Gothic


喫茶店にはいるとそこには黒い少女がいた。
金の髪に紫色の瞳。対照的に黒いワンピースが印象的だった。
白いレースがたくさんついた装飾華美なワンピース。
「お隣よろしいかしら?」
 特に込み合ってもいない喫茶店の一角でそんな話声が聞こえたのは麗らかな昼下がりだった。
フラグメントはいつもと変わらぬ作り物じみた笑みを少女に向けてこう答えた。
「ええ、どうぞ」
 少女は軽く会釈をして腰をかけると、間髪入れずに話しだした。
「あなた、雪は好き?」
 質問の意図も言わずに聞き始めた少女にフラグメントはただ答える。
「好きですよ。冬の夜に降る初雪は美しい」
 その答えに満足したのか少女はフラグメントを気に入り始めたようだ。
「そ う。万物を凝固させる冷気は美しいわよねえ?」
 またもや質問口調でフラグメントに話しかける。先ほどと違うところといえば内容とその笑みだけだった
「ええ、美しいと思いますよ」
 その答えに笑みをより一層深いものにする少女。
「全てを停滞させ頽廃的に飾り付ける冷気は至上の美しさよね」
 少女はなんの言いよどみもなく言い切る。
「凝固させ、融解し、霧散させる冷気は美しいわよね。では」
 そこで初めて少女が一息を入れる。
「ではそれに凍らされた人間は美しいと言えるかしら?」
 フラグメントは真剣な顔に一瞬なり、自身の答えを少女に告げる。
「僕は、凍る前の人間ならば美しいと思いますよ」
 あら、と少女は声を上げた。
「私とは違うのね。私は 人間なんてものを超越している冷気ならば美しいと感じるけれど
人間はそうでもないわ」
 見解の相違ね。と楽しそうに微笑む少女。
「ねえ、氷結という現象ははかないわよね?気温がマイナスにならないと起こりえない現象だものね
けれどもそういう儚いものにこそ美しさを感じてしまうのはどうしてかしら?」
 よく喋る少女だと、内心で思いながらフラグメントは紅茶を口にした。
「すぐに溶けて消えてしまう。すぐに自らの手で壊せるところに美しさをかんじるのではないのですかね?お嬢さん」
「そうかもしれないわね。凍らないものは粛清の対象。また溶けないものは乱れだもの」
 そうつぶやき彼女もアイスティーを口にした。
 外にはちらちらと雪が舞い始めた。
「寒く ないのですか?」
 当然といえば当然の問いだったのだが彼女は眉をしかめ席を立つ。
「とても楽しい語らいだったわ。またどこかでお会いしましょう」
「貴女は雪月花の……」
 彼女は唇に人差し指をあて静かに歩き去った。
――彼女は霜秋を従えし雪月花の皇女、
格子欠陥による命の塑性変化すら許さない零度の紫水晶、
それは、アモルファスなど認めない、一部の隙もない美しさ。
「だから、飽きないんだ」

詩「万物を凝結」より

(10/16)


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