世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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02


 昼休憩の時間になった教室内が賑わいだす。ある者は人気のパンをゲットするため購買へ走る。またある者は複数の友人と連れだって食堂へ向かう。勿論、教室で机を寄せ合って持参の弁当を広げている者も少なくはない。
窓側の後ろから2列目の席に座る銀髪の青年。彼はシューベンツ・ハゥ。この学校に通って2年目になる。長めの前髪から覗く蒼い瞳は、退屈そうに窓の外を眺めている。そこにはグラウンドが広がっており、昼休憩もそっちのけに遊び回る者や急いで校舎に戻っていく者、と様々だった。
「……ふぁ……」
教室のざわめきが子守歌となり、眠気を誘われて欠伸を噛み殺す。その微睡みに身を任せて、机に腕を組んで突っ伏する。開け放たれた窓から心地いい爽やかな風が入り込み、カーテンと彼の銀髪を揺らす。
「あれっ」
青年の頭上に声が降ってくる。
「…………」
聞き慣れた明るい声は、短くても声の主が誰なのか判断出来る。
「なんだよ、寝てんのか?おーい、シュウ?」
反応を示さなかった為か、つまらなさそうな声で愛称を呼ばれ、軽く肩をつつかれた。
腕に埋めていた顔を上げて声の主を見つめる。大きめな茶色の瞳をした、緑色の短髪の青年が覗き込んでいた。
「……キリス」
キリスと名を呼ばれた青年は前の席に腰掛けている。彼はキリス・サーヴ。同級生で仲が良く、行動を共にすることが多い。
「お昼だぞ?てか、ちゃんと授業聞いてたのか?」
キリスは呆れたように笑った。
「聞いてた。……キリスには言われたくない台詞だな」
少々授業成績の悪い彼に意地悪な言葉を返す。
「な……っ!お、俺だってちゃんと聞いてたって!」
「へぇ」
可笑しいくらいに狼狽えている。そこに追い討ちをかける。
「じゃあ今のサギリ先生の授業、要約してみ?」
「……え?」
キリスの表情が引きつる。視線を辺りに彷徨わせている。
「え〜っ……と……」
答えを探してか体を捻り教室の前方にある黒板に視線を移す。
「あ……」
しかし黒板に書いてあったサギリの整った字は、今まさに日直によって消されているところだった。既に半分以上が消えてなくなっている。それを見て小さく舌打ちをした。
「カンニングは感心しないな」
「!」
黒板を見つめる背中に、頬杖をつきながら声をかける。びくっと肩を震わせて振り返る。再び視線が合う。
「べ、別に、な何も見てねーよ!」
若干どもりながら言う。誰が見ても嘘を吐いていることがわかるだろう。
「(嘘吐くの下手なんだから、正直に言えばいいのに)……ふっ」
思わず少し笑ってしまう。
「な、何笑ってんだよ?」
突然笑い出した青年を、訝しげに見ている。
「悪い。何でもない」
「何か気になる……」
「気にすんなって。……と、まぁ授業の話はこの辺にしとくか」
ジト目で睨むキリスを放って椅子から立ち上がり、話を切り替えてやる。
「そ、そうか?」
逃げ道を与えられて安堵の表情が浮かぶ。再び吹き出しそうになったのを堪えてキリスを促す。
「昼食うんだろ?食堂でも行こうぜ」

ぐぅ〜……

「ぶふっ」
キリスが頷くよりも先に、腹の虫が返事をした。これはもう吹き出さざるを得ない。
「……あー腹減ったなぁ」
僅かに頬を紅潮させ、腹に手を当ててさすっている。先ほどの盛大な音といい、よほど腹が空いているのだろう。
「じゃあ行くか」
「おう!」
かたん、と椅子を自分の席に整えて歩き出す。
「あ、」
数歩も歩かないうちに、キリスが思い付いたように手を叩く。
「そうだ、セシル達も誘っていこうぜ」
教室の反対側の席に集まって談笑している数名の女子生徒達に、視線を送りながらシュウに提案する。彼は頷きながら柔らかく笑った。
「あぁ。オレも今言おうと思ってた」
「ははっ。なら話は早いな!」
「あ、シュウ!」
「キリス〜!」
視線に気付いた二人の女子生徒に声をかけられる。小柄で金髪をツインテールにした少女と、女子にしては長身で栗色の長い髪の少女が手を振りながら近づいてくる。
 小柄で華奢な少女はセシル・カルキ。金髪を結っている赤いリボンが印象的で、黒縁の眼鏡を掛けている。聡明さが滲む碧眼が二人の姿を捉えている。長身のすらりとした少女はユウナ・ワイス。栗色の髪は緩くウェーブがかかっていて、艶やかにふわふわ揺れる。彼女自身の雰囲気も、柔らかなものに感じられる。
「あぁセシル」
キリスが片手を上げて応える。
「二人ともお昼食べに行くの?」
「そうだぜ♪」
セシルの問いに機嫌よく笑って頷くキリス。その笑顔につられて少女も微笑む。
「キリスってば、お昼になると急に元気になるよね」
「ほっとけっての」
軽く悪態ついたものの、その表情は楽しそうなままだ。少女も楽しそうに続ける。
「ふふっ。ね、私達もお昼一緒してもいい?」
当初の目的だったのだろう。
「勿論だぜ!な、シュウ?」
彼女の提案を快諾した。その後、後ろにいたシュウを振り返る。
「あぁ」
返事をしたシュウの隣にユウナが並ぶ。170を超える身長を誇る彼と並んでしまえば、長身の彼女も小柄な少女に見える。
「オレ達もユウナ達を誘おうと思ってたんだ」
「そうなんだ!じゃあグッドタイミングだね♪」
シュウの言葉を聞いて、両手を胸の前で合わせてにっこり笑った。
「そうだな」
シュウも同意して頷く。
「そうと決まったら早く食堂行こうぜ!俺もう腹ペコなんだよ」
空腹を訴えるようにお腹をさするキリスが、先立って歩き出し3人を急かす。
「はいはい、じゃあ行こー♪」
そんな彼を慣れた様子で、セシルが軽くあしらいつつ、二人に声をかけてキリスの後を追う。





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