世界は未完のまま終わる | ナノ


Long novel


 世界は未完のまま終わる
 ―想いに終わりなんて、ない。
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04


「よし!邪魔は入らなそうだし、とっととこのガラスをどうにかするか」
コンコン、とガラスを強めにノックする。ノックの振動がガラス全体に伝わる。
「普通のガラスじゃねェな……まぁお宝を守るガラスだ。当然だな」
中の宝玉をちらりと見る。
「なら、どっかにガラスを外す仕掛けがあるはず」
ガラスを割ることを諦め、台座を隅々まで詳しく調べると、小さな鍵穴が一つ。
「……鍵、か……。あとは……」
台座の裏側ででこぼこした傷に触れた。
「ン?」
よく見ればそれは傷ではなく、刻まれた文字だった。それもただの文字ではない。
「あー、こりゃ古代語か」
大昔に天使達が使っていた言葉、それが『古代語』だ。専門家の間では『天使言語』とも呼ばれている。
「トレハンやってなかったら、読めなかったな」
幾つものお宝を手に入れる際に、暗号に古代語が使われていることも少なくなかった。必要に迫られ、青年は古代語を解読出来る様になった。
「えっと?……『宝玉を望む者、智を示せ』?……暗号か?」
薄れて読み難い文字をゆっくりと辿り、古代語を読み進めていく。
「『陽出づる場所に、其れは有り』?……陽……出づる……太陽が昇る方角か」
直ぐに意味を理解し、文字から目を離す。くるりと広い空間を見回す。宝玉や暗号に夢中になり過ぎて気付かなかったが、台座の奥には大きな扉が見える。
「太陽が昇るのは東だろ?……」
ふと、青年の動きと言葉が止まる。
「……………」
少しの間の後、青年は頭を抱えて口を開く。
「東ってどっちだよ……!」
地図を読むことが苦手な彼は、方角すらもあやふやのようだ。
「……つーか、オレは今どっち向いてンだ?」
うーんうーん、と考えては唸る。

「……ダメだ。考えたって、ちっとも分かンねェ……!」
頭を横に振って、ぐちゃぐちゃになった思考をリセットしてから、真っ直ぐ前を見る。
「片っ端から探せば、見つかるよな。多分こっちの方だろ」
正確な方角を考えるのを止め、自分の勘を頼りに暗号の示す場所を探る。そして、『陽出づる場所』とは真逆の方へ歩いていく。
「んー……それらしいモンはねェなぁ…」
当然、何も見つからない。遺跡の壁や柱など、隈無く調べる。台座の奥にあった扉は、押しても引いても開く気配はない。
「何だよこの扉。開かなきゃただの飾りじゃねェか」
不満気に溢しながら、青年は少しずつ探る位置をずらしていき、徐々に『陽出づる場所』へ近付いていく。
「……お」
何本目かの柱の裏の奥まった壁を調べた時、青年から小さな声が零れ落ちた。壁には台座と同じ様に文字が刻まれていて、その隣に木の枠に囲われた9つに別れた正方形の石板。
「古代語みっけ。それにこれは……?」
パッと見では何を表しているのか判らない。その石板を横目に、刻まれた文字を指でなぞる。
「……『歪んだ道を正し、……宝玉を守護せし者に武を示せ』?……」
暗号を一読し、頭の中で意味を整理する。
「お宝を守る奴が居るのは普通だけど……問題は『歪んだ道』の方だな。隣のコイツが重要そうだな」
そう言って石板をじっと見つめる。石板には文字が書かれている。
「これは……炎……ん?炎はもう一つあるのか。こっちは光、それに鍵、星、扉……」
石板の一つ一つを解読していく。
「天、珠……」
最後の石板を見て、流暢だった解読が止まる。青年の眉間に皺が寄る。
「……うー……この石板はちょっと分かンねェな」
石板の文字がほとんど掠れてしまって、読めなくなっているのだ。青年が首を傾げて、文字が掠れた石板とにらめっこを始めて数秒後。
「……ま、読めねェのはどうしようもねェし、一つくらい分かンなくても他が分かれば何とかなるよな!」
重要であるはずの石板の解読も、読めないと判ればきっぱりと諦めた。青年は臨機応変に行動していく。

「……それにしても、何のことだか見当もつかねェな」
並んでいる石板の文字に、法則性は見つけられない。石板に手を伸ばし、直接触れてみる。ごつごつした、どこにでもありそうな石質だ。
「特殊な石で造られたって訳でもなさそうだし……っと?」
触れた石板がぐらりと動く。それに気付いた青年が、石板を掴んで引っ張ると、簡単に壁から外れた。
「この石板、外れンのか……じゃこっちも……」
他の石板も試す。最初の石板同様、他の8つも外すことが可能だった。
「……なるほど。これはパズルみたいなモンで、各石板を正しい場所に嵌めりゃ道が開けるって寸法か」
石板の仕組みを理解し、頷きながら腕を組む。





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