世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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01


 ここは天界。遥か昔に起きた人間との争いの果てに、人間界と決別した天使達が作った世界。

 白い雲に囲まれる澄みきった青い空間。莫大な魔力によって、空界にしっかりとした地盤が雲に紛れて存在している。同じく魔力で保たれた健やかな緑が溢れ、天使達が暮らす建物や施設が立ち並ぶ。人間界を基本に作られた世界だから、根本的には似ているのかもしれない。ただ、空はいつも晴れており、決して雨が降ることはない。
 たくさんの小島のように大地は点々としており、ある程度区分けされている。それら全てを引っくるめて天界と呼ばれている。それぞれの区域に転移陣が設置されていて、その転移陣を利用して離れた大地を渡ることが可能。でも、重要な用事でも無い限り他の区域へ渡ることは滅多に無い。天界は人間界の上空に存在している。強力な魔力の結界によって、人間達から天界の存在が判別することは不可能だが、天使は人間界の様子を窺うことが出来る。

 天界の中のとある区域。大天使イリアが治める小さな街、トレアの外れで水色の綺麗な髪の毛をした少女が、雲の上に座っている。前髪を右に流し、左の大きな蒼い瞳だけでじっと雲の隙間を見つめる。首程の長さの毛先は外にハネている。
 グレーの柔らかな素材のジャケットを着ていて、首回りと袖は別になっており、華奢そうな肩が見えている。大きく開いた背中から白い翼が生えている。腰辺りに茶色の細身のベルトを付け、その下は中心から分かれている。膝上から足元にかけて段々と長くなり、その間からピンクの短いフリルスカートが覗く。分かれたジャケットの裾を後ろでひとつに纏めている。

 人間界は代わり映えもなく、眺めているだけではつまらない。ふぁ、と口元に手を当てて欠伸をひとつ。
「ハピィは仕事で居ないし、兄さんもどこかに出掛けて居ないし……暇だなぁ」
緩んだ涙腺から溢れた雫を拭いながら、再び退屈そうに雲の隙間を眺める。一緒に暮らしている兄は、数日前から出掛けている。同じく一緒に暮らしている親友も仕事で居ない。自身も時々「クエスト」と呼ばれる仕事で人間界に出向くことはある。自由がきかなくて行ったことのある場所は少ないけれど。
「人間界を自由に旅行とかしてみたいなぁ。その先で素敵な人に出会っちゃたりとか!」
くすくす、と空想を巡らせては楽しそうに笑みを溢す。
「あ、でもその相手の人が人間だったらどうしよう?……人間と天使の異種族間の禁断の恋?!」
天使が人間と一緒になることは赦されていないが、それを破ってでも人間と添い遂げる天使も、居たとか居ないとか。掟を破り人間と一緒になった天使は、天界から追放されてしまうとどこかで聞いた。
「その人を追って、駆け落ち同然に人間界に降りちゃったり!なんてねっ」
そう言って自分の頬を両手で覆う。少女の空想は、最早妄想へと変貌していった。





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