、また魔物が暴れてんのか!
「ダンテ様はここにいらっしゃる。何事だ?」
「魔物が出たのか!?」
リヴェランスが中庭から声を掛ける。俺もその後ろに続いて顔を出す。その姿を捉えて慌てていた兵士は足を止める。
「リヴェランス団長!ダンテ様!はい、アリアで魔物が暴れていると報告がありました!現在駐屯兵が応戦しておりますが梃子摺っている模様です。我々兵師団は至急準備を整え、討伐に向かうようにと王のご命令です!」
俺の問いに答えつつ、兵士は矢継ぎ早に告げた。アリアはリウスから少し離れた場所にある小さな街だ。治安があまり良くなく、俺達王族は何度も視察を行っている。
「近いな……分かった、直ぐに行く。お前達も準備を急げ」
「はっ!」
リヴェランスが促すと駆け足で城の奥へ戻って行く。その後ろ姿を見送りつつ、俺はこのまま向かっても問題がないか自分の姿を確認する。
 グレー地に黒ラインのボーダータンクトップ。タンクトップの裾は右側から左側にかけて長さが段々になっていて、臍が見えている。二重にベルトを付けたチェックのズボンは膝下で折り返してある。ヒールの低めの黒いブーツは小さな金具をしっかり留めて、動きやすさはバッチリだ。いつもの格好だけど、もっと王子らしいちゃんとした服を着てくれって城のメイドに言われたことがあったっけ。でも王子らしくって抽象的過ぎるよな。
 両腕の後ろから付けた真紅のマントを翻し、マントについていた芝を払う。俺が動く度にネックレスはしゃらん、と軽やかな音を鳴らす。前髪は深紅のピンで留めて、邪魔にならない様にしてある。
 両手に魔力を込めて愛用の二対の剣を出現させてみる。繰り返し使ってきた双剣は程良く草臥れているが刃の切れ味は落ちていない。……うん、剣の手入れも完璧だな。
「よっし、俺の準備は大丈夫だ!早くアリアに向かおう!」
「はい、急ぎましょう!」
剣を仕舞いリヴェランスに声を掛ける。俺の護衛の為に常にローブの中に槍を隠している為、彼も準備は出来ている。俺達は足早に中庭を後にした。

 城の精鋭を集結した兵師団は3つある。一つは城の守護をし、残りの二つは外へ遠征する。万が一、二つの兵師団が遠征している時に城が攻め込まれても、必ず城を守る兵師団が控えてるから少しは安心って訳だ。まぁその兵師団の中には最後の砦である父さんが居るから、城が落とされることはまずない。
 遠征兵師団のうちの一つは既に別の地域に魔物の討伐に向かっていたので、リヴェランスが団長を務め、俺も所属する兵師団が現在アリアへ向かっている。背中の羽根を羽ばたかせて先頭を飛ぶリヴェランスが、速度を落とし空中で滞空しながら少し後ろを飛ぶ俺と団員達に振り返る。
「もうすぐアリアに着く。恐らく街は混乱していると予想されるが、第一に優先すべき事は民の安全!次に魔物の討伐だ!皆、気を引き締めてかかれ!」
「はッ!」
城の中庭での優しげな雰囲気は消え、厳しい表情で激を飛ばすと兵士達はそれに応え、緊張感が高まった。その様子を見て頷き返すと、前を向き再び速度を上げる。
 アリアの街が目前に迫る。遠目では被害は出ていない様に見える。
「大きな被害が出てないといいけどな」
リヴェランスの隣まで追いついて言った。俺の声に彼は顔だけをこちらに向ける。一瞬表情を和らげてくれる。
「そうですね。その辺りは駐屯兵が上手く抑えてくれていればいいのですが……」
「苦戦を強いられてるみたいだから、早く行ってやんなきゃな。……よし!」
俺は気合いを入れ、リヴェランスを追い抜いてアリアに一番乗りを決め込む。
「ちょっ、ダンテ様!先頭で突っ込むのはお止め下さいといつも言っているじゃないですか!」
急に前に出た俺に驚いてか、焦った声が後ろから聞こえてくる。
「あぁ……これじゃまたエカルテにどやされる」
頭を抱えて父さんを名前で呼ぶリヴェランスの呟きは、誰の耳にも届かなかった。
「仕方がない……皆!ダンテ様に遅れを取るな!」
直ぐに切り替えて再び激を飛ばし、団長と団員達は更に速度を上げた。





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