世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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01


 ベテルギルウスの国王であり父親であるマラカイト・マーシェルの命を受け、第一王子であるレナス・マーシェルは王国の調査団と共に、ベテルギルウス近隣の街、リゲリスへ足を運んでいた。世界の各地で魔物の凶暴化や自然災害が多発している為、その原因究明に各地へ奔走していた。
「――ええ、次はそちらをお願いします」
「はっ!」
レナスが指示を飛ばし、団員がそれぞれ散っていく。
「レナス王子!」
手に持っていた資料に視線を落としていると、遠くから駆け足でやって来た別の団員に声を掛けられて、声の方に振り向いた。後ろで一つに纏められた金の長髪が滑らかに揺れる。
「何かありましたか?」
縁のない細身の眼鏡を直して話の続きを窺う。
「アルフィラツ魔法学校の立ち入り禁止区域に、妙な輩が入り込んだ模様です」
「妙な輩……生徒ではないのですね」
凛とした落ち着いた女性の声が話に割って入る。後方から現れた女性は、ピンクゴールドの美しいストレートの髪の毛を夜会巻きにしている。耳の横から垂らした髪はゆるりと巻かれている。ゆっくりとした足取りでレナスの隣に立つ。
 彼女はウィスタリア・マーシェル。マラカイトの娘で第一王女、レナスにとっては4つ歳上の姉である。彼女もこのリゲリスの調査に同行している。調査に当たる為、動きやすさを重視してショートラインのドレスを着用している。スカイブルーのドレスの胸元には白からピンクへのグラデーションが鮮やかな大きな蓮の花を象ったコサージュが付いていて、まるで水面に蓮の花が浮かんでいるように見える。
「姉上」
微笑んで細められた自分と同じ碧眼と視線が交わる。姉から視線を団員に移す。
「それは妙ですね…あの場所には一般生徒や魔物が入れないよう、結界が張られているので容易に入り込める場所ではないのですが……」
「詳しい報告を聞かせて頂けますか?」
「はっ!」
ウィスタリアが優しく団員に尋ねると、ビシッと姿勢を正してから話を続ける。
「警備兵が定刻の見廻り中に、結界の入り口付近で侵入者を発見した様です。ですが…その結界が張ってあったことに気付かなかったと言うのです」
「……結界を擦り抜けた、と言う事ですか?」
微々たる魔力にも、魔力を持たない人間にも反応するように設定された結界に、擦り抜けるなんて事がありえるのだろうか?レナスが怪訝そうに眉を顰めると、団員も難しい表情のまま頷く。
「そのようです。実際に周囲を確認しましたが、結界が破壊されている箇所は何処にもありませんでしたし、何かしらの魔力を使った形跡も感じられません」
「なるほど……確かに擦り抜けたと考えるのが妥当ですね」
人差し指を顎に添え、考えながらウィスタリアが呟いた。
「はい。彼曰く、たまたまあの場所を通り過ぎようとしただけで、危険な場所だと知らなかったようです。嘘を吐いている可能性も考えられますので、現在は城の牢に拘束しています。尋問も試みておりますが、上手くかわされているのか、暖簾に腕押し…と言った様子ですね」
「ふむ……」
団員の言葉から瞬時に侵入者が男である事を汲み取る。
「では私も戻り次第尋問してみましょう」
「よろしいのですか?」
驚く団員にレナスは控えめな笑顔を見せる。
「ええ、構いません。リゲリスでは異常は見られませんでしたから、夕方には城に戻れるかと思います」
「分かりました。では私は持ち場に戻りますのでこれで!」
「ご苦労様」
ウィスタリアがにこりと微笑んで団員を労う。それを受けて団員は二人に向けて敬礼し、駆け足で持ち場に戻っていく。





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