世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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02


 バチッ

「……えっ?」
突然、自身の魔力が何かに反応した。身体中の神経がざわめき始める。
「何だろう、この嫌な感じ……」
感じたことのないざわめきに不安を覚え、立ち上がりキョロキョロと辺りに注意を払う。街ののどかな雰囲気は微塵も変化していない。

――これが『天使の涙』……!

ほんの一瞬、聞き覚えのない低い声が、頭の中に響いた。
「……何、今の……男の人の声?……」
近くには誰も居ない。ざわめきが続く中、耳を澄ましても再び低い声が聞こえてくることはなかった。けれど、声の主が誰なのかよりも、言葉の中の単語が引っ掛かった。
「『天使の涙』って……まさか、」
少女は弾かれた様に振り返り、先ほどまで眺めていた人間界に意識を集中する。
「うそ、……無い……」
自身が管理している天界の秘宝の気配が消えていた。先程までは確かに存在していた。
「まさか……誰かに獲られた?」
でも、誰に?考えにくいが、思い当たるのは一人しかいない。
「……さっきの声の人?」
あの秘宝が納められている遺跡は、数多くの罠が仕掛けられていて、人間は愚か自分達天使ですら、奥に進むのは困難なのだ。しかも秘宝は守護獣が守っているはずだ。
「!」
真剣に秘宝の気配を探していると、察知することが出来た。秘宝はまるで、ひとりでに歩いているかのように、遺跡から離れてどんどん移動していく。
「やっぱり誰かが持ってるんだ!どうしよう…っ」
ぐるぐると思考を巡らせるも、焦りと動揺で有効な解決手段を見付けられない。
「そうだ、大天使様に相談してみよう……!」
自分だけではどうしようもない事態に、上司である大天使に相談し、指示を仰ぐことを思い付く。背中の翼をはためかせ、急いで街の奥の一際大きな建物を目指して空を飛んでいく。





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