事が起こったのは、それから二日後だった。いよいよカンベエさんの処刑が明日へと迫り、その場所と大凡の時刻も特定する事の出来た私達は、カンベエさんを救い出す最終的な手立てを考えながら街を歩いて居た。時刻は既に深夜を回った頃だろうか、一度路地裏へと入れば月明かりだけが頼り…そんな中、突然キュウゾウさんが足を止める。言われなくても解る、明らかな殺気が私達を取り囲むようにして近付いて来ていた。私はキュウゾウさんと背中を合わせる様にして、後ろへと注意を向ける。程無くして姿を現したのは、様々な武器を手にした男達。身体の一部が機械の者も居れば、見た目からは完全に生身と思しき者も居る。少なくとも明らかなのは、今まで相手にして来た様な野伏せりではないと言う事。では、この人達は一体何者なのだろうか。
 
「久し振りだな、キュウゾウ」
 
キュウゾウさんの前にいた男が薄笑いを浮かべながら言う。キュウゾウさんがそれにどういう反応を示したのかは解らなかったが、未だ刀に手を掛けるでもなく立ち尽くしている所を見ると、恐らくは表情一つ変わっていないのだろう。男が小さく舌打ちをするのが聞こえる。
 
「そこに居る娘を、御天主様が所望しておられる。大人しく渡して貰おうか」
「天主…?」
 
珍しく、キュウゾウさんが疑問符を投げかけた。私を探しているのはウキョウさんの筈だと、同じ疑問を抱きながら、私もちらりとキュウゾウさんの前に立つ男を伺った。男は笑みを浮かべながら言う。
 
「ウキョウ様だ。あの方は今や、亡くなった前天主に代わり新たな天主となられたのだ」
「…何故」
「貴様に教える義理は無い。娘を渡す気が無いのならば、力尽くで奪うまで!」
 
その言葉を合図に、周りに居た男達が一斉に襲いかかって来る。私は瞬時に目の前の敵へと向き直り、紅に手を掛けた。野伏せりとは違う鋭い攻撃を何とかかわしながら、跳躍して一時的に距離を取る。追撃を加えようと敵が飛びかかって来た所を狙い、すれ違いざまに相手の左肩から腹部にかけてを袈裟切りにした。肉を裂き、骨を断つ感触。断末魔と共に噴き出す血飛沫に震え出しそうになるの身体を必死に堪え、残る敵へと意識を切り替える。そうして私が二人を倒す頃には、キュウゾウさんの手によって四人が地に伏せており、残る一人…キュウゾウさんに声を掛けて来た男の首筋へも、キュウゾウさんの刀が宛がわれていた。
 
「言え、何故ウキョウが天主となった」
「…ウキョウ様が…前の天主の、複製だと解ったから、だ…」
「複製…、…あの、前の天主さんは、どうして急に亡くなられたんですか…?」
「そんな事、俺は知らねぇ…っ」
 
ウキョウさんが天主の複製であった事、それは偶然だったのかも知れない。然しそれが発覚してからすぐに前の天主が亡くなり、ウキョウさんが新しい天主になった…そこには何かしらの作為を感じずには居られなかった。けれどこの男がそれを知らない以上、今は確かめる術が無い。恐らくは私を執拗に探している理由も、知らされては居ないのだろう。私が沈黙した事を確認すると、キュウゾウさんは一度男の首から刃を離す。それに男が安堵した次の瞬間、その首は刎ねられた。キュウゾウさんの手によって。音も無くその場に倒れ込む男から、反射的に顔を逸らしてしまう。けれど数拍置いて、私はその光景をしっかりと見詰めた。ここで男を見逃してしまえば、今度はより多くの人数を引き連れてやって来る。もしかしたらマサムネさんにまで危害が及ぶかも知れない。これまでもマサムネさんの工房へと戻る時には尾行に細心の注意を払っては居たが、こうなってしまった以上、もう工房へは戻らない方が良いだろう。仕方が無かったのだと自分に言い聞かせながら、私は一度だけ静かに目を伏せる。キュウゾウさんは刀についた血を振るい落として鞘へと戻すと、私の様子をじっと見つめ、やがて一歩を踏み出した。
 
「行くぞ」
「…はい」
 
間も無く、騒ぎを聞きつけた近隣住民が様子を見にやって来るだろう。一刻も早く、此処を離れなければならない。これからは今までの様に顔を隠していても、表側を堂々と歩く事は出来ない。まるで本当の指名手配犯にでもなったかの様に重苦しい気持ちを抱えたまま、私は男達の亡骸を通り過ぎ、キュウゾウさんの後を追って行った。
 
 
第十六話、共に!
番外編 第十五話、企む!
 
 
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