世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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03


 広々とした食堂は片側が屋外テラスへと続いていて、屋内外で食事が楽しめる。混み合う食堂で注文を済ませ、良い天気と言うことでテラスの空いていた5人掛けのテーブルに陣取って座っている。
 既に食事は終わり、まったりとした時間を過ごしている。
「ふー、やっぱりここのカレーは良い感じにスパイスが効いてて最高だな♪」
食堂で注文した特盛りのカレーライスを、ペロリと平らげたキリスが満足気に椅子に凭れかかる。
「キリスって本当によく食べるよねぇ」
「その割に背は伸びないけどね?」
感心したようなユウナと、その言葉に重ねてセシルが悪戯っぽく笑う。
「うっせー!気にしてんだから言うなよ!」
「ふふ、知ってる。ごめんね?」
セシルの言葉に膨れっ面で憤慨する。キリスは小柄なセシルより少し高いほどで、男子の平均身長を下回っている。いつも通りの反応にセシルは舌を出して謝ると、彼の怒りの色は直ぐに消える。
「はぁ、シュウくらい身長あったらなぁ……」
大きな溜め息を吐いて、羨望の視線で正面に座るシュウを見る。彼は購買で買った野菜ジュースを飲みながら、微笑ましげにやり取りを見守っている。
「大丈夫だよ〜キリス!背が低いの可愛いよ?」
「な……っ」
激励の声音でそう言ってキリスの頭をよしよしと撫でるユウナ。全く悪意の感じられない、寧ろ善意の塊のつもりのユウナの言葉に、怒ればいいのか喜べばいいのか分からず絶句してしまう。
「? どうしたの、キリス?」
彼が固まってしまった理由が分からず、ユウナは首を傾げる。
「ユウナ、それフォローになってないぞ」
「えっ?……あれっ?」
すかさずシュウが突っ込みを入れるも、ユウナは状況が分かっていない。
「……ま、まぁいいや。俺だってこれからまだまだ伸びるはずだし!」
いつか身長の伸びた自分を想像してぐっと拳を握る。明るくなったキリスの表情に、少女達も微笑み合う。
「その意気その意気♪」
「いつかシュウみたいにおっきくなるかもしれないし、希望は捨てちゃダメだよね」
「セシルは一言余計だっつーの!……まぁ事実だけどさ」
再び小さいと言われセシルに向かって軽く噛み付くが、機嫌が悪くなった様子はない。
「キリスとセシルって本当に仲良いよね〜、シュウ」
「ん?」
野菜ジュースを飲み終わって空を見上げていたシュウに、ユウナが声をかけた。空を見上げながらもしっかり話を聞いていたようで、直ぐに視線が降りてきてユウナに向く。
「そうだな。言い合ってても楽しそうにしてる」
そう言ってまた笑った。キリスが少し照れたように、頬をかいた。
「まぁ幼なじみだから、それなりにな」
「もう会ってから10年くらい経つよね。……懐かしいなー、あの頃のキリスはおとなしかったんだよ?」
懐かしそうに目を細めるセシル。出会った当時を思い出しているようだ。
「そうなの?意外〜」
明るくていつも太陽みたいに眩しく笑うキリスしか知らないユウナには、おとなしいキリスなんて想像つかなかった。幼い頃の姿を思い浮かべてキリスの姿を見つめた時、彼の表情に影が差していた。
「……俺は『忌み子』だ、って疎まれてたから」
右腕に付けた金色のブレスレットを弄りながら、独り言のように低いトーンで呟いて俯いた。
 彼は女しか産まれない変わった村・カルアで産まれた。そのため、村に厄災を齎す『忌み子』と恐れられ、村の住人や両親から迫害を受けていた。その過去は現在も彼の心に大きな傷となって残っている。
 その状況から彼を救ったのは、宝探しの旅にやってきたシュウとその親子だった。村に滞在している間にキリスと出会い、その境遇に憐憫の情を抱いたシュウの父親の強い勧めと説得で村を出ることが許され、その先がセシルのいる街だったのだ。キリスが引き取られた家の隣に住んでいたのがセシルの家族で、それ以降2人は幼なじみとなった。
「キリス」
諫めるようなシュウの声に、僅かに肩を震わせて顔をあげる。視線が重なって、シュウは静かに首を横に振る。
「それは言わない約束だろ」
小さく呟いた言葉はシュウに拾われていた。彼はキリスが自分を蔑み、忌み子だと言うことを嫌う。
「そうだよキリス。そんなこと関係ないんだから」
シュウの言葉に、セシルも少し眉を吊り上げて同意する。
「……ん、悪い……」
キリスは謝ると自嘲を含んだ笑みを見せた。
「うん。私は小さい頃のキリスのことは分からないけど、今のキリスの笑顔が素敵だって事は分かるよ♪」
「さ、サンキュ……」
そう言ってキリスに向けられたユウナの笑顔もまた暖かいもので、たまらずキリスは照れてしまう。





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